第23話(2)精霊フェニス【主律星フェニス】
ぼんやりする意識の中、リメアは目を覚ました。
ふわふわと雲の上を浮かぶような感覚に包まれながら、流れ込んでくる温かさを体全体で感じる。
「……ここは、どこ……?」
周囲を見回すと、真っ白な部屋にガラス窓がひとつ。
その向こうでは白衣を着た人たちが忙しなく行き来している。
夢か現かわからないまま、周囲を眺める。
ふと隣へと視線を向ければ、白髪の少女がぺたんと座り込んでいた。
こちらに気がつく様子もなく、ぼーっと虚空を見つめている。
「あなたは……?」
声をかけた瞬間、部屋の天井でランプが赤く光り、大音量のブザーが鳴り響いた。
「い、いやっ! いやっ!!」
白髪の少女は突然震えだし、両手で頭を抱えた。
隙間ひとつなかった壁の一部が音もなく開き、防護服を着た人間がなだれ込んでくる。
「っ! あれって……!」
防護服連中の手には、どこかで見たことのある青い枝のような端子が生えていた。
彼らは幼い女の子を囲むように枝を向け、にじり寄っていく。
「どうしてこんな事するの? それ嫌……! 頭が、ぐちゃぐちゃになるの! 嫌……いやっ!!」
リメアは弾かれたように動き、防護服たちの前に立ちふさがる。
が、防護服たちは止まらない。
「やめてあげて! この子、嫌がってるよ!」
両手を広げて睨みつける。
しかし、防護服たちが伸ばした枝はリメアの体をすり抜けた。
「いやぁぁぁぁああああああっ!!!!」
反響する悲痛な叫び声に、リメアは思わず身を竦めた。
わけがわからず振り返る。
しかし、そこにいるはずの泣き叫ぶ少女は、姿を消していた。
代わりに金髪赤目の後ろ髪を伸ばした少年が、無表情で突っ立っている。
「えっ……?」
戸惑いを隠せず、両目をゴシゴシと擦ってみる。
少年はリメアには目もくれず、ボソリと呟いた。
「いつまでそうしているつもり? 君は僕のパートナーだよね?」
目線の先を辿ると、先程の少女は抱えた膝に振り乱した白髪を覆いかぶせた状態で、部屋の隅にうずくまっていた。
「あれっ? いつの間に……そ、それよりあなた、大丈夫っ!? 怪我はない?」
慌てて駆け寄るも、反応はない。
背中に手を添えてみようとしたが、防護服たちと同じく、リメアの手は白髪の少女をすり抜けてしまった。
まるで、ホログラムのように。
だがホログラムと決定的に違うのは、映像の触れた部分が、ふわりと煙のように揺らぐところ。
細かな粒子は、まるで――。
「エーテル……粒子……?」
リメアは改めて自分の両手を見つめてみる。
輪郭に目を凝らせば、それは小さな霧状の粒子が集まったもの。
いつもの肉体とは決定的に違う。
ちょうど跳躍する時の、五次元空間に入ったリメアの体にそっくりだった。
「どういうことなの……」
手を見つめたまま困惑していると、視界の端で白髪少女の体がモゾ、と動いた。
「あなた……なんだか、いい匂いがする……。他の人とは、違う匂い」
金髪の少年のもとへ、ヨタヨタと四つん這いで近づいていく少女。
彼女の表情を見て、リメアは目を疑った。
怯えていたはずの目は蕩け、頬は上気し赤く染まっている。
ついさっきまで、塞ぎ込んで縮こまっていた少女が、だ。
「ねぇ、お名前を、教えて……?」
甘い声で少女は少年の足元にすり寄った。
少年は冷笑を浮かべながら答える。
「リガーレ。リガーレ・メルキオル」
その名を聞いた時、ハッとした。
どこかで聞き覚えのある姓だった。
だが次の瞬間、少女が口走ったセリフに、リメアの全身はさらなる衝撃で凍りつく。
「私の名前はね――フェニスっていうの」
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