第16話(2)戦犯の帰還【主律星フェニス】
「お前は何だ? 俺の、敵か?」
ブンブンと年甲斐もなく首を大きく横に振るヴェール。
「じゃあ答えろ。何だ、お前は」
「こ、この監獄の、監獄長だ。監獄長兼、看守長兼、料理長兼――」
「あー、もう、グダグダ長えな。ここの責任者で俺の敵じゃねぇなら、服と飯、寄越せよ。腹が減った」
「は、はいぃぃぃ!」
ヴェールはもんどり打ちながら、部屋の外へと逃げ出した。
ドタドタと鳴り響く足音が遠ざかったのを確認しつつ、少年は小声になる。
「おい、お前。やつが戻ってきたら、準備を整えて脱出するぞ。子供の工作員とは、恐れ入った。その点に関しては、感謝してるぜ」
馴れ馴れしくウィンクを飛ばしてくる少年。
突然の変わり身に、ぽかんと呆けるリメアだったが、すぐに先程のやり取りを思い出す。
ぷくっと頬をふくらませながらぷいと顔を逸らし、抗議表明とした。
「おいおいおい、何だよ、拗ねたフリか、えぇ? どうした、なにが気に入らなかったんだ?」
ニタニタと笑いながら、わざわざ回り込んで来て、顔をのぞき込んでくる。
ムッとしながら、リメアは反対方向へ顔を向ける。
「リメア! ちゃんと名前教えたでしょ! お前じゃないもん! わたしはリ・メ・ア!」
「あ゛~、もう、ダリィな。わかった、わかった。ったく、これだからガキは」
「リメアっ!!」
「あぁ、すまんすまん。謝るから許せって」
誠意というものがまるで感じられない言動。
軽い口調に、掴みどころのない飄々とした態度。
(何この人! 嫌な感じ!)
悪意こそ感じられないが、決していい人ではない、とリメアは心のなかで判決を下した。
薄目を開けて確かめた少年の体つきは貧相で、大罪人と言われてもしっくりこない。
極端に怯えていたヴェールとは異なりリメアは彼に対する情報を一切持ち合わせておらず、何が怖いのかさっぱりわからない。
登場時はホラー映画さながらの演出にびっくりしたものの、今ではもうヘラヘラした生意気な子供にしか見えなかった。
「おい、帰って来たぞ……」
少年の目配せに振り返ると、荒い息と靴音が階段の方から反響してくる。
「た、ただ今戻りましたっ!」
息を切らせたヴェールがリメアたちの前まで戻ってきた。
囚人服とブランケットを脇に抱え、手には皿が一枚。
その上にはリメアも食堂で食べさせられた、あの料理が乗っていた。
「かぁ~っ、横ボーダーの囚人服とか、コテコテ過ぎだろ。で? んだこれ。レーションか?」
礼も言わずにさっさと服を着た少年は、ヴェールから奪い取った料理をまじまじと眺める。
ヴェールはなにを悟ったのか、ハッと我に返ると、口を開きかけた。
(またあの料理の説明しようとしてる!)
流石に興味の失せた料理の説明をもう一度聞くのはうんざりだった。
しかし、幸運にもそのチャンスが訪れることはなかった。
大罪人という大仰な名を冠した少年は味見をすることもなく、皿を裏返し料理を一気に頬張ったのだ。
「え゛っ」
リメアの口内に、薬品っぽい刺激臭とあのえぐみが蘇る。
もっちゃもっちゃと咀嚼しながら首を傾げる少年。
うわぁ、とリメアは口を両手で覆いながら様子を見守った。
ヴェールは、裏返った声で叫ぶ。
「ああっ、そんなに一気に食べると! ナイフとフォークで少しづつ味わうもので……。 なぜこうなる! 囚人001といい、生ブリックの食べ方を知っているのは吾輩だけなのか!?」
よほど料理に執心だったのか、ヴェールは本気で嘆いているようだった。
やがて少年の咀嚼は終わり、ごくりと音を立てて喉仏が動いた。
やはり美味しくなかったのか、案の定眉間に皺を寄せ、ヴェールを蔑むような目つきで睨みつける。
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