第3話
木のドアをノックする音が鳴る。
「おーい、お前達もう朝だぞ!起きろ~アッシュ、クロエ」
それぞれのドアを叩き、マックが2人を起こす。
のそのそと2人は部屋から出てきた。
「ほれ、朝食作ってあるぞ。コーヒー要るか?」
「これマックが作ったの?」
「すごーい、美味しそう!」
サンドイッチをメインに、プレートに野菜や肉などをバランスよく乗せている。
フルーツも切ってあった。
マックはエプロン姿でコーヒーを淹れていた。
「紅茶や緑茶も出きるぞ」
「何でそんなにいっぱいあるの?」
「ん?普通じゃないか?」
そうは思えないがマックには普通らしい。
「行方不明の場所までは距離があるから、昨日のうちにタクシーを呼んである。帰りも近くのダイナーで待ってるように頼んでるから帰りも心配いらないぞ」
コーヒーを飲みながらさらりとマックが言った。
「スゴい!ベテランって感じね!」
ぶふっ、マックがコーヒーを吹いた。
「ベテランって、俺はまだ20歳だ!」
「うそ、見えない!」
クロエが思わずツッコんだ。
確かに貫禄があるので分からなくもない。
「いいからさっさと食べて行くぞ。探すのは少しでも速い方がいいからな」
3人は食事を済ませると、宿の前に来ていたタクシーに乗り現場に向かう。
街を離れ、長い荒野の道を進んでいくのだった。
2時間程走ったところで現場に着いた。
タクシーはダイナーに向かって走り去る。
「ここだな」
マックは道路の脇にある街灯のようなモノを見ながら呟いた。
「行方不明になったデイブさんはこれを点検に来てたのね」
「ダイナーでも、見てないって話だったね」
「ああ、おそらくここで何かあり、何処かに向かったか拐われたか……」
「見て、足跡に雨が溜まってるわ」
クロエの言う方を見ると確かに足跡のような窪みに薄く水が張っている。昨日の雨のせいだろう。
「デイブさんのかな?」
「分からんが手掛かりがこれしか無さそうだ。行ってみようぜ」
3人は足跡を辿り荒野の奥へと向かった。
荒野を駆けていく。
「何故モンスターに襲われる危険を侵して荒野の奥に向かったのかな」
「さあな、足跡の幅からすると走っていたようだ。逃げていたのかもな」
「でも、追いかけてる足跡が無いわ」
「宙に浮いてる奴か、足跡が残らない程軽いのか小さいのか、いろいろ考えられる」
しばらく進むと大きな岩に近づいていることに気がついた。
「あそこのようだな」
「岩の隙間に道があるわ!」
「これは……屋敷?」
「みたいだな、しかも結構古そうだ」
岩間の道を抜けると、荒野とは思えない程、草や木の生えた敷地にポツンと一軒だけ、そこそこの大きさの屋敷が在った。
「足跡が増えてるみたい」
数人分の足跡で、草が踏まれて潰れている。
「増えた足跡か……コイツらが犯人かもな」
「入ってみるしかないね」
「気をつけて行きましょう」
屋敷の扉に手を掛ける。
鍵は掛かっていなかった。
軋む音を立て扉が開く。
「階段があるな」
「クロエとマックは1階をお願い、俺は2階を見てみる」
「分かったわ」
アッシュは2階へと上がった。
かなり古い建物だ、どこを歩いても木が軋む。
「デイブさん!居ますか!」
声を出すが返事は帰って来なかった。
2階にある書斎や客間を1部屋ずつ見て回るが誰かいる様子はない。どれも埃を被っていて使われている様子はなかった。
アッシュは探索を終えると1階に降りる。
「マック、クロエ。2階には居ないみたいだ」
「そうか、こっちも進展なしだ。クロエは?」
クロエの返事は帰って来なかった。
「何かあったのかな。クロエ方へ行ってみよう」
「ああ」
2人でクロエの探索していた方へ向かう。
「あ、クロエ。居たんだ良かった」
クロエはなにやら耳を床に付けて、床を叩いていた。
「何かあるの?」
「音が響いてるのよ。きっと下に空間が在るんだわ」
アッシュとマックも同じようにしてみると確かに音が響いてる。
「入り口はどこなんだ?」
「探してるけど分からないの」
「マック、俺達も探してみようよ」
「だな」
3人は1階をくまなく調べ始めた。
「あったわ!」
しばらく探していると、クロエの声が聞こえた。
クロエの元へ集まると、彼女は階段の前に居た。
「見てて」
