29話
「泥棒ーー!!だれか!誰か助けてください!」
子供の叫び声が月夜の深夜に響き渡った。
ヒカリは走り出していた。考えるよりも前に体が動き出していた。
「誰かー!だれ」
声が途切れた。ヒカリは歯を食いしばり少しでも早くと走る。こっちのほうから聞こえたはずだ、お願いだ合っていてくれ。
子供が体を九の字に曲げた状態で倒れていた。隣には全身黒色の服を着て目出し棒を被った大柄の男。
目が合った。濃密な暴力の香り。全身が痺れるような感覚。
「た…たすけて……」
助けを呼ぶべき?それとも子供を抱えて逃げる?どうすれば。
男が剣を抜いた。刀身に骸骨の光が反射して怪しく光る。逃げれない、逃げれば子供が。
ザッ、という音と同時に男が距離を詰めてきた。
早い。普通では考えられないくらいの加速。
「だれか…」
視界の遠くに微かに映ったのは立ち上がろうとしている子供の姿。その口からは血が流れている。けれどまだ諦めてはいない。理不尽を阻もうと、及ばないと分かっていながらもなお立ち向かう姿だった。
溢れ出す気力。
子供が頑張っているのに自分が頑張らないわけにはいかない。
左ポケットに入れていたナイフを取り出し鞘を投げ捨てる。
やる。
決めたとたんに力が湧いてくる。
よく見れば全く早くはない、わざとゆっくり動いているように見える。
後ろに下がる?横に避ける?
違う。
ナイフの距離は短い、それなら前に突っ込む。
踏み込んだ右足が爆発的な力を生み出していることが周囲の流れる景色で分かる。
心は落ち着いている。
相手の動きはゆっくりだ。まつ毛の数まで数えれるんじゃないかと思ってしまうくらいだ。相手は目を見開いている、予想外な出来事に驚いているんだ。これならいける。
左足で地面を蹴る。さらに加速する。
あれほど恐ろしいと思っていた相手の剣が全く怖くない。たぶんこれが自分に当たるということなどありえないと思っているからに違いないと考える。
左手のナイフが手に吸いつくように馴染んでいる。
ナイフの距離に入った。
躊躇いはない。わかっている、何も問題はない。
さらに時間がゆっくり流れているような気がする。
交差。
腰を落とし体にブレーキをかけた。
「ふぅ……」
一息つき振り返ると男には頭がなかった。
イメージ通りだった。
首からシャワーのように血が噴き出した。
ゆっくりだった時間が元に戻っていた。振り返って子供のもとに歩く。子供はこちらのことを見ながらも腹部を抑えながらどこかへ向かって歩いていた。
どうやらまだ危機は過ぎてはいないようだった。
「助けてくれてありがとうございます、でもまだ中に泥棒が」
子供が建物を指さす。
「君は」
この子供は見たことがある。わかった、紹介の帰り道でボクたちのことを監視していて
見つかったとたんに逃げた子供だ。
「わかった、行こう」
ヒカリは歩き出す。
その背に空に浮かぶ骸骨が怪しい光を照らしていた。
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