第2話
「アッシュ見えてきたぞ。アレがハーティだ」
列車は荒野を抜け街へと向かう。
窓の外に覗くのは、街をぐるりと囲む巨大な城壁と、城壁より飛び出して見える塔やビルだ。
城壁の中へ列車が入る。中は様々な建築様式の建物で溢れていた。
街の中心にはビルや塔が立ち並んでいるが、城壁に近付くにつれ、2階建て等の居住施設が多くなっていく。
街の中心近くまで行くと駅に入り列車が止まる。
アッシュ達は列車を降りる。
列車での戦闘や破壊は、あの後すぐに来た車掌に説明すると、向こうが仕掛けて来たことも有り、お咎め無しだった。
駅を出ると見えたのは、街を行き交う魔導車だ。
魔石や魔力を使った魔導動力で動かしている。今や生活の基盤となっている技術だ。
田舎育ちのアッシュにとっては異次元の光景だった。
感動に浸っていると1人の男がこちらに気付き、近づいてきた。
オカッパ頭の、いかにも金持ち風の男だ。
「やあ、マック!待っていたよ!」
「はぁ、会う約束なんてしてないだろ。ロイス」
マックが呆れたように言う。
「知り合いに連絡を貰ってね!ぜひ、君に見せたいモノがあるんだ!これだっ!」
そう言ってロイスが示したのは一台の魔導車だ。
「こ、これは!」
「そう!ベルガー社の、最新型の魔導車ファントムシリーズ『T700』様々な分野でトップクラスの性能を持つモンスターマシンだっ!いい子にしてたご褒美にパパンが買ってくれたのさ!」
「す、凄い!」
マックはその車に張り付いた。
「ふふふ、君のような庶民には縁が無いだろうからね。可哀想だから同期の君には特別に見せに来て上げたのさっ!」
そう言って髪をかきあげる。
「スゲェ……」
マックは嘗め回すように車を見ており、さっきから同じ言葉を呟いているだけになってしまっている。
「そして、何を隠そうこのマシンの最大の特徴は、トランクに有る!」
ロイスが何やらスイッチを押すと車のトランクが開いた。
トランクの中は明るく、梯子で下に降りられるようになっている。
「な、なにぃ!?」
「ふふふふふ、トランクの中は独自の空間となっており揺れる心配は無く、居住可能なスペースとなっているのだ。トイレやバスルーム、キッチンまで完備されている!まさに、走る家だ!」
「ほ、ほう」
ロイスは胸を張る。
「どうだ!欲しいだろう?欲しいだろ?」
「まあな」
マックはどうやら落ち着いたようだ。
元に戻っている。
「で、何だ?ただの自慢ならもう行くぞ?」
「ま、まあ自慢も有るんだが……その……」
急にロイスほモジモジし始める。
「と、とととと………も、………だちに………って、…くれ………ならプレ………トしよう………と思って」
「ん?」
ロイスが急に歯切れが悪く小声になり、何を言っているのか分からない。
「だ、だからその」
再び何かを言おうとした、その時。
ロイスのタブレットから音が鳴る。
「誰だこんな時に……げっパパン!?」
ロイスの後ろに執事服の男がスルリと現れる。
「坊っちゃま、次の予定が押しています。もう2時間以上もここで待ってい「ああ、あ!そうだもう行かないとまたな。マック!」
そう言って慌ただしくロイスは去って行った。
「何だったんだ?」
マックは首を傾げていた。
「っとすまない。アッシュ、アイツはロイスって言って俺の昔のクラスメイトだ。悪い奴ではないんだどっかで会ったら親しくしてやってくれ」
「あ、うん」
「さあ、俺達は魔導具屋にでも指輪を見て貰いに行くか」
そう言ってアッシュ達は街へと繰り出して行ったのだった。
「ふ~む、この手甲は中々のシロモノだね。使わない時は指輪になるのか……だが、機械でも聖遺物でも無いし、神秘系の装備でも無さそうだ」
単眼鏡やスキャナーを使って調べて貰ったが何なのかは分からなかった。
「お客さん聖遺物で無くて良かったね。教会が動き出したら大変だからね」
「そうだな。アイツらは聖遺物と判断されたものは地の果てまで追いかけるらしいから」
マックが頷く。
「外し方は分からなかったが、1つ分かった事もあるよお客さん」
そう言って店主は手甲に魔石を近づける。
すると、魔石は何の抵抗も無く吸い込まれた。
「うわっ」
「へぇ」
「コイツは魔石をエサにするようだ。ひょっとすると生きてるのかもねぇ。珍しいモンを見せてくれたお礼だ。鑑定費とこの魔石はタダにしといてあげるよ。それじゃあ、またのお越しを」
