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第17話(3)脱獄【主律星フェニス】

『捕獲対象、降伏提案を破棄。武力制圧ヘ移行シマス。隔壁ニテ、経路遮断』


 署内にブザーが鳴り響き、天井や床から分厚い壁がせり出してくる。


「へへ、ちょっと目を離した隙に絶体絶命だな!」


 鼻水を垂らしながら、扉から出てきたアーヴィが隣で構えた。

 遅れて登場したものの、残念ながら映画の主人公のようにかっこよくはない。


「……大丈夫なの?」

「ああ、なんとか。目ん玉新しく入れ替えたからな」

「冗談、だよね?」

「いいや? ガチだ。そっちの階段に戻れば、俺のつぶらな瞳とご対面できるぜ?」

「えぇ……グロい……なにその対処法」


 ドン引きするリメアをよそに、アーヴィは屈伸をして準備運動を開始する。


「はぁ、久しぶりの戦いだ。この子供の身体ってのがデカすぎるハンデだが」

「無理しないでいいからね?」

「余裕こいてていいのか? ほら後ろ」


 アーヴィが指差した直後、リメアは反射的に身体を後ろに反らした。

 鼻と目の先を光の刃が通り過ぎる。


「わわっ!」


 体を起こそうとした矢先、別のロボットから追撃を受ける。

 振り下ろされたビームブレードが大理石に突き刺さった。

 リメアはなんとか体を捻って横に飛び、体勢を整える。


「あれ……! これ、まずいかも……!」

 

 後悔したものの、時すでに遅かった。

 壁際を離れてしまったことで、リメアはアーヴィと分断されてしまった。

 同時にロボットたちの完全包囲を許してしまう。

 平坦な音声と共に、全方位から一斉に襲いかかって来るロボット。

 

『制圧、開始――』

「ああ、もう!」

 

 拳で戦うほか、道は残されていなかった。

 

(やられる前に、敵を無力化できれば……!)


 リメアは大理石の床を蹴る。

 すかさず眼の前のロボットの懐に潜り込む。

 突き出した拳が大きな音を立ててロボットの腹部を貫いた。

 頭部のバイザーから光が消え、ガシャリと一体目が地面に崩れ落ちる。


「次は誰!?」


 リメアは翡翠色に輝く瞳で、睨みをきかせた。

 が、次の瞬間。

 耳が捉えるは、足元を薙ぐ風切り音。

 後転。

 先程までいた空間を二本の刃が切り刻む。

 着地後すぐさま顔を上げると、リメアの目が大きく開かれた。


「嘘……!」


 目を疑った。

 先ほど倒したはずのロボットが、半分溶けるような形で別のロボットの足と融合していた。

 足にくっついた一体目の上半身は、なに食わぬ顔でビームブレードを握っている。


「気をつけろ、そいつらは液体金属でできた軍事ロボだ。プログラム次第でいくらでも形が変わるぞ!」

 

 ロボットたちの垣根の向こうから、アーヴィの忠告が聞こえてきた。


「……っ!」


 リメアは立て続けに振り下ろされたビームブレードをかいくぐり、回転しながら空中で二連蹴りを繰り出す。

 スカートがふわりと広がると、三体のロボットが音を立てて壁に打ち付けられた。


(っ!? 効いてない……!)

 

 ひしゃげた三体のロボットは、壁からずり落ちながら互いを融合させ、一体の大きなロボットへと変貌する。


「……まずいかも」

 

 リメアは頬を引きつらせながら、次の攻撃に備えた。

 視界の端でどさくさに紛れて包囲網から逃げ出し、警官の前に躍り出たアーヴィが映る。

 

