第20話(2)人工太陽に巣食う精霊【主律星フェニス】
先程までより更に高く、高く。
リメアはそう強く念じながら、瓦礫まみれの床を蹴り飛ばす。
度重なるリメアの着地で穴はビルの中腹まで貫通しており、建物を支える柱はすでに限界を迎えていた。
今まで以上に力を込めたことが仇となり、ついにビルの崩壊が始まる。
床の底が抜けたせいでうまく初速を稼げなかったリメアは、落ちてくるコンクリートの塊を足場に変え加速していく。
「やっ! はっ!! うわっ!?」
瓦礫に紛れて、ロボットが数体、上から覆いかぶさるように降ってきた。
リメアは反射的に体を透過させ、ロボットの胴体をすり抜ける。
「ごめんねっ!」
直後に実体化しロボットの背中すら足場へと変え、より高く翔け上がる。
顔を上げれば崩壊したビルが左右から迫ってきて、屋上の穴がふさがりかけていた。
「はあぁぁぁぁぁぁああああっ!!」
エーテルを噴射し更に加速。
人ひとりがかろうじて通り抜けられる隙間を潜り抜け、少女は青空へと解き放たれる。
もう遮るものはなにもない。
リメアは太陽めがけ、ただひたすらにかっ飛ばす。
薄白の航跡雲を遥か後方にたなびかせながら。
「リメア様、重力が半減、間もなく人工太陽の軌道レール圏に到達しマス!」
「オッケー、リッキー! ええっと、アーヴィは……見つけたっ!」
キョロキョロと星空を見回すと、激しく錐揉みしながら同じ方向へ飛んでいる少年の姿があった。
「うわ……、空中で投げられた方はあんな感じで飛んでくんだ……」
「さすがに同情を禁じえまセンね……」
進行方向を微調整し、アーヴィを両手で抱きとめる。
本意ではなかったが、ちょうどリメアがお姫様抱っこをする形になった。
「あ……止まった……。ありがとう……」
腕の中で肩を縮こめポロポロと涙をこぼすアーヴィ。
「コレではどちらがヒロインかわかりまセンね」
「ちょっと。リッキーは少しの間、お口チャックで」
「うぷ、吐きそう」
「アーヴィも! 全力でお口チャックして!!」
「そんな無茶な……っておい、あれ――」
騒いでいた全員がアーヴィの指差す先を見て、口をつぐむ。
星をぐるりと囲う巨大なレールの上を、スタンドライトの傘みたいな形状の人工太陽が、ゆっくりこちらへと向かってくる。
近づけば近づくほど、その規模の巨大さがはっきりしてきた。直径だけでも数十キロはある。
街ひとつ分と言っても過言ではない。
「……リメア様」
「うん、わかるよ。すごいエーテル濃度」
「やっぱ、間違いねぇな」
皆が同時に頷いた。
精霊は間違いなく、そこにいる、と。
「乗り込むよ」
「ああ」
接近すると視界のすべてが人工太陽に覆われ、その大きさに圧倒される。
(こんなものを駆動させるなんて、精霊はいったいどれほどのエーテルを操っているんだろ……)
リメアの胸中はざわつき、不安がよぎる。
傘の部分に着地すると、鉄の板を叩いたような大きな音が響いた。
周りを見渡すと、十数メートル間隔に円柱型の放熱塔が地面から生えていて、中から光を纏った蒸気が立ち上っている。
ジリジリと足裏に熱を感じる。
(この傘は反射板になってるんだ……。中で光ってる人工太陽の本体は、もっとアッチッチだろうな……)
本物の太陽と同じ球体だったら、着地どころか、今頃火に包まれていたに違いない。
金属なのかセラミックなのか判別のつかないつるつるした地表をよく見ると、びっしりと幾何学的な模様が描かれている。
重力はわずかに軽く感じられ、空気はかなり薄いものの、呼吸できないほどではない。
「アーヴィ」
「どうした、リメア」
「見つけたよ、精霊」
リメアは声を強張らせ、身構える。
丸い地平線の先、放熱塔が立ち並ぶずっと先。
その一部が、小さく盛り上がっていた。
アーヴィも隣で背伸びしながら目を細める。
「来るよ……!」
リメアが警告した直後、盛り上がっていた影が、ぐらりと揺らいだ。
地面が小刻みに揺れ始める。
小さかった影が、その体を左右に振りながらどんどん大きくなっていく。
同じ方向から、なにやらジャラジャラと耳障りな金属音が聞こえてきた。
ゴクリ、と喉が鳴る。
「これが、精霊……!」
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