第21話(2)アーヴィの秘策【主律星フェニス】
「まずいかも……。エーテル阻害、食らっちゃった……」
「くそっ! 話にあったあの範囲不明の攻撃か……チッ! 動けるか!? 動けるならとりあえず走れ! 走りながら考えろ!」
肩を貸して無理やり立ち上がらせる。
振り返って見れば、遠くで目玉のついた鎖がこちらをしっかりと捉えていた。
「あの目か……!」
移動しながら周囲をざっと見回し、放熱塔の配置を把握する。
二時の方向であれば、より多くの放熱塔が密集していた。
(視線を切るなら、あそこしかねぇな……)
最初はひょこひょこぎこちなく歩いていたリメアだったが、体の感覚に慣れてきたのか、走れる速さまで回復する。
それを見たアーヴィは、ほっと安堵の表情を浮かべた。
だが放熱塔の林まであと少しというところで、リメアが素っ頓狂な声を上げる。
「あれ? 力が、戻ってる……!?」
彼女の髪の毛が、根本から美しい銀色へ染まっていく。
(どういう原理だ……? まあ、いい知らせには違いねぇけどよ……)
二人はそのまま物陰に駆け込むと、放熱塔偽を預けながら乱れた息を整えた。
「はぁ、はぁ。力が戻ったってのは吉報だ。戦えるってことだろ?」
「そ、そうだけど……なんか変だよ。従響星ではどんなに走っても妨害範囲を抜けることができなかったのに……」
まじまじと自分の手を眺めるリメア。
アーヴィは大きく息をつき、放熱塔に後頭部を当てたまま、天を仰いだ。
塔の先端から排出された蒸気が、もくもくとその体積を大きくしながら漆黒の星空へと消えていく。
「ん……?」
ふと違和感を覚え、アーヴィは放熱塔の裏から顔を出した。
「み、見つかっちゃうよ!」
精霊に聞こえる距離でもないのに小声で話すリメアを無視し、少年は赤眼を細める。
「なるほどな……。おい、戦いの場所にここを選んで正解だったかもしれねぇぞ」
「どういうこと?」
首を傾げるリメア。
「見てみろよ、リメアがさっき転んだ辺りの煙突を」
アーヴィの指さした先の放熱塔を見て、リメアはあっ、と声を上げる。
「気づいたか? あの辺りの放熱塔だけ、煙を出していねぇ」
「つまり、真下にある太陽の明かりもエーテル阻害で消えちゃってるってこと?」
「おそらくな。で、あいつは環境管理している精霊だっただろ? ってことはだ」
「人工太陽の上では、エーテル阻害の力を広範囲で使えない……」
「そうだ。眼の前で飛ぶハエを潰すために、与えられた仕事を完全にほっぽりだすことはできないらしい。俺達にとってこれ以上ないくらい有利な状況だ」
煙の消えた放熱塔から目測する限り、効果範囲は直径二十メートル程度といったところ。
範囲が移動することも拡大する様子もないことから、連発や座標変更はできないようだった。
判明した情報を伝えると、リメアは「すごい!」と目を輝かせる。
しかしアーヴィはそのまま顎に手を当て訝しがった。
「それにしても妙だ」
「なにが?」
「俺が知ってる限りじゃ、精霊には金魚のフンみてぇな奴がくっついてるはずなんだが……どうも見当たらねぇ」
「フンって排泄物のことだよね……なにそれ汚い……」
「比喩だっつーの! 正しく言えば、緊律審官。精霊を主幹としたシステムを監視・調整する、資源管理局の回し者だ」
「管理、調整……っ!」
リメアの目つきが真剣になり、遠くを見つめたまま何やら考え込む。
そして口を開き、ポツリと呟いた。
「もしかしてこの星の状況が悪くなったのって……精霊を管理するそのきんりつなんとかって人のせい……?」
「はっ、短絡思考は良くねぇぜ。星の状況悪化の原因は様々だ。だが被害の大本は精霊、これだけは確かなんだよ。まあ緊律審官にろくでもねぇ奴が多いのも事実だが」
「その、きんりつしんかん? はどこにいったの?」
「知るかよ。精霊とおしゃべりできるなら、お茶会にでも誘って聞いてみるんだな」
軽口を叩いているとアーヴィの視界の端で、なにかが動いた。
視線を動かした刹那、表情が強張る。
「前言撤回、俺達が有利な状況ってのは取り消しだ。危機的状況は絶賛継続中らしい。見ろよリメア」
アーヴィが顎をしゃくれば、リメアもつられて視線の先へと顔を向ける。
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