表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/77

第25話(1)『アリシア』【主律星フェニス】

「アリシア、アリシアの声だ……! そこにいるの、アリシア? わたしの声、聞こえる!?」

「……ずっと、聞こえてたよ。さっきまではぼんやりしてたけど……」

「あぁ、ああっ! よかった! よかったよぅ、アリシアぁ……」

 

 リメアは顔をほころばせ、歩み寄ろうと足を前に出す。

 しかしその足取りはふらついていて、おぼつかない。

 長いスカートを踏みつけ転びそうになりながらも、粒子の前までたどり着く。


「おっとと、へへへ、どしたんだろ。アリシアの声聞いたら急に力が抜けちゃって」

 

 リメアは膝に手をつきながら顔を上げる。

 憔悴しきった頭はグラグラしていたが、嬉しさがそれをはるかに上回った。

 指先ほどの光の粒は、少女の輪郭をまといながら蛍のようにふわふわと風に揺られている。

 リメアは彼女に触れようと手を伸ばす。

 だがすぐにそれを引き戻し、出かかった言葉を飲み込んだ。

 様子を見ていたアーヴィは独り言をこぼす。

 

「……誰と話してんだ? やけにボリューム小せぇけどよ」

「しーっ、リメアがお話してる。彼女の大切な友達と」

「あ? 口閉じとけ精霊。クソ、同期した影響か……。テメェ越しに声が聞こえるとか勘弁してくれ。何にせよ、指図は受けねぇぞ」


 アーヴィはギロリ、と隣の精霊を睨みつけ牽制した後、小さく呟いた。


「アリシア、か……」


 静まり返った人口太陽の上では、彼の声がやけに響く。

 リメアはアーヴィに顔を向けながら弱々しく微笑んだ。


「そう、アリシアだよ。アリシアの魂はやっぱり無事だったの。本当に、よかった……」


 涙ぐむリメアに、アーヴィは小さく吐息を漏らした。


「ま、目的が達成できたなら、いいことじゃねぇか。俺には影も形も見えねぇが、そこにその友達がいるんだな?」

「あ……そっか、アーヴィにはエーテル粒子が見えないんだったね……」

「ああ。よほど濃くない限りエーテル粒子は見えねぇ。人間にはな」


 その言葉にややトゲを感じたが、リメアに反応するほどの気力はない。

 体を支えるのも億劫で、足元で広がったドレスに沈むように両膝を地面につく。


「おい、無理すんなよ。さっきまで腕引っ込めたり出したりとびっくり人間サーカスやってたんだからな。精霊がまた暴れた時用に余力残しとけ」

「あはは……そんなことしてたんだ、わたし」


 霞がかった目で傷ひとつない両手を見つめる。


 「もう、私は暴れない。暴れる理由が、もうないもの」

 

 アーヴィの隣で精霊はふるふると首を横に振った。

 フェニスは地面に散らばる千切れた赤い糸を一目見たあと、顔を上げ空に浮かぶ主律星を静かに眺める。

 彼女の制御が途切れたせいか、人工太陽は軌道レール上で少しづつ減速していた。

 照度も少しずつ落ちていき、まるで星ごと闇に沈んでいくようだった。

 それをただただ見つめるフェニスの横顔はぼんやりとしたものだったが、リメアはその瞳に行き場のない悲しみや苦悩、そして深い諦念を垣間見る。

 

「どうしたの、リメア。そんなに思い詰めた顔しちゃって」


 アリシアの声に、リメアはハッとする。

 少女の微かな輪郭がこちらを覗き込んでいた。

 その姿をじっと見つめ返した後、リメアはキッと眉間に力を入れ再び立ち上がった。


「アリシア、今から治してあげるから、ちょっとだけまってて……!」


 ふらつく体に鞭を打ち、呼吸を整え頭の中で強く念じる。


(知識回路、技術回路起動……)


 突如、制御の甘いエーテルの大奔流が、過負荷で傷んだ脳内回路を駆け巡った。


「わぐっ!?」


 かつて感じたことのないほどの頭痛。

 しかしそれをすぐに取り繕い、笑顔を絶やさぬよう気を張り詰める。


「いっぱい溜めこんだエーテルを保持するのもそろそろ限界……かな。だったら、ありったけを使って……!」


 リメアが奥歯を噛み締めると、引きずられていたドレスの裾に白く輝く火がついた。

 炎は一気に燃え広がり、布の端からエーテルの粒子へ変えていく。

 光の粒子は両手の内に収束し、激しく空間を歪ませはじめた。


「待てリメア、何をするつもりだ?」


 前に出ようと踏み出してきたアーヴィの足元からも、光の粒が舞い上がる。


「剣が……!」


 彼が見下ろした巨大な剣は、剣先から崩壊し粒子へと変わっていく。

 それらは静かに渦を巻き、リメアの掌へと集められる。


「どういうつもりだ……!」


 奥の歯から絞り出されたような声に、リメアはゆっくりと顔を向けた。

 頭のティアラも弾けて消え、頭の上がいく分か軽くなる。


「止めないでアーヴィ、お願い」


 リメアの脳内に、知識回路と技術回路の開放アナウンスが流れた。


「これからアリシアの体を、わたしと同じエーテル構造体で生成するの……!」


 ぽん、と少女の背中から飛び出した銀色の球体がリメアに耳打ちした。


「……リメア様、本当によろしいのデスか?」

「リッキー。わたし、約束したから。アリシアと……バカンスに行くって……!」

「…………承知しまシタ」


 リッキーは片方のレンズから照射した光で、地上に半透明な立体映像を作り出す。

 リメアより少し小さな、ショートボブの少女が横たわったまま目をつぶっていた。


「リメア様、以前スキャンしたデータをもとに、身体情報を再現しまシタ」

「ありがとう、じゃあいくよ……っ!」


 掌の間で、虹色の光が揺さぶられるように瞬いた。


(こんな量のエーテルは初めて……! 精度が、保てない……!)


 バチバチと空気が音を立て始める。

 額には薄っすらと汗が滲んだ。


(生体組織みたいな細かいのは、このエーテル量に慣れた後……。先に比較的作りやすいものを……!)


 リメアは手の角度を変え、エーテルを物質に変換していく。

 光の中から黒い糸が四方八方に飛び出し、複雑な軌跡を残しながらそれぞれ絡まり合う。

 ほどなくして、見覚えのあるジャケットとショートパンツが出来上がった。

 細部の作りは甘かったが、それはかつてアリシアが好んで着ていた服。

 アリシアは小さな声でエーテルを震わせた。

 

「リメア……」


 大粒の汗を滴らせながら、リメアはおどける。


「へへ、男の子もいるからね。はだかんぼだったら、アリシア恥ずかしいでしょ?」


 再び下ろしていた両手を合わせ、再び歯を食いしばる。


(コツは掴んだ。最後まで、絶対やり切るんだ……!)

☆*****☆*****☆*****☆*****☆*****☆*****☆*****☆*****☆

読んで頂きありがとうございます!

ブックマークのボタンをポチッと、なにとぞお願いいたします……!

続きが気になるようでしたら、どうか☆をくださいませ。大変励みになります!

完結まで走り抜けますので、どうか応援いただけますと幸いです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