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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第五章 戦国の武将(仮)として??

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第25話 なんちゃって衛生兵、いざ出陣!



 温泉でのぼせるより先に心臓が爆発しそうになったあの日から、俺たちの村は急に慌ただしくなった。


 楽田砦の調略が成功したとの報が届くやいなや、信長様は間髪入れずに犬山城攻めを決定したらしい。

 さすが、現代で「スピード&チャージ」を経営戦略にするような人は行動が早い。

 俺たちの手柄は、大森が不満を漏らした通り、ほぼ全てが武井様の功績として処理された。


 だが、そのおかげで俺たちは余計な注目を浴びずに済んだし、武井様からは「褒美は何が良い?」と聞かれたので、遠慮なく鉄や塩を大量にねだっておいた。


 ちゃっかりしていると言われようが、村の運営には必要なことだ。

 そんな俺たちの元に、犬山城攻めに向けた招集の命令が下った。


 もちろん、俺なんかが信長様や重臣たちが集う軍議に参加できるはずもない。

 俺たちにできるのは、来るべき戦に備え、後方支援の準備を万端に整えることだけだ。


「いいか、お前たち! 俺たちは医者じゃない! だが、怪我人を助けることはできる! そのための訓練は積んできたはずだ!」


 俺の檄に応え、「応!」と野太い声を上げるのは、いつぞやの山窩の男たちだ。

 彼らは今や完全に俺たちの村の一員となり、たくましく成長した少年二人を新たに加え、総勢十二名からなる「大森隊付属・衛生兵部隊」として生まれ変わっていた。


 元山窩なんて呼び方はもう失礼だろう。

 彼らは立派な、我が村の誇るべき専門部隊だ。

 衛生兵たちの武器は、槍でも刀でもない。


「嶺さん、木地師の連中が集められるだけのドクダミを確保してくれましたぜ!」


 大森が持ってきた麻袋には、独特の匂いを放つドクダミがぎっしりと詰まっている。

 これを煮詰めて超濃縮ドクダミ茶を作り、すり潰して軟膏もどきを大量生産していく。


 どこまで効果があるかは未知数だが、やらないよりはマシだ。

 まさに「なんちゃって傷薬」である。


 彼らの訓練は、より実践的になっていた。

 山で捕らえた猪や鹿、最近では稀にクマまでもが、彼らの縫合訓練の教材となっていた。


 解体する前に、わざと付けた傷を縫い合わせるのだ。

 おかげで古参の十名は、動物の傷なら手際よく縫合できるまでになっている。


 俺か?