クロエは階段の横のパッと見は何もない場所を押した。
すると階段が登る途中から沈み始めた。
沈み終わると登りの階段だったモノが、下りの階段になっていた。
「流石だね。クロエ」
「こういうの得意なの!」
「行くか」
3人は階段を下っていき、地下1階に辿り着く。
マックがアイテムバックから丸い機械を取り出す。
スイッチをいれると宙に浮かびながら発光した。魔導具のライトだ。
「ここは牢屋みたいだな」
光に照らされ見えたのは、いくつも並んだ空っぽの檻だった。
「嫌な感じね」
クロエに同感だ。
奥へと進んでいく。
「更に下りの階段か……」
「いったいどれほど下るのかしら」
「あっ、みんな待って。ここに何かある」
2人も見ると、そこには水のようなモノが入った瓶があった。
「水か?普通のもんでもこんなところにあると不気味に見えるな」
「何かの粘液かも」
「ここのヒントになるかも開けてみるよ」
アッシュは瓶の蓋を開けた。
ピュンッ、ベチャッ。
中の液体は飛び出しアッシュの顔に張り付いた。
「フガガガガ」
アッシュは呼吸が出来ずにもがいた。
「マズい!スライムだ、助け無いと!」
「ま、待つプルッ。すぐに退くプルッ」
スライムから声がするとアッシュの顔から離れた。
「すまないプルッ。ボクをここにいれた奴かと……プルッ」
「お前は、あのチームナンとかのスライム?」
「チーム『ハルカイ』のカイだ!プルッ」
「えっなに、知り合いなの?」
クロエが驚いたように聞く。
「あ、まあ。前にちょっとな」
「盗賊……かな」
「違うプルッ!秘密結社プルッ!」
「何でもいいけど、なんで捕まってるんだ?」
「うっ……ここで休んでたら捕まったプルッ」
「後の2人も?」
「そうプルッ。助けてくれプルッ!助けてくれるならこの先は俺も協力するプルッ」
3人は顔を見合わせる。
「まあ、可哀想だし見捨てるのも違うよね」
「うーんだけど悪党だしな」
「可愛いから助けて上げようよ」
「仕方ないか……2人はこの先に居るのか?」
「多分……プルッ」
「どのみち奥には行かないといけないから助けて上げるよ」
「ありがとプルッ!ありがとプルッ!」
「じゃあ行きましょスラちゃん!」
「ボクはカイって名前があるプルッ」
3人と1匹は階段を降り、奥へと進む。
階段を降りるとすぐドアがあった。
「金属製の扉だな。しかも鍵が掛かってる」
「任せろプルッ」
カイは鍵穴に張り付くと鍵の形に変化した。
カチッ。
鍵の開く音がした。
「やるな」
「朝飯前プルッ」
扉を開けるとその先は、洞窟になっていた。
「この先だな」
「行くプルッ」
しばらく1本道を進んでいく。
「ちっ、分かれ道か」
道は2本、左右に分かれていた。
「2手に分かれるプルッ」
「お前が仕切るなっ!」
「スマン…プルッ」
「俺とカイで右に行くよ、マックはクロエと左に行って」
「戦力的にはそれが良いかもな」
「分かったわ。後で会いましょ」
「うん」
アッシュはアイテムバックから先程マックが取り出したのと同じ魔導具のライトを取り出して使う。
そしてカイと2人で右の道を進んで行った。
「2人がこの先に居るといいね」
「プルッ!」
洞窟を進んでいくと微かに声が聞こえる。
「2人の声プルッ!」
「よし、急ごう」
走る。
しばらくすると地下1階を思い出す牢屋だらけの部屋に着いた。
「ハル!ルカ!大丈夫かプルッ」
「遅いわよ~カイ!」
「助かったのであ~る。…ん?ソイツは誰であ~る?ま、まさか列車の時の幽霊小僧!」
「ゆ、幽霊小僧?」
「おぬしの後ろの幽霊に我々は吹き飛ばされたのであ~る」
「ああ、黒騎士の事か」
話している間に、カイは手早く檻や手錠の鍵を外していく。
「アンタのせいで酷い目に遇ってばっかりだわ!」
「俺に言われても……」
「ここで会ったが百年目、アタシのお宝奪い返してやる!」
「1人でノコノコとチャンスであ~る!」
2人が構える。
「待つプルッ、待つプルッ!」
「何よカイ!」
「俺達が助かったのはコイツらのおかげプルッ」
「んっ」
「うぬっ」
カイは2人の前に立ちはだかり2人を止める。
「ま、まあ。そう……かもね」
「うぬっ、確かに恩知らずだったであ~る……」
「今回は戦いは無しだプルッ!」
「うん、そうだね」
