風紀委員長の休日そして休日の生徒会 <改>
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◇ ◇ ◇
ボクは風紀委員会委員長のヒノ・シアール。ボクたち風紀委員会は、学園の生徒たちを守る役割ももっている。今日は休日だが、街の中で学園の生徒がトラブルに巻き込まれた場合、ボクたちが出ていくことになる。できればトラブルなんて起こして欲しくないけどね。
だけどそういうときに限ってトラブルはあるもので……。
「おい、お前、俺を馬鹿にしてるのか!」
「そ、そんなことないです」
あそこで言い争いをしているのは、うちの生徒と……あれは騎士学校の生徒か。
騎士学校というのは、その名の通り騎士を養成するところだ。
騎士と、魔導師の違いは何を相手にするかということである。魔導隊が主に魔物を相手にするのとは違い、騎士団は主に対人戦を想定した部隊だ。街中の治安維持や街道に現れる盗賊の対処が仕事である。
魔導学園からも毎年騎士団に進む人が何人かいる。魔導学園出身者は魔法主体の戦闘をする。騎士にも魔法が使える人は多いが、威力、射程ともに魔導師ほどではない。遠距離から敵を減らせばその分味方の被害も減るのは当たり前のことだ。だから魔導師は重宝されやすく、出世もしやすい。その事から騎士学校と仲が悪い。
「お前ら魔導学園の生徒はいつもそうだ! 俺たち騎士学校の生徒を下に見て!」
残念ながら、そういった振る舞いをする勘違い野郎が毎年いやがります。だからといって全員が全員そうだと思ってもらっては困りますね。
「一体何が原因で言い争っていやがるのです?」
「それは……「こいつが俺にその飲み物を溢してきたんだよ!」
「私のせいじゃないんです」
「謝れば弁償しなくていいのか? 俺の服が台無しだろうが。俺の飯まで駄目にしやがって」
「それはあなたがぶつかってきたんでしょ!」
どうやら騎士学校の生徒が食べ物を持って歩いていたところ、うちの生徒がぶつかって食べ物を落とし、さらにうちの生徒が持っていた飲み物が騎士学校の生徒にかかったらしい。
こんなことは結構ある。魔導学園の生徒と言うだけでかなりの実力者ということがわかるだろう。魔導学園に通っている人は国から補助金が出てくる。これは将来有望な魔導師を確保するためとか。つまりどういうことかといえば、金目当てに絡んで来る人はよくいるということだ。
「おい、お前からも何とか言えよ!」
「イヤですね」
「何?」
「アンタは嘘をついていやがりますね?」
「な、何を言ってんだよ。 言いがかりはやめろよ」
「ボクには分かるんですよ」
「意味わかんねえよ!」
ボクにはこの男が嘘をついているのが分かる。それがボクの能力の一つだから……。
「いい加減にしろよ、このガキ」
……言ってはいけないことを言いやがりましたね。コイツに容赦は要らねーですね。というか絶対容赦なんかしてやるわけねーですよ。
「罪を認めないならしかるべき場所へ連れていって、真偽を確かめましょう」
「だから何の根拠があって言ってんだよ」
「ならば来てください、第三魔導学園には【心読み】を持っている人がいますから」
「クソッ!」
男が突然走り出そうとしました。逃げ出す気でしょう。だけどボクにはすでにそれが視えていましたから、手は打ってあります。
「ウワッ! なんだよこれは!」
ボクのメイン武器はミツルギ先生との模擬戦で使ったのと同じように大鎌です。しかし街中や学園で振り回すには物騒過ぎますからね。だから普段は鎖を使っています。ボクの属性魔法は風ですから、それを使って十メートルある二本の鎖を制御します。
「では、一緒に来てもらいましょーか。キミも来てもらいますよ」
「ふぅー」
彼らを騎士団の駐屯地に連れていって後を任せました。あの男は騎士団の方から厳重注意となることでしょう。まったく、他人に難癖つける暇があるならば自分の力を高めるべきだと思うのですがね。
風紀委員長であるボクが街へ出ていた理由は、パトロールついでに今人気のお菓子を買ってこようと思ったからです。職権濫用? そんなこと知りません。ちなみにそのお菓子は、あの生意気な生徒会長がこの前食べていたものですが、別にあれを見て食べたくなったわけではありませんよ。ホ、ホントウデスヨ……。
目的のお菓子も買って、現在は風紀委員会室に戻って来ました。ボク自身の休日の仕事はあまり多くありません。委員長として部屋にいることくらいでしょうか。暇なんですけど、何かあったときにすぐ動けるようにしています。明日はミヅキがこの役目をしてくれるのですが、ミヅキはどうやって暇を潰してるのでしょう?
