第18話(1)積層するエラー【主律星フェニス】
アーヴィことアーヴィング・メルキオルは、足音を消して警官へ接近する。
隣では軽装の少女が華麗に舞い、質量を無視したかのような重い打撃でロボットたちをおもちゃのように吹き飛ばしている。
見た目の可憐さとかけ離れた戦いぶりに警官の視線は釘付けだった。
「よう、気ぃ抜きすぎだぜ、あんた」
背中にしがみついたアーヴィは、男の喉元に尖った金属片を押し当てる。
リメアが大立ち回りしてくれたおかげで、そこら中に建物の壁や床の瓦礫が散らばっていた。
警官は静かに両手を上げる。
「相手の見た目が子供だからって、油断しすぎじゃねぇか?」
「貴様……なにが狙いだ……?」
「なぁに、俺達はこの星の精霊の首を頂きたいだけだ。やってもらいてぇことは至極簡単。ボタンをポチッと押して、俺達を閉じ込めてる隔壁を開けてくれるだけでいい」
「このっ! させるかっ!」
警官はアーヴィの腕を掴むと、力任せに引き剥がす。
喉に押し当てていた金属片は男の頬をかすめるにとどまった。
「ちっ」
「動くなっ!」
投げ飛ばされたアーヴィは、片膝をついて着地する。
警官は警棒から銃に持ち替えると、アーヴィの胸部に照準を合わせてきた。
頬の切り傷から血が滴り、汚れ一つない警備服に赤黒いシミを作っている。
(フン……まあいい)
アーヴィは立場が逆転したにも関わらず、不敵な笑みを浮かべながら、制止を無視して立ち上がる。
警官の様子など気に留めず、散歩の途中で棒きれを拾うかのように、足元に転がっていたロボットのビームブレードへ手を伸ばした。
「大罪人め……! 動くなと言っている!!」
「へぇ、こうやって使うのか、っとと」
起動したビームブレードがアーヴィの想定と反対側に伸び、床に突き刺さった。
「持ち手のどっちから刃が出るか分っかりづれぇな。開発担当者に言っとけよ」
アーヴィは刃を引っ込めると柄を器用にくるくると回し、持ち替えると同時に刃を再生成。
伸ばした切っ先を警官の鼻先へ向けた。
刃のプラズマがチリチリと大気を焼いている。
「撃ってみろよ。いつまでボサっと突っ立ってんだ?」
「くそぉぉぉぉおおお!!」
パン、パン、と乾いた音が連続した。
「アーヴィ!?」
リメアの悲鳴が響き渡る。
アーヴィは体を仰け反らせ、胸と額から噴水のように血を吹き出しながら大声で叫んだ。
「大丈夫だ! 気にせずリメアはそっちの相手してろ!」
「ば、化け物め――!」
「はは、はははははっ!」
甲高い笑い声が、火薬の匂いの立ち込める大気を揺らす。
反り返った身体を勢いよく戻し、少年は吹き飛んだ額から流れ出た血を袖で拭った。
「なーんだ、ちゃんと射撃訓練はしてるのな」
コキコキと首を鳴らし、少年はおもむろに歩き出す。
飛び散ったはずの頭蓋と脳漿が黒い靄に包まれながら瞬く間に再生され、傷口は綺麗に塞がった。
警官は青ざめながら、再び引き金に指をかける。
だがそれよりも速く少年の一閃が光の弧を描いた。
真っ二つになった銃の上半分が、軽い金属音を響かせて床に転がった。
「ひっ」
逃げ腰になった警官の腕をアーヴィが掴む。
恐怖に歪む警官の瞳に映りこむアーヴィの赤眼は、狂気を湛えるがごとく爛々と輝いていた。
「逃がすかよ」
「うぁぁああああああっ!」
警官は使い物にならない銃を投げ捨て、腰に手を伸ばすとそのまま大きく腕を振り上げた。
一泊遅れて、アーヴィの身体が斜めにずれる。
「あー、あー、リメア悪ぃ。こっち、ちょっと長引きそうかも」
ベシャリ、と血溜まりの床に転がるアーヴィ。
首を捻って見上げると、警官の手にはアーヴィと同じビームブレードが光を放っていた。
「ったく、ずるくねぇか? こちとら、リーチが短けぇんだよ……」
切り離された胴体から筋繊維が伸び、ぐちゃっと音を立てて接合される。
ゴキ、と背骨が音を立てて繋がると、アーヴィはゆらりと立ち上がった。
「しゃーねぇ。寝起きのリハビリに、チャンバラごっこと洒落込もうぜ……っ!」
アーヴィは大仰にビームブレードを上段に構えると、ニィッと片方の口角を吊り上げた。
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