第2話(2)いっしょに、食べよ【フェニス第3従響星】
シェルター内の淀んだ空気を振り払うように、アリシアは誤魔化し笑いでその場をしのぐ。
「ほ、ほら、私達、共犯じゃない? だから、お互い秘密を守る者同士、協力しないと」
人差し指を立てずいっと迫れば、リメアの顔がみるみる青ざめていく。
「共犯って、一緒に悪いことするってことだよね? わたしとアリシア、もしかしてなにか悪いことしたの……?」
「えっと……」
言葉に詰まったアリシアはわずかな時間逡巡し、コホン、と咳払いをした後、すらすらと罪状を連ね始める。
「そうねぇ、やっぱり、該当するとしたらフェニス土地管理規則第二七四条ね。何人たりとも、他社が所有する土地において破壊行為を行うことなかれ。あとは、基幹規則の八十三、犯罪者およびこれに準ずるものを秘匿およびかくまうことなかれ、かな?」
「…………あっ」
思い当たるフシがあったのか、少女はバツが悪そうにエヘヘとおどけて見せた。
「ん~?」
アリシアが顔を近づけると、黒髪の少女は目を泳がせながら半歩後ろに下がる。
「孤児院の庭を、こーんなに荒らしたのは、誰かなー?」
「や、やめてよアリシア~」
「誰かな~?」
アリシアはぶら下げていた包みを無造作にポケットへ突っ込むと、その手でぷっくりした幼い頬に人差し指を突き立てる。
つんつんとつつけば、耐えかねた犯人は自らの過ちを認めた。
「ご、ごめんなさい……」
「いいのよ、ちゃんと謝れてえらいえらい」
ゴシゴシと頭を撫でると土の匂いと一緒に、かすかにお日様の香りがした。
「うぅ、後でもとに戻すから……」
アリシアは口に手を当てわざとらしく驚いてみせる。
「あら、私は庭のこと、別に気にしてないわよ?」
「え? でも……?」
あわあわと混乱するリメア。
焦る姿をずっと眺めていたかったが、とうとう我慢できなくなってアリシアは吹き出した。
「アハハッ、冗談よ、リメア! この庭も土地も、全部私のものじゃないんだもの。施設の大人たちはこの辺の庭に穴がいくつ増えようと、気になんてしないわ。フフフッ」
「あーっ! アリシア、わたしを怖がらせて遊んだなー!」
「ごめんなさい、リメアが本気にするから、つい」
「ほんとに怖かったんだから! もうっ!」
ぷんすか怒るリメアは頬を膨らませる。
くるりとアリシアに背を向けてずかずかと歩き、シャッターの降りた窓枠に突っ伏した。
「フフフッ、リメアってば……」
疑うことを知らないんだから、と続けようとして、即座に言葉を飲み込んだ。
暗がりの中で、縮こまった少女の肩が、小刻みに震えていた。
ぞっ、と罪悪感がアリシアの背中を駆け上がる。
真っ白になった頭に、やりすぎた、という文字が浮かんだ。
純粋なリメアがあまりに可愛らしくて、いじらしくて、いじめすぎてしまった。
アリシアの胸の奥から止めどなく湧き上がっていた何かが、急速に冷やされ小さくなっていく。
「リメア……。ごめんなさい。私、そんなつもりじゃ……」
恐る恐る歩を進め、リメアの背中に手を伸ばす。
小さく、丸くなってしまった肩に指先がつん、と触れたその瞬間。
サラサラと流れるような黒髪が、ぱっと逆さまにした傘のように広がった。
「へへへっ、アリシアも騙されたー! やーいやーい!」
アリシアの脇を、ケラケラと笑いながらシェルターから飛び出していくリメア。
「悔しかったらここまでおいでー!」
外でぴょんぴょん楽しげに跳ねている少女。
してやられたと気づいた暁には、半開きで固まっていた口が徐々に三日月へと変わっていく。
「リ~メ~ア~~!!」
シェルターの扉を音を立てて押し開き、アリシアは夕日に染まる草原に飛び出した。勢いそのままに、全力疾走でリメアを追いかける。
「わはっ、本気で怒ったアリシアが来た! 逃げろ逃げろ~」
両手を振りかざし、アリシアは大股でずんずん接近していく。
小憎たらしいいたずらっ子を逃がすものですか、と心のなかで笑いながら。
「待たんかい、このチビスケが! とっ捕まえて食ってやろうか!!」
「え、何!? 普通に怖いんだけどっ!」
「ふはははははっ! あははっ、あははははっ、――あっ!」
笑いながら走っていると、リメアが作ったクレーターに足を取られてバランスを崩してしまった。
その先にあったのは、更にもう一段と深いクレーター。
夕暮れ時の草原はまさに落とし穴の地雷原。
中にごろごろと転がり落ちれば、巻き上げた土埃が容赦なく降ってきた。
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