とある男子生徒の話 <改>
下手ですが、よろしくお願いします
この国の国境は、チャリア帝国側が樹海に、エジンリア皇国側が巨大な湖になっている。樹海を突き抜けるように一本、湖と海に挟まれるようにして一本の合計二本の道があり、そこを通って国交を結んでいる。
魔物討伐演習は、樹海側の道沿いに出てくる魔物を狙って戦う。特に強いわけでもなく、危険度が少ないことと、道の安全性が高まることは良いことであることから毎年行われている。今年は第五学年が新年度最初に行い、第四学年が、この五の月の最終日から一週間程度行うこととなっている。
生徒会室は、現在非常に厳しい状況にあった。
「終わらないよー!」
「そうだね、シキちゃん。でも何か言う暇があるなら少しでも手を動かしてね」
ただでさえ通常業務で忙しいのに、今年は風紀委員の仕事を行わなければならないことが、仕事の量を増やしていた。
「これ、なんとかならないんですか?」
「どうしようもないわね……」
ハルカの泣き言ももっともだと思われる。この量をこなすには、もう少し手が欲しいところである。
「先生」
「どうしたの? リョウカ」
「この際、あの人に頼むのはどうでしょうか」
リョウカの提案を聞いた役員たちは納得の表情をしている。
「あの人って誰ですか?」
ただ一人、話が読めないハルカの問いにアキホが答える。
「便利屋ですよ。学園の」
「実際に会った方が早いでしょ」
悠も悩んでいたようだが、今は猫の手も借りたい状況だ。
「リョウカ、アイツ呼んできてもらえる?」
「了解ですわ」
「私がいきましょうか?」
『それはダメ!』
アキホが動くと絶対ろくなことにならないことを身をもって理解している役員たちは、ここぞとばかりに声を揃えて言った。
しばらくして、生徒会室の扉が開いた。
「先生、俺に何か用ですか?」
「風紀委員の仕事の手伝い任せますよ」
「一応聞くけど、拒否権は?」
「無しに決まっているでしょう」
現れたのは金髪の少年。彼こそが、第二学年の中でも屈指の実力者、というか学園でもトップクラスの戦闘技能を持つ生徒。トウヤ・イザヨイ。学園長の息子である。
ハルカは悠に問いかける。
「それで、結局どなたですか?」
「彼は学園の便利屋のようなことをしている、トウヤ・イザヨイ。依頼をすると、気分で解決してくれる人。面倒くさがりなので、なかなかその気にならないところが欠点ね。実力はかなりのものなので様々な人から依頼を受けているの」
「へぇ、凄いですね」
「まぁ要するに、学園トップクラスの実力をもつパシリ」
「あげて落とされた気がするんだけど……」
納得したのかハルカはまた仕事に戻った。
「それで? どうするの?」
「……わかりました。風紀委員会のところに行ってきます」
「頼んだよ」
トウヤは少し考えた後、何故か悠の方を窺ってから、依頼を引き受けた。
この日は、生徒会の業務で一日が終わった。しかし明日からは休日である。
(明日は休日です! 子どもたちと一緒にのんびりしましょう!)
当然のごとく悠は二人の子どもたちと過ごす休日を思い浮かべて、悦に入っていた。まさかあんなことになるとはこの時の悠はまったく考えていなかった。
◇ ◇ ◇
俺は、トウヤ・イザヨイ。今日は俺とあの先生との出会いについて少し話そう。
あれは、第三魔導学園に入って最初の戦闘技能の授業だった。
「楽しみだよな」
「この学園出身の戦闘魔導師は、毎年優秀だって話だしな」
「どんな人が指導官なんだろうな?」
周りの奴等が言っているように、この学園の出身者は国の魔導師部隊に所属する事が多く、非常に使える人材を出すと言われている。他国にある他の魔導学園と比べてもここの出身者は優れている。というのも、戦闘指導官がとても優秀ならしいのだ。これはジジイが言っていたから間違いない。ジジイというのは学園長である。ジジイの強さは俺もよく知っている。そしてあのジジイは滅多に人を誉めない。だからジジイが珍しく称賛していたその戦闘指導官、ソイツがどんなやつなのか俺は結構興味があった。
俺たちが演習場で待っていると、巫女服を着た少女が入ってきた。彼女は刀を持っていて、その闇のように黒い髪を紐で束ねてポニーテールにしていた。整った顔立ち、均整のとれた身体、その場にいた男子生徒の目を思わず釘付けにするような美しい少女だった。
「あの……あなたは何年生ですか? 今から俺たち一年生がここを授業で使用するんだけど」
見たところ俺たちと同い年くらいの少女に、一人の男子が話しかけた。
「私は……」
ソイツはとんでもないことを言い放った。
「私は、戦闘技能の授業を受け持つ戦闘指導官、ユウ・ミツルギです」
『…………』
一瞬の静寂。そして……
『えぇーっ!』
「嘘だろ? 俺たちと同い年くらいじゃないか」
「冗談にしては性質が悪いよね」
「本当なのかなぁ?」
確かに冗談にしか聞こえない。今年から新任の奴にでも変わったのか?
「お前が先生? 馬鹿言ってんじゃねーよ」
今あの少女に突っ掛かっているのは確か、どこかの貴族の息子だったはず。きっと随分と甘やかされて育ったのだろう。
「さっさと本物の先生を連れてきたらどうだ? それともお前がオレとやり合うつもりか?」
腐っても貴族の息子だ。幼い頃から魔法の英才教育を受けてきたはずだ。俺も知り合いに使っている人がいなければ知らなかったであろう、使い手が限られている武器[刀]を持っていることからある程度の実力はあるのだろうが……。貴族に平民が酷い目に遭わされるのを黙って見ているわけにもいかない。気は乗らないが、助けてやるか……。
「おい、その辺で止めとけ」
「お前何様だ? オレに指図するとは!」
「俺はトウヤだ。トウヤ・イザヨイ」
「お前が、アイツに変わってオレの相手をするのか?」
面倒だけど、すぐに片付ければいいか。そう思ったとき、少女は言った。
「そこの調子に乗っているお坊ちゃん、いい加減にしてもらおうか」
せっかく俺が助けようと思ったのに、何台無しにしてくれてんだよ!
「トウヤといったか? お前も喧嘩を吹っ掛けるなよ」
「なっ!? 俺は……」
俺が文句を言おうとしたとき、
「上等だよ、痛い目見せてやるからな」
最悪だ……。
他の生徒は観戦席に座らされた。
「何で俺が?」
俺は今から行われる模擬戦の審判をすることになっていた。
「まぁ、そう言わないで」
お前が、喧嘩を買うからこうなっているんだよ!
……あきらめて始めるとしよう。
「開始っ!」
バチッ
俺に見えたのは紫の閃光だけだった。気づいた時には既に男子生徒は地に倒れていた。
「……は?」
今、何が起こったのかを正確に把握していた者はこの場にいなかっただろう。それほどまでに一瞬だった。もう誰もユウ・ミツルギの実力を疑うものはいないはずだ。
「お、おい、今何があったか分かるか?」
「気づいたらアイツが倒れてやがった……」
「どうなってるの?」
そんな生徒たちを見渡して彼女は言った。
「改めて言います。私が戦闘指導官のユウ・ミツルギです。君たちに戦い方を教えましょう」
教訓:見た目で判断することなかれ
深く心に刻まれたよ……。
この瞬間から、俺はこの先生には逆らってはいけないと思った。もうそれは本当に……。




