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第3話(1)儚い幸福【フェニス第3従響星】

 二人が友だちになった日から、数週間が過ぎた。

 人工太陽が最も強く照る昼下がり。

 リメアとアリシアは今日も孤児院の裏庭で、大の字に手足を広げ草の上に寝転んでいた。

 

「ねぇ、リメア」

「ん、なあに、アリシア」

「私の言いたいこと、わかる?」

「え~、なんだろ?」


 首を傾げる少女に、アリシアは生暖かい目線を送る。

 

「ヒントほしい?」

「うん!」

「穴埋め、重労働、もうしたくない」

「……アリシア、それ、もしかして答え……?」

 

 リメアの跳躍練習が一段落したため、満を持して始まったのが土木計画第二弾、基礎工事。要は穴埋め作業だ。

 この大仕事が完了した暁にはたとえ観光客がこの場所を訪れて、見事としか言いようのないストーンヘンジに気を取られてしまったとしても、深度三メートルの穴に落ちる心配はなくなる。

 そして施設の大人にこの大掛かりな砂遊びがバレたとしても、アリシアが怒られる可能性を最小限に抑えられる。

 主に後者の理由で、完遂が求められる厳格な計画だった。

 休憩を挟みながらの作業ではあったが、リメアの怪力もあり、進捗は順調。

 とはいえふたりとも泥だらけであった。

 連日の作業で筋肉痛のアリシアに、リメアが何かを悟った様子で語りかけてくる。


「アリシア、わたし分かったよ」

「……なにが?」

「壊すことよりも、直すことのほうが大変なんだ。そして、壊すときは気持ちいいけど、直すときはとっても苦しい」

「真理ね…………じゃあ、土の中は?」

「あったかい……」

「何、この会話。間違いなく暑さにやられてるわ……」


 アリシアは額に浮かんだ汗を腕で拭った。

 会話に脈絡はなく、心地よい疲労感に頭がボーっとする。

 リッキーは何をしているの、と尋ねてみると、熱暴走が嫌だから出たくない、との返事。

 一番涼しそうな見た目をしているのに、とんだ薄情者ね、ホログラムのくせに。

 と口に出すのも億劫なので心のな中で悪態をついておいた。

 ジワジワと、虫の声が騒がしい。

 土の湿気が不快でアリシアは寝返りをうつ。

 同じことを考えていたのか、鏡合わせの動きをしたリメアとちょうど目があった。

 まるで奇跡の対面を果たしたかのように、翡翠の眼がおお、と見開かれる。

 その顔を見てふと、聞きたかったことを思い出し、アリシアは上体を起こした。


「ねぇリメア。もし、話したくなかったら話さなくてもいいんだけどね」

「どしたの?」


 アリシアは言い淀みながら、ショートボブの後ろ頭をポリポリとかく。


「その、リメアの家族について、聞いちゃってもいいのかしら、なんて」

「う~ん」


 リメアは考える素振りを見せながら再び寝返りをうち、もといた位置に戻った。

 その間アリシアは視線を外し、さも興味が薄いふりをしつつ、横目でリメアを盗み見る。彼女の横顔には、困惑も悲壮感も浮かんではいなかった。


「別にいいけど、ほんとに全然覚えてないよ、そのときちっちゃかったし」

「覚えてることだけでいいのよ」

「えーっと、覚えてるのはね、閉まっていく宇宙船のハッチの向こうで、お母さんが困った顔してたぐらいかな……」


 口調の割に重いシーンが出てきたので、アリシアは思わず聞き返しそうになったが、すんでのところで抑え込む。


「……そうなんだ。なんか、ごめんね、辛いこと思い出させちゃって」

「ううん、いいよ。もう四百年近く前のことだし。顔もぼんやりしてるし」

「そうか、そうだよね……じゃあ、お母さんはもう……」


 とんでもない地雷を踏んでしまった、とアリシアは自分の好奇心に釘を刺す。

 仮にリメアが何かしらの理由で長寿であったとしても、母親まで四百年以上生きているとは思えない。リメアの薄い反応を眺めながら、やっぱりそうなのね、とアリシアは胸を痛めた。

 だが次の瞬間、そんなアリシアの考えをひっくり返す一言が小さな口から飛び出したのだった。


「ん? どしたのアリシア。お母さん、まだ生きてるよ?」

「ふぇぁっ?」


 素っ頓狂な声が出た。

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