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16話 -奇跡-

 


「シミズ!」


 振り向くとシミズの左足が、左足だけがしぶきと共に宙を舞っていた。


「マズい肉だ」


 口を真っ赤に染めた化け物が満足そうに血の霧を吐いて言った。


「うおおおおおおおお!」


 俺は両足に力を籠め一直線に向かう。シミズの苦しむ顔がはっきりと見える、両手で食いちぎられた足を抑えながら倒れていくのが目の片隅にゆっくりとした速度で見えた。


 あの出血量はまずい、この一撃で魔獣をたたき切って即座に縛らなければ生きる望みはない。ここで力を使い切ってもいい、何としてでも叩き切る。


「待ってください!!」


 聞き終え覚えのない声が聞こえたが俺の体は止まらなかった。子供のころから何度も何度も繰り返した軌道で、コツコツ金を貯めて買った剣で、持ちうる限りの力を込めて。


 魔獣の体を切り裂いた。



「ぐああぐっががが……」


 小さく後ろに一歩だけ下がり憎しみのこもった目で一直線に俺を見ながら、魔獣は背中からゆっくりと倒れていった。


「あっ……」


 その声のほうを向くと小さな子供が驚いた顔をしていた。


「お前は」


「隊長!シミズのやつが!」


「縛って血を止めろ!」


 ハッと我に返りシミズの応急処置を始める。なんで子供がいきなり現れたのかは疑問だがそんなことにかまっている余裕はない。


「隊長、その子供、あの時あそこにいたやつです。魔獣と一緒に………」


 真っ青な顔のシミズが振り絞るように言った。切断面にはすでに薬草が塗られているがそれを押し流す勢いで血は溢れ出ている。


「シミズ、もう喋らなくていい」


「隊長…やっぱ隊長はすげえなぁ………あんなバケモン叩き切っちまうんだからなぁ、すげえなあ、ほんと、隊長は、やっぱ、」


 瞼がだんだんと下がっていく。まるでその体から魂が抜けていっているようだ。


「気をしっかり持てシミズ!」


 ハッ…ハッ…ハッ…


「シミズ」


 呼吸が弱くなっていく。


「なに?」


 大きくはないがはっきりと聞こえる声がした。意識せず振り向いてしまったそこには薄いベールをまとった美しい髪の美しい少女がいた。


「天使だ………」


 それは自分の声だったのか、それとも誰かの声だったのかわからい。


「白銀さんお願いします、彼を」


 子供は少女のもとに走り寄って何かを懇願しているようだった。


「彼を治してあげてください」


 治す?不可能だ、どんないい薬を使ったところ、どんないい医者だろうがこの窮地からシミズを救うことなんかできないはずだ。


「なぜ?」


「お願いします白銀さん」


「ん…」


 天使!?もしかして本物の天使様なのでは?突拍子もない考えが弾けた。


「お願いします、どうか、どうかお願いします天使様、こいつは子供のころからの付き合いで、親友なんです、結婚したばかりの嫁も、腹の中に子供もいるんです、このまま死なすわけにはいかないんです、どうか、どうかお願いします」


 気が付くと皆も同じように跪いて頭を下げていた。


「俺たちにできることなら何でもします、どうか、どうかシミズの命をお助けください」


「僕からもお願いします」


 お願いします、お願いします天使様。


「いいよ」


 突如として視界が黄色い光に包まれた。


「はっ!」


 顔を上げると周囲一帯はその光に覆われぐったりと倒れているシミズのもとに滝のしぶきのような小さな白い光がキラキラとゆっくりと降り注いでいた。


「奇跡だ………」


 暖かい涙があふれだしていた。


 わずかにシミズが動いた。


「シミズ!」


 慌てて駆け寄ると死人のようだった顔にうっすらと赤みがさしていくのが見えた。


「う…」


「シミズ!シミズ!戻ってこい、天使様が奇跡を起こして下さっているんだぞ」


 白い光はシミズの全身を包んでいる。


「隊長……」


 シミズの目がゆっくりと開いた。


「シミズ!」


「痛いですよ隊長……なんで抱き着くんですか、抱き着かれるならマリアって決めてるんですよ俺は」


「何バカなこと言ってんだ」


「痛っ叩くことはないでしょ。なんかでっかい川をもう少しで渡りきるとこだったんですから、痛てえなあ、すんげえ痛てえですよ」


「天使様」


 振り向くとそこには子供、少女、そして長身で黒髪の男がいた。


明日も更新予定です。


評価、ブクマ頂ければやる気が出ます。


よろしくお願いします。


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