39話
「1,000」
サイトウは言った。
「はぁあ!?」
「その口の利き方はなんだ」
「だってゴミひとつになんでそんなお金払わなきゃいけないのよ!」
「なんで?ここにあるのは全部俺のもんだ、それが欲しかったら金を払うのが当たりまえだ!世間の常識ってもんだ!」
「だからって1,000ゴールドなんて!」
「全く世間の常識ってものを知らんのかガキ!」
「なによ偉そうに!」
「なんだ!ガキだからって容赦しないぞ」
ハルカに向かって振るわれた右手をヒカリが止めた。
「なにしてやがるこのガキ!」
「そちらこそどういうつもりですか」
「うるせえ!うるせえクソガキ!」
ゴミ処理場、通称ゴミの島の主であるサイトウが手を振り払おうと思いきり力を籠めてもつかんだヒカリの手はピクリとも動かない。
「このガキ、ガキが!」
「どういうつもりですか」
「うご、やめ、やめろぉお」
掴かまれた右手からメキメキという音がしてサイトウの顔は苦痛にゆがんだ。
「どういうつもりですか」
「離せ、はあなせええ」
なおも続く強烈な痛みにサイトウは体を捩る。
「わかった、謝る、謝るから話してくれ、金なんか要らねえ、好きなだけ持って行ってくれ、頼む、頼むから離してくれぇえええ」
「………」
ヒカリが手を離すとサイトウはぜいぜいと大きく呼吸をしながら無事な左手で手首を摩る。
「ありがとうヒカリ」
「てめぇえ」
サイトウが睨みつけるがヒカリに一切の動揺は見られなかった。
「ねえ、もう行こう」
「そうだ、もう用はねえんだろ、とっとと行きやがれ!」
ヒカリは自分の腰に巻き付けている財布から銀貨を一枚取り出すと古びたテーブルの上に置いた。
「これでいいですか」
「そんなもんいらねえ!とっとと失せろ!」
サイトウは顔を真っ赤にしながら激高した。
「ねえ」
ハルカの声は震えている。
「わかった」
ヒカリはサイトウから目を離すことなく、ハルカに建物を出るよう促した。
ガチャリと扉の閉まる音がして二人のいなくなった空間。手首を摩りながらサイトウは恨みのこもった目で扉を睨みつけていた。
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「ほんっと怖かった」
ハルカが後ろを振り返りながら言う。
「何あいつ………でも助けてくれて助かったわ」
「ヒカリって案外強いのね」
「そんなことないと思うけど。すごい遅かったから簡単につかめたよ」
「私にはすっごく速く見えた。叩かれるっていうのはわかったけどそれだけ、何もできなかった」
ハルカがヒカリの顔をまじまじと見つめる。
「どうしたの?」
「なんか知らない人みたい」
「だってボクたちさっき会ったばかりだよ」
「そういうことじゃないの。だってヒカリは子供で相手は大人だよ、なんで怖くないの?あの人あんなに怒ってて、わたし怖くて震えてた、それなのにヒカリは全然そんなことなさそうなんだもん」
「ハルカだって最初はそうだったよ」
「そうだったかしら」
「すっごい言いあってたよ」
「そうだったわ。言われてみればそうだった」
「ね」
「そうかーそれじゃあそこまで不思議でもないっか」
「それより………なんか嫌な感じがする」
「なに?」
「走って!」
ヒカリはハルカの手をつかむと走り出した。
「ねえ!どうしたのヒカリ、どうしたのよ!」
「後ろ見て、追いかけられてる」
驚いたハルカが振り返ると薄汚れた服を着た数人の男たちがゴミの山の影に隠れながらこちらを見ていた。
「気づかれたぞ!捕まえろ!」
走り出した二人に気が付くとゴミの山から飛び出すように出てきて走り出した。
「どうして!」
「多分あの男だ」
「もう最悪最悪最悪」
パニックに陥ったハルカが気が付くと今自分がどこにいるのかが全く分からなくなっていた。
「ヒカリ!」
「こっちだ」
そんなハルカの手を引きヒカリは右に曲がった。
「ボクが覚えているから大丈夫」
良かった。
ハルカがほっと胸をなでおろすと後ろから声が聞こえてくる。
「捕まえろ」「1万だ」「あいつらだ」「待て」
怖くて後ろを振り向くことはできないがその声はさっき見たよりも大勢いるように思える。
「あっ」