アッシュ達は魔導具屋を出る。
「仕方ないな。外れないならもうそれはお前のモノだ。弁償もいいぜ、列車で助けて貰った事だし、この後は好きにすればいいぜアッシュ」
マックがこちらを向いて言った。
「マック………分かった。それじゃあ改めてマック、俺の仲間になってよ。マックはいろいろ知ってるし、この先の旅にはマックが必要なんだ」
「………そうだな。これも何かの縁か、こちらこそよろしく」
アッシュ達は握手を交わした。
「じゃあ早速依頼でも見に行くか」
「うん」
2人は歩き出す。
「お互いの夢を話そうぜアッシュ。俺は金持ちになること、シンプルだが難しいぜ」
「俺の夢は、世界中を冒険する事と強くなってマック達仲間を守れるようになることかな」
「はははっ、言うじゃないか頼んだぜ!」
2人はお互いの事を話しながらギルドへ向かって行った。
ギルドの中へ入る。
中は広く、多くの種族の人々で賑わっている。
大きなモニターがいくつも有り、様々な依頼やランキングが表示されていた。
「普通はあそこにある機械で依頼を受けるんだ」
マックが壁際にあるモニター付きの機械を示す。
「アッシュはその前に受付でギルドカードを貰わないとな、このカードを機械に通して初めての依頼が表示されるんだ、自分のランクのな」
受付では書類に名前や年齢を書くだけだった。
あっさりカードを貰えた。
2人は依頼を受ける機械の前に行く。
「ここで依頼の説明を見たり、受注したりする。お前はまだ依頼を受けた事が無いから最低ランクの仕事しか受けれないけどな。リーダーはお前出し依頼を決めてくれ」
マックは当然かのように流れで言った。
「俺がリーダー?」
「頼んだぜ。堅苦しいのは苦手なんだ」
「分かった」
カードを機械にタッチすると依頼が表示される。
最低ランクとは言え凄い数の依頼だ。
「これいいんじゃない?『荒野での行方不明人の捜索』」
「えーっと、道路の魔物避けを修理に行き、行方不明か……最初だし悪くないな」
「もう1人埋まってるから、俺達2人を入れると3人か」
「よし、受注っと」
「先に受けてる奴がいる場合ギルドで待ってる事が多い、受注の情報が共有されるからすぐに見つかる……いた、あの子だな」
1人の少女がこちらに近づいてくる。
「貴方達が同じパーティーになる人ね?ウチはクロエよろしく!」
金色の髪に青い瞳の猫の獣人の女の子だった。
「俺はアッシュ、こっちが仲間のマックだ」
「2人ともヨロシクねっ!」
「よし、さっそく行こうぜ。でも、今日は取りあえず宿かな」
3人は揃ってギルドを出る
新たな冒険の始まりだった。
——その頃、荒野のとある場所にて。
夕暮れ近く、線路の横を歩く3つの影があった。
「腹減ったプルッ……」
「もう少し先にダイナーがあるのであ~る」
「もう動けなーい」
ハルが立ち止まり駄々をこねる。
「ハル、急がないと天気が崩れて来てるのであ~る」
空は雲が厚く何時でも振りそうな雰囲気だ。
「アンタ達アタシを背中に乗っけたりとか、何か考えてよ」
「無理だし、嫌でであ~る」
「無理プルッ。大体最近ハルは太ったプルッ」
ブチッ。
何かが切れる音がした。
「コ・ロ・ス」
「はっ!空腹で口が滑ったプルッ」
全力で逃げるカイをハルが追いかける。
先ほどまで腹減っただの、疲れただのと言っていたとは思えない程のスピードだ。
「2人とも待つであ~る」
呆れながらもルカは追いかける。
「このスライム!チュルッとイッテやる!」
「嫌プルッ。ボクは美味しくないはずプルッ……んっ?」
カイが立ち止まる。
「ふふふふふふ、観念したか」
「待つプルッ、待つプルッ」
「どうしたであ~る?」
「アレを見るプルッ」
カイが指差す方を見ると大きな岩と岩の間に道が有り、その奥から光が見える。
「屋敷のようであ~る」
「行ってみましょうよ。お腹空いたし、雨も降りそうだし、何より疲れたし」
「行くプルッ、行くプルッ。腹減ったプルッ」
「う~む、でも、何だか隠れているようで怪しいであ~る」
「バカねぇ、あーいうのを隠れ里とか言うのよ」
「う~ぬ」
「行きましょ。決定!」
ハルはカイを引っ張って屋敷に向かう。
3人はそうして屋敷に向かって行ったのだった。




