第15話(2)封印開放【主律星フェニス】
「……名所?」
ちょっと身を引きながら尋ね返すと、ヴェールは大仰に頷く。
「そうだとも。この星のエネルギーのうち、約五分の一を使用して維持されている、それはもう素晴らしく壮大で見事な傑作だ!」
「そ、そんなにたくさんのエネルギーを……」
リメアの心臓がドクンと脈打つ。
コズミックストリングを通じて吸い上げられた従響星のエネルギー。
それらが一体どこに使われているのかは、大きな謎だった。
主律星についてから監獄に来るまでの間、通行人の姿を一度も見ていない。
警官や看守まで複数の役職を兼任しなければならないほど、人手も不足している。
となると、人々の生活に使われているエネルギーは極々わずかなはず。
(地上のホログラム投影だけじゃ、エネルギーの消費量が釣り合わないって思ってたんだよね……!)
リメアは疑問の答えが図らずともこの大監獄で見つけられる予感がした。
「その名所、見てみたい!」
「いいとも、ついてくるのだ」
リメアは歩き出した得意げなヴェールに続き、食堂を後にする。
無機質な廊下をひたすら直進していくと、周囲の壁がどんどん年季の入ったものへと変わっていく。
塗装は剥がれ、壁の断熱材や配線が剥き出しだ。
非常灯の明かりを頼りに、薄暗がりをひたすら進んでいく。
(この設備が先にあって、監獄が整備されたのは後の時代なのかな……?)
ぼんやりそんなことを考えていると、分厚い金属の隔壁がふたりの前に立ちはだかる。
ヴェールが解錠キーを制御盤に打ち込むと、隔壁は埃を落としながら口を開けた。
隔壁は三重にまで及んでいて、人の侵入を拒んでいることは明らかだった。
(この奥に閉じ込められてたら、わたしでも脱出にけっこう手間取りそう……)
やや緊張しながらも、リメアはヴェールに続いて奥へと歩き続ける。
隔壁を超えた先には緩いカーブを描いた長い螺旋階段があり、地下深くまで続いているようだった。
「これが、最後の扉だ」
ヴェールが金庫のような扉を手で押し開くと、発電機の低く呻くような始動音が通路に響いた。
扉の先にあったのは、十階建てのビルをそのままくり抜いたような巨大な空間。
通電したのか、天井のスポットライトが次々に点灯していく。
リメアの視線は明るくなった部屋の中央に向けられる。
そこには天井まで伸びる円柱状の大型水槽が鎮座していた。
リメアの胴ほどもある配管とコードが無数に地を這っており、壁面にびっしり敷き詰められた計器類と中央の水槽を繋いでいる。
「あれ……なに?」
よくぞ聞いてくれましたとばかりに、ヴェールは胸を張りつつ仰々しく両手を開いた。
「聞いて驚け、001。あそこに眠っているのはな、先の戦争を引き起こした扇動者で大罪人……、アーヴィング・メルキオルだっ! そしてなんとこの部屋と設備すべてが、彼の檻。つまり、封印装置なのだよ!」
「アーヴィング・メルキオル……?」
聞いたこともない名前だった。
少なくとも、宇宙船のアーカイブにはない情報。
人類の宇宙開拓歴の授業はリッキーにこってり絞られたので、よく覚えている。
「近づいてみてもいい?」
「ああ。足元に気を付けるのだぞ」
リメアは配管を避けながら水槽へと歩み寄り、緑色に濁った水を覗き込んだ。
すると同時にパッと水槽底部のライトが点灯し、内部が強い光で照らし出される。
「うぁ!」
目と鼻の先に、ふやけて皺だらけの人面が現れる。
かなり長期にわたって