ダラダラ過ごしていたところ、風紀委員の一人が報告にやってきました。
「第四学年魔物討伐演習の定時連絡の報告ですが、やはり魔物の数が少ないようです。」
「分かった。先生に報告頼むよ」
今年度最初に行われた第五学年魔物討伐演習でも、魔物と遭遇することがほとんどなかったとの報告を受けています。これは一体どうしたのでしょうか。
今こことは離れた場所にいる四年生と連絡をとることができるのは、四年生の風紀委員に【念話】の先天を持っている人がいるからです。
「何も無ければいいんですがね……」
ボクにはどうにも嫌な予感がするのです。
◇ ◇ ◇
今日は休日。しかし御劔 悠の気分は最悪だった。
(子どもたちと過ごせる日。私はそう思っていたのに……)
「何で今日仕事があるの!?」
「申し訳ありません。ですが先生がいないと、どうしようもありませんので」
「それは分かっているけど……」
本当は悠以外の先生が担当するはずであった今日の監督官。この学園は魔法の練習をできるように演習場を解放して、休日の間自由に使えるようにしてある。万が一の事態に備えて先生が一人待機するようになっているが、今日に限って担当の先生がどうしても外せない用事が入ったとのことで悠に回ってきてしまったのだ。
「お母さんも大変だね」
「うん、でもぼくはお仕事しているお母さん、カッコよくて好き!」
「わたしも!」
ルイとネルは悠の仕事をしている姿珍しいのだろう。家では二人に甘い悠であるが、仕事中の凛とした姿を見て、歓声をあげていた。
どうして二人がここにいるかというと、突然のことだったため誰かに預かってもらうこともできず、悠が連れてきたからであった。
「お母さんと遊びたいかもしれないけど、ごめんね」
「大丈夫だよ、お仕事だから仕方ないもんね」
「おかあさんのじゃましないで、いい子でまってる!」
「そっか、二人は偉いね」
「誰かに見習わせたいくらいね」
アキホとトウワが二人の面倒を見ている。二人は自分たちから進んで二人の子守りを引き受けていた。
(正直言ってすごくありがたいです)
流石の悠も子どもたちに気を配りながら、監督官は無理であったため、役員たちの親切はとても嬉しいものであった。
(というか、そんな風に先ほどのお母さんカッコいいという言葉だけで私は頑張れます。マジでうちの子どもたちは天使!)
やはりただの親バカのようだ。
「先生ってもう子どもいたんですね。見た通りの年齢では無いのは知ってたけど、こうしてみるとやっぱり変な感じです」
「あれで先生はとてもいい母親なのですわ」
「というか、さっきから子どもたちを見ている顔が普段の凛としたものとは別物なんですけど……」
(あぁ、何かハルカとリョウカが話しているけど何でもいいや。いや、もう、やはり私の息子と娘はこんなに可愛い!)
なかなか現世に戻ってこない悠であった。
「そういえば会長は?」
「シキちゃんなら向こうで模擬戦をしていたよ」
ここに生徒会役員が集まっているのは、決して悠が休日出勤の腹いせで集めたわけではなく、元々ここで訓練していたのを見つけただけである。
「会長の模擬戦、見に行ってみませんか?」
「いいですわね」
役員たちは、ハルカの提案でシキの模擬戦を見に行くことになった。
演習場はいくつかのブロックに別れている。ここはDブロック。役員たちが着いたときにはもうすでに模擬戦は始まっていた。
シキの相手は五年生である。
「食らえっ、【ウォーターシュート】!」
五年生が水の弾をシキに向かって放つ。しかし、シキには当たらない。避けたと同時に相手の懐へ潜り込み、相手の腹に拳を叩き込む。だが相手も寸前で水の膜を張って衝撃を軽減した。そのまま距離をとって仕切り直しとなった。
「かいちょーすごいね」
「ええ、そうですわ。会長はすごいんですの」
「でも、会長の攻撃に合わせて防御したあの五年生もすごいですよ」
「あら、ハルカは知らなかったっけ? あの人は第五学年の風紀委員なのよ」
「それで……」
「【ラビットパワー】」
風紀委員が叫んだ言葉がキーワードだったのだろう。風紀委員は目に見えて動きが変わった。発現の言葉から推測するとウサギの化身を使ったのだろう。
「ハッ!」
圧倒的な跳躍力でシキの背後をとり、魔法を使う。突然のことにシキの反応が遅れる。
「【ウォーターウィップ】」
水の鞭を振るいシキに間合いを詰められないようにしている。シキは素手での格闘が最も得意である。このまま間合いを詰められないのは厳しいだろう。
「クッ!」
一瞬の隙をついて間合いを詰めるシキ。しかし化身によって強化された蹴りによって吹き飛ばされる。
「会長!」
ハルカが悲鳴をあげる。しかし他の役員たちは落ち着いている。
「ハルちゃん、よく見て。シキちゃんはギリギリのタイミングで後ろに下がったからそこまでダメージはないはずよ」
トウワの言う通り。シキの反射神経には悠すらも随分驚かされたのである。だから近接格闘術と相性がいいのだろう。
「なかなか強いね。じゃあこれはどうかな? 【フレイムエンチャント】」
シキの両腕に炎が巻きついていく。そしてその腕で水の鞭を弾き、一気に距離を詰める。
「しまった!」
シキはそのまま零距離で魔法を放つ。
「いっけー、【ファイヤーランス】!」
決着がついた。作戦は良かったがシキの手を全て封じたわけではないので、距離をとったあとの攻撃で仕留めきれなかったことが敗因だろう。
「かいちょーカッコよかったよ」
「ネルちゃん、ありがとー」
「会長って強いですね」
「一応魔導学園生徒トップ五には入るからねー」
毎年七の月に行われる魔導学園トーナメント戦。シキは去年二位だった。
「そういえば何でルイとネルがいるのー?」
「それはですね、先生が急に来なければならなくなったので、預かってもらえる人がいなかったから連れてきたそうです」
少し反応が遅いシキに律儀にも答えるアキホ
「そういえば、アタシ皆さんの戦い方を見たことありませんでした」
「そうね……いっそのことこれからみんなで模擬戦してみない?」
「面白そうですわ」
「私も乗ります」
「負けないよー」
「ア、アタシもです」
役員たちは模擬戦をする気満々である。
(私も監督官として、仕事しましょうか)




