第1話
山合の小さな駅に、重厚な音を立てて列車が停まる。魔導機関を利用して動く全長60メートルの列車だ。
1人の少年、アッシュが乗り込む。
腰に剣を携え、荷物袋を肩に掛けている。
列車の中は、様々な種族の人々で賑わっていた。
空いてる席に腰掛けると、ゆっくりと列車が動き始めた。
通路の向かいの席では、子供がタブレットで遊んでいるのが見えた。
辺りが少し暗くなる。
視線を窓の外へ移すと、列車はトンネルに入ったようだった。
このトンネルを抜けると、荒野地帯にでる。
更にその先へ行くと目的地の街ハーティだ。
一獲千金を求めて多くの腕自慢の冒険家達が集まる街だ。アッシュもその中の1人だった。
まだ先は長い、そう考えアッシュは少しの間眠りに着くのだった。
ドカンッ。
突然の轟音。
アッシュは飛び起きると、剣の柄に手を掛けた。
窓の外を見ると荒野が広がっている。
悲鳴や怖がる声が車両中を覆っていた。
断続的に戦闘音のようなものが、後ろの車両から聞こえてきている。
アッシュは立ち上がると後ろの車両に向けて走り出した。
車両間の貫通扉を開けると爆風と熱が吹き込んできた。腕で顔を守る。
「くっ、何が?」
そう呟き、爆風の向こうに目を凝らす。
その車両には2組の人間しか居なかった。
1組目は3人組の連中でいかにも盗賊といった感じで、女のリーダーと付き従う男とその肩に乗っている1匹のスライム?
もう1人はガンマンだ。20代半ばくらいの青年た。
片手には銃、もう片方の手にはアタッシュケースを下げている。
「もう勘弁したらどうだい旦那。素直にお宝を渡しな!」「言うことを聞いた方が良いのであ~る」「怒らせるとリーダーのハルはおっかないでプルッ」
「残念ながらそうはいかないんでね」
車両の片側は大破し、大穴になっている。
話の流れ的にあの3人が敵だろう。
アッシュはガンマンに声を掛けた。
「大丈夫ですか!」
皆の視線が自分に向くのを感じた
「ああ、アイツら盗賊だ。どうやら俺の荷物を狙ってるらしい」
「おや少年。アタシ達を手伝うんなら、後でご褒美やるよ」
そう言って女はウインクする。
「盗賊には手を貸さない!」
そう言って男の横で剣を構える。
「ふーん。そう来るかい、だがねぇアタシ達は盗賊なんてチャチなもんじゃないよ。行くよ!」
「「「我らの秘密結社『ジグザグ団』」」」
「アタシはリーダーのハル」
「ワタクシは参謀のルカ」
「ボクはエースのカイ……プルッ」
「「「チーム『ハルカイ』参上!!!」」」
3人はポーズを決める。
「「………」」
なんと言うか。
なんとも言えなかった。
「どうだい?入りたくなっただろう?」
「決まったであ~る」
「カッコいいプルッ」
3人はテンションが上がったようだ。
アッシュはガンマンの男に囁く。
「今のうちに逃げれば良かったんじゃ?」
「あ、スマン何て言うか。見入っちゃった」
仕方ない。
気を取り直して3バカと向き合う。
「渡す気が無いんならコッチから行くよ!」
ハルが突っ込んで来る。
ガンマンが銃を撃つがバリアのようなものに弾かれる。
「ちっ!」
火花が散る。
ハルの短剣をアッシュが剣で防ぐ。
「まだボク達がいるプルッ」
カイが弾丸のように飛んでガンマンを吹き飛ばした。
ルカがマジックハンド付きの銃を撃ち、アタッシュケースを掴む。
「いただきであ~る」
「させるかっ!」
ガンマンが投げた短剣がマジックハンドの連結を切った。
「うぬっ、しまったであ~る」
アタッシュケースが地面を転がる。
落ちた衝撃で鍵が壊れ中が開いた。
中にあったのは右手の手甲のようなものだ。
「これがアタシのお宝!」
ハルが手を伸ばす。
「くっ!」
アッシュが割り込むように飛び付き、手甲を手に取り転がる。
「あ、アタシの!」
起き上がろうとすると、近くまで来ていたハルが手甲を掴む。
「渡さないぞ!」
「これはアタシ達のモノなんだよ!」
お互いに手甲を掴み、競り合う。
「こうなったら」
アッシュは右手を手甲の中に滑り込ませた。
次の瞬間。
眩い閃光が手甲から発生する。
ハルは後ろに飛び退いた。
アッシュは右手が焼かれるように痛み、手甲と手が一体になるのを感じた。
「ぐっ!」
光が収まる。
「おいおい、ありゃなんだい?」
ハルがアッシュの背後を見てそう呟いた。
アッシュの後ろには3メートル程の黒い甲冑の騎士剣を地面に突き立て、佇んで居た。
「あれは騎士であ~るか?」
「た、たぶんプルッ」
アッシュには不思議な感覚があった。
まるでその手甲が初めから自分のもので、よく知っているかのような感覚。
「アウェイクン【目覚めろ】」
そう呟くと、手甲の手の中に剣が現れた。
「大丈夫か?」
後ろからガンマンが声をかけてくる。
「はい。何だか不思議な気分です」
「その手甲、なかなかのお宝みたいだね。ルカ、カイ行くよ!」「うぬ」「プルッ」
3人が突撃してくる。
アッシュは剣を振る。
銀閃。斬撃が伸び、3人にぶつかる。
ドゴンッ。
衝突と共に爆発が起こる。
3人は吹き飛んだがバリアでダメージを軽減していた。
3人は服が破れ肩で息をしている。
「ひっ!あ、危なかった」
「髭が焦げたのであ~る」
「吹き飛ぶところだったプルッ」
アッシュが再び構えると、後ろの騎士も同じように構えた。「なっ!」「ぬっ!」「プルッ!」
「アレは動くのかい!マズいっ!」
3人はバリアを展開したまま列車から飛び降りた。
アッシュが剣を振ると、騎士も剣を振る。
2つの斬撃が1つになり、バリア事3人を吹き飛ばした。
「また来るからね!覚えてなさいよ~」
遠くの方で転がっていくのが見えた。
「ふうっ」
一息着くと後ろの騎士は溶けるかのように消えた。
ガンマンがこちらに近づいてくる。
「助かったよ。俺はマックだ、よろしく」
「あ、はい俺はアッシュです」
握手を交わす。
「それで、その悪いんだが、その手甲は俺のだから外してくれるか?」
「あっすいません……んっ?」
手甲は外れなかった。
どうやっても外れない手と一体化している。
「あ~、外れないんですけど……」
「何っ?」
2人でやってみても結果は同じだった。
それどころか手甲は指輪になった。
「どうやったんだそれ?」
「さ、さあ?」
指輪になっても外れることはなかった。
「弁償します!」
「弁償って言ってもなぁ、そもそもまだ値段が付いてなかったし」
マックはしばらく考え込んだ。
「まあそのうち外れるかもしれないし、しばらくお前と行動を共にさせてもらうよ」
「はい!」
そうしてアッシュとマックの旅が始まるのだった。
——その頃、遥か後方の荒野。
「うっ、ぎぼぢわるい」
「は……吐くのは、やめるのであ~る」
「とろけるプルッ」
3人は転がる最中、バリアの中でシェイクされたのだった。
「少し、休んだら。次の作戦考えわよ」
「「お~」」
ちから無い声が荒野に染み込んでいくのだった。