「ちっ、こんな湿気たとこ出るわよ」
「そうするであ~る」
「あ、そうだ。2人とも他に捕まっている人を見なかった?」
「ん~、そういえば連れてこられる時に分岐の反対側から声が聞こえたような」
「ありがとう、2人を追いかけないと。もう行くね!」
「助かったプルッ」
アッシュは踵を返し走った。
「何なのアイツ?」
「何か行方不明の人を探しに来たらしいプルッ」
「ふ~ん……面白いこと思い付いちゃった」
「プルッ?」
ハルの笑い声が洞窟に響くのだった。
アッシュは分岐を越えて左の洞窟をすすんでいた。
前方から衝撃音が聞こえ始める。
「急がないと!」
更に加速した。
洞窟の端に辿り着く。
そこでは10メートルはあろうかという大蜘蛛と2人が戦っていた。
「マック!クロエ!」
「来たかアッシュ!」
「デイブさんは向こうで蜘蛛の糸に捕まってる!でも、まずはコイツを倒さないと!」
蜘蛛が甲高い叫び声を上げる。
すると、1メートル程から3メートル程の蜘蛛がわらわらと洞窟のあちこちに空いている穴から出てくる。
「くそっ仲間を呼びやがった!」
「マック!クロエ!デカイのは任せて他のをお願い!」
「頼んだ!」
「了解!無理しないでね!」
アッシュは手甲を呼び出し起動する。
「アウェイクン!」
剣と黒騎士が現れた。
「何アレ!?スッゴい!」
クロエの声が聞こえた。
黒騎士と共に大蜘蛛に立ち向かう。
黒騎士は大蜘蛛の脚を剣で防いでいる。
アッシュは黒騎士の身体を足場に、跳ぶように登り大蜘蛛の頭上に跳んだ。
「くらえっ!」
頭に向け斬撃を飛ばす。
蜘蛛の身体をから青緑色の血が上がる。
だが浅い。
大蜘蛛が身体を回転させる。
黒騎士は防いだが、アッシュは吹き飛ばされた。
壁にぶつかり、地面を転がる。
「くっ!」
突然視界と思考にノイズが走る。
「そうか!」
もう一度大蜘蛛に向かっていく。
「行くぞ、『コンバート』!」
手に持っていた剣が槍に替わる。
大蜘蛛の脚を躱し、顔面に槍を突き刺した。
大蜘蛛が怯み後退する。
「コンバート!」
再び剣に持ち替える。
「行くぞ!黒騎士!」
2人が同じ様に構える。
エネルギーを剣に集めていく。
剣がうっすらと光の膜のようなモノを張る。
「くらえっ!」
2人が同時に斬撃を放つ。
2つの斬撃は1つになり、蜘蛛を真っ二つに切り裂いた。
アッシュが膝をつく。
「っはぁ……やった…」
「まだだ!」
マックの声に反応すると、後ろから3メートル程の蜘蛛が飛び掛かって来ていた。
その時だった。
突然現れたバリアが蜘蛛を弾き飛ばし、炎が蜘蛛を焼き払った。
「ハハハハハ爽快であ~る!」
「行くプルッ」
ルカとカイだった。
ルカは火炎放射機で蜘蛛を片っ端から焼き払い、カイは弾丸の様に蜘蛛を粉々にしていた。
「礼は良いわよ、ガキンチョ!」
そう言ってハルが高笑いをしている。
「スゴいわね」
「ああ、そういえば結構強いんだよなアイツら」
しみじみとマックが呟く。
蜘蛛の残党はあっという間に殲滅された。
「これで貸し借りは無しよ!次からも敵なんだから!」
「またであ~る」
「またなプルッ!」
そう言ってハルカイの3人は去っていった。
「ははは……っとデイブさんを降ろさないと」
「アッシュ!後でアイツらの事とかさっきの騎士みたいなの教えてね?」
2人はそう言ってデイブを助けに行った。
俺達はデイブさんを助けた後、急いでダイナーに向かい街へ戻るとデイブさんを病院に預け依頼の報告をギルドで終えたのだった。
——その頃、近くのダイナーでは。
「はあ、もう食えないわ」
「お腹いっぱいプルッ」
「幸せであ~る」
3人はというとダイナーで食事をしていた。
一息付くと3人は顔を近づけこそこそと話し始めた。
「しかし、まさか我々が捕まるとは……」
「あのフード被ってた奴、アタシ達を捕まえると消えたけど何者だったのかしら」
「捕まってた場所の、奥の部屋は空になっていたのであ~る」
「何か持ち出してたのは見たプルッ」
「嫌な予感がすんのよね。アタシ達以外の秘密結社かしら?」
「ボスに報告した方が良さそうであ~る」
「捕まった事は内緒プルッ」
「あったり前でしょ!」
3人は飲食代を払うと姿をくらませたのだった。




