第7話
アッシュ達は海沿いの街道を車で走っていた。
青天の中を目的地に向かってひた走る。
窓を開けていると、潮の香りが漂ってくる。
海を眺めていると海獣が海からジャンプして水柱を立てている。
「もう、数時間すると日も暮れるし、今日はトランクの家で夜を過ごす事になるな」
運転中のマックが2人に声をかける。
「マックがいろいろ準備してくれてたよね」
「ああ、中はかなり広いぜ。2階にはそれぞれの部屋もあるぞ」
3人を乗せた車はどんどん進んでいく。
日が落ちる頃、道の脇の休憩所に車を停めた。
「さあ、入ってくれ」
トランクを開けると手すりが伸びてくる。
足元には台も出てきた。
アッシュ達は梯子を降りていくとそこはまさに家だった。
広いリビングにキッチンもあり、お風呂やトイレ2階には個室が並んでいる。
「凄いわね!」
「ホントに家なんだ」
「明かりも水も全て魔導機関で管理してる。万が一に閉じ込められても近くの場所に転送されるから心配無用だ」
マックの説明を受けながらアッシュはキッチンに向かう。
「冷蔵庫もあるんだ」
「ああ、地下には食料庫もあるし、冷凍保存も出来る」
「早速何か作ってよマック!」
クロエがソファーから声をかける。
「おう、任せとけ」
クロエにそう答えてマックは調理に入る。
「テレビもあるから見てていいぞ」
「ありがとう!」
返事をそこそこにクロエは早速テレビをつけていた。
冷蔵庫を見ているマックを見て、アッシュはふと思った。
「マックはお母さんみたいだね」
「はっ?ゴホッ、ゴホ。アッシュ何だよ急に?」
「何だかんだ言ってもいろいろお世話してくれるし、懐も深いし」
「褒めても料理は速く出来ないぞ」
「ふふ、そんなんじゃないよ」
「いいからテレビでも見てろ」
「了解」
3人でご飯を食べたりのんびりとテレビを見たりとその日の夜はゆったり過ごしたのだった。
次の日アッシュ達は休憩所を出発し、ライゼラへの旅を再開した。
「昼はダイナーで済ませて、ライゼラでの吸血鬼の噂とか聞いてみようぜ」
マックが2人に声をかける。
「ダイナーからライゼラまでは3時間くらいだし何か情報あるかもしれないわね」
クロエがタブレットを見ながら言う。
「そうだね」
一行はしばらくすると道沿いのダイナーに到着した。
「ん~!」
クロエが背筋を伸ばす。
「たまにはダイナーの飯もいいな」
「マックのご飯もウチは好き!」
「俺も」
「はいはい」
3人はダイナーに入っていった。
「いらっしゃい!空いてる席にどうぞ」
店内はそこそこ賑わっていた。
ハンター達も数グループいる。
「ありがとう」
3人で席に着く。
「あの人達も吸血鬼の依頼かな?」
クロエが小声で聞いてくる。
「銀の装備を持っている奴らもいるから、全員ではないかもだけどそうだと思うよ」
アッシュの言葉にマックも頷く。
しばらくすると店員が注文を取りに来た。
「注文は何にします?」
3人はそれぞれ注文してからライゼラの事を聞くことにした。
「ライゼラですか?う~ん確かに、最近はいい噂を聞きませんね。吸血鬼のせいなのか分からないですけど人が暴れたりしてるみたいですよ」
「へ~」
「簡単にはいかない依頼かもな」
「ガハハハハ!そうそう、お前らには無理だ!」
大声で話しに入ってきたのは向かいの席のハンター達だった。
「何で無理なのよ!」
クロエが食って掛かる。
「どいつもコイツも弱そうだからだ!嬢ちゃん達は引っ込んで俺達に任せな!」
「ぐぬぬぬぬぬ」
クロエが飛び掛かりそうになっていた。
「大体お前みたいな獣がっ…」
アッシュと黒騎士は切っ先を、マックは銃口をそれぞれ至近距離から向ける。
「言っていいことの区別もつかないのか?謝れ」
アッシュが冷めた口調で言う。
「お、おまえ」
「頭を撃ち抜かれたくなかったら謝ってさっさと消えろ」
マックは銃口で男の額をコツコツと叩いている。
「くそっ!」
ハンター達は慌てて出ていった。
「さて、気を取り直して昼飯にしようよ」
「だな」
「…うん」
3人は食事をしてダイナーを出る。
クロエはほんのり火照った頬をピシャリと叩いて2人の後を追うのだった。
しばらくするとライゼラに到着した。
ライゼラの街は2階建て以上の建物がほとんどなく、木造やレンガ造りの建物が多い。
大通りこそ整備されているが街自体は迷路のように入り組んでいた。
明るく看板や出店のある大通りと対称的に裏路地は暗く静かだ。
吸血鬼の事を考えると余計に怪しく見えるのだった。
「着いたぞ」
マックはギルド管理の駐車場に車を停める。
「ライゼラは歴史ある街って感じね」
クロエは車を降りると楽しそうに言う。
「ああ、実際かなり昔からあるぞ、確か1000年以上は続いてるはずだ。観光場所もいっぱいあるし、特産品としてミキャンもある」
「観光しながら情報を集めるのはどうかな?」
アッシュの言葉に2人とも賛成する。
「行きましょ!」
クロエに連れられてあちこちまわる。
出店を食べ歩きしながら情報を集めていく。
「吸血鬼の話は大昔からあったようだな。しかも、昔は街の守護者だったのか…」
そう言ってマックは考え込む。
「しばらく居なくなって最近また出てきてからは人を襲ってるようね」
「吸血鬼の館は観光名所になってるし、恨みからなのかな?」
「そうかもな。自分の家を好き勝手にされてる訳だし」
「討伐の依頼だけどまずは吸血鬼に話を聞いてみたいね」
アッシュの言葉に2人は頷いた。
「それで探すのは何処からに…」
ドカンッ。
何かが破壊されるような音がした。
「逃げろ!急に人が暴れだした!吸血鬼の呪いだ!」
逃げている人達が叫ぶ。
「止めないと!」
アッシュは走り出し、2人も後に続く。
人混みをかき分け現場に向かう。
見えた。そこでは筋肉が盛り上がった男が理性なく暴れていた。
「取り押さえろ黒騎士!」
黒騎士が男と掴み合う。
アッシュとクロエが男の両足をそれぞれ払うと、倒れた男を黒騎士が取り押さえる。
「任せろ」
倒れた男にマックが麻酔弾を撃ち込んだ。
男は麻酔が効き、大人しくなった。
「一先ずはこれでいいはずだが、何で暴れていたんだ?」
「まるで暴走状態ね」
「吸血鬼の呪いって言ってたよね」
マックは男の首筋を探る。
「多分これのせいだな」
そこには牙の後のようなものがあった。
「原因はやっぱり吸血鬼?」
クロエが呟いた。
「どうだろうな。何にせよ捕まえて見ないとな」
「夜になったら動こうよ」
アッシュの言葉に2人は頷く。
男は警備隊に任せると、3人は近くのカフェで時間を潰して夜を待った。
そして、夜が来る。
「街は広い、作戦通りにエリアを分担しよう」
マックが分けたエリアにそれぞれ向かう。
アッシュは担当エリアの裏路地を歩いていた。
吸血鬼の話のせいか、夜に出歩いている人は少ない。何人か同じ依頼を受けているであろうハンター達とすれ違った程度で街の人は見かけなかった。
「流石にここまで警戒されてると、なかなか出てこないかな」
アッシュが呟く。
その時だった。
近くで呻くような声が聞こえる。
間髪入れずにアッシュは声の方へ駆け出した。
角を曲がるとそこでは、男の血を啜っている少女がいた。
夜の闇と同じ漆黒の髪に煌めく金色の眼。
子供のような姿をしているが吸血鬼なので油断は出来ない。
「君が吸血鬼か…彼を離して貰うよ」
アッシュは手甲から剣と黒騎士を召喚し、構えるのだった。