「おいおい、殺意ありすぎだろそのロボット共はよ。子供相手に明らかに過剰戦力じゃねぇか?」


 警官は表情を変えず、アーヴィに向かって警棒を構えた。


「ロボット達は相手の戦闘力に応じて自律的に行動する。俺が指示を出したわけではない」

「はっ、じゃああいつらの責任者は誰なんだ?」

「……」


 警官兼署長は黙りこくった。


「なんだ、答えられないのも規則ってか?」


 ニタリと笑うアーヴィ。

 そんな二人の様子を遮るようにロボットたちが押しかけてきた。

 リメアは背伸びしながら不満を漏らす。


「ちょっと、おしゃべりなんかより、このロボットたちどうしたらいいの~!?」


 倒せば倒すほど巨大化し、腕や武器が増えるロボットたち。

 リメアは徐々に押され始めていた。

 融合を繰り返し、阿修羅像のようなったロボットの四方八方へ伸びた腕が、断続的に振り下ろされる。

 なんとか反射神経に頼って避け続けてはいたものの、限界は近い。

 ロボットの振り下ろす剣が空を切る音に紛れて、アーヴィの声が聞こえてくる。


「あー、すまん。さっきみたいに、蹴飛ばしてればいいんじゃねぇの?」

「適当言わないで! それやったらどんどんおっきくなって……ほら! また取り込んで大きくなった!」

「なんかこう、必殺技とかねぇのかよ。ずばーんと一気に倒せるような」

「ないよそんなの! ただでさえエーテル使わないように気をつけてるんだから!」

「腕力もエーテルもダメなら、頭使え頭」

「ちょっ! 頭脳担当はそっちじゃないの~っ!」


 泣き言を言いつつもリメアは地下の扉を破壊した時と同じように、巨大なロボットに横蹴りをお見舞いする。

 ロボットの腹部には大きな風穴ができ、中身は背後の壁面に飛び散った。

 しかし、せっかく開けた穴もズブズブと溶けた金属ですぐに覆われてしまう。

 飛び散った銀色の飛沫も、スライムのように床を這ってきて巨大なロボットに取り込まれてしまう。

 

「キリがない……! 頭使えって、そんな……!」


 修復のわずかなクールタイムに、リメアは周囲を見回した。

 ロボットの数自体は統合されたおかげでだいぶ減ったものの、まだ十数体が個別に稼働している。


「っ!」


 背後から横一文字に振られたビームブレードを、高くジャンプして回避した。

 そのままの勢いで廊下の高い位置にある窓辺へぶら下がり、戦場を見渡す。


「なにか、なにか弱点は……わっ!」


 ロボットの体表が粟立ったかと思った瞬間、空間に陽炎の波紋が幾つも広がった。

 飛び退いた壁が蜂の巣にされる。

 銃弾の雨だった。

 リメアは頭から床にスライディングし、ゴロゴロと転がる。

 

「上に飛んだら危ない、的にされちゃう! うわっ!」


 光刃、光刃、弾丸、レーザー、光刃。

 リメアはロボットたちの足の間を横転しながら猛攻をかいくぐる。


「あ、やば……!」


 転がった先で、一体のロボットの足に背中がぶつかった。

 ロボットは待ち構えていたかのように、ビームブレードを振りかぶっている。

 思わず片目をつぶりながらエーテル膜を張り、身を固くした。

 が、しかし。

 痛みがやってくるどころか、膜を叩く衝撃すら感じられない。

 恐る恐る目を開けるリメア。

 

「故障、してるの……?」


 驚き、大きく目を見開く。

 ロボットは、ビームブレードを膜の前で寸止めしたまま固まっていた。

 本人も不思議に思ったのか、首を傾げながらもう一度振りかぶる。

 だが見えない何かが引っかかっているかように、振り下ろす動作の途中で剣は止まってしまう。


「このロボたち、プログラムで動いてるんだよね。……ってことは、もしかして、バグ?」


 銃声に身を翻しリメアは慌ててその場を離れる。

 足元の大理石が砕け、破片が宙を待った。

 リメアはジグザグにバックステップを続けながら、呼吸を整える。

 防戦一方だったものの、先程のバグロボットを見て、リメアは冷静さを取り戻していた。


(あ……これって……!)


 天井のステンドグラスから降り注ぐカラフルな光が、廊下を照らしていた。

 奥の壁際には、巨大化したロボット。

 人形を保ったロボットたちは、もう目の前まで迫っている。

 だが大きなロボットの周りにいるロボットたちは、どうも動きが鈍い。

 後ろ足を引きずっていたり、同じ挙動を繰り返していたり。

 それぞれのロボットは、ちょうどきれいに、ステンドグラスの採光で色分けされていた。

 

「……攻略法、分かっちゃったかも!」

 

 リメアはぺろりと唇を舐めた。

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