 俺は……ごめん、ヘタレだ。

 血を見るのがどうもダメで、動物相手でもスプラッターな場面を想像して吐き気を催してしまう。

 とてもじゃないが前線で兵士の手当てなんてできそうにない。


「嶺さんは、どしっと構えているのがお仕事なのですよ」


 毎月こちらに来てくれる澄田さんや、茜さんにもそう慰められる始末。

 どうやら俺の仕事は、この衛生グッズの在庫管理と、皆を精神的に支える(?)ことらしい。

 CEOなんて聞こえはいいが、実態はただの置物だ。


 そんな俺たちにも、ついに清須からの招集がかかった。

 武井様からのお呼び出しとあっては、断るわけにもいかない。


 俺は今回の一件で俺たちの仲間となった、元楽田砦城代の打越三郎様と共に清須へと向かった。

 打越様は、犬山城攻めが終わるまでは、名目上は武井様預かり、実質的には俺たちと行動を共にすることになっている。


 一度、清須城下の武井様のお屋敷で合流し、そのまま清洲城へと登城する。

 武井様を先頭に、配下の侍、足軽と続き、その後ろを俺と打越様の部隊が進む。

 なんとも言えない不思議な行列だ。


 俺の隣には、なぜか一丁前に鎧兜に身を固めた大森。

 その後ろには、若草色に統一した作務衣に頭巾という、およそ戦場には似つかわしくない格好の衛生兵部隊十二名が続く。


「なあ大森、その格好、五月人形みたいだぞ」


「先輩、それはいわないおやくそくですよ。 形から入るのが大事なんすっから、形から!」


 少し前までは中村主水みたいだと言おうかと思ったが、なんか違う気がしてやめておいた。


 この異様な集団は当然ながら道行く人々の注目を集めたが、武井様の配下だと分かっているのか、ちょっかいを掛けてくる命知らずはいなかったのが救いだ。


 清洲城の二の丸に到着した俺たちを待っていたのは……「その場で待機」という、一番疲れる命令だった。

 武井様は打越様を連れて、さっさと信長様の元へと行ってしまった。


「さて、どうするかな」


 俺は衛生兵たちに命じ、木地師に作ってもらった組み立て式の椅子とテーブルを手際よく設置させる。

 まるで戦場のピクニックだ。


 周囲の武士たちが「何だあいつら?」と怪訝な顔で見ているが、気にしないことにした。

 待つことしばし。


 武井様と打越様が戻ってくると、間もなくして、きらびやかな鎧に身を包んだ信長様が多数の武将を引き連れて現れた。

 その場で「うぉー!」っと雄叫びを上げて全軍の士気を高めると、すぐさま出陣の号令がかかる。


 今度は武井様が先頭に立ち、犬山城の支城である楽田砦へと進軍を開始した。

 この時代の習わしで、最前線に近い領地の者が道案内を務めるらしい。

 というわけで、つい最近まで敵だった打越様が、織田軍の先導役となった。


 そして、その打越様が俺たちと行動を共にしているため、必然的に、俺たち衛生兵部隊も軍勢のかなり前方を進むことになってしまった。

 若草色の異様な集団が、物々しい鎧武者たちの先頭近くを歩く光景は、シュールとしか言いようがなかった。



 楽田砦に織田軍が無血入城し、いよいよ犬山城攻めの本陣が置かれる。

 信長様は、ここから全軍に采配を振るうのだ。

 砦がにわかに活気づく中、俺は大森と一緒に武井様に呼ばれた。


「嶺殿、大森殿、御館様がお呼びだ」


 武井様に連れられて向かったのは、陣幕が張り巡らされた砦の大広間。

 その上座には信長様が座り、居並ぶ侍大将たちと何事かを話し込んでいた。

 ピリピリとした空気が肌を刺す。


 武井様がずいと前に進み出ると、信長様は俺たちの方に視線を向け、直接、俺に命じてきた。


「先に命じた通り、今回は貴様らに『衛生兵』とやらの仕事をしてもらう」


 静かだが、よく通る声だった。


「わしは、貴様らの言う『衛生兵』というのがよくわからん。ゆえに、わしの見える場所で仕事をしてもらう。だが、それ以外はいちいちわしに許可を求める必要はない。好きに動くが良い。そして……できるだけ多くの兵を救ってみせよ」


 あれ?

 なんかイメージと違うぞ。

 もっと「是非もなし!」とか言って、逆らう者は斬り捨てそうな第六天魔王的な怖さを想像していたのに。


 俺に命じてきたその声と表情には、どこか兵を気遣うような優しさが滲んでいるように見えたから面白い。

 俺が信長様の意外な一面に呆けていると、隣の大森が肘で俺の脇腹をぐいと突いてきた。


 ハッとして、自分が返事をしていなかったことに気づく。


「は、はい! 我らの力の限り、精一杯、負傷した兵たちを助ける所存です! そのための準備も、十分に整えてまいりました!」


 俺の答えに、信長様は満足げに頷いた。


「うむ。貴様らの仕事ぶり、しかとこの目で見届けさせてもらうぞ」


 こうして、俺たち「なんちゃって衛生兵部隊」の、初めての戦が始まろうとしていた。


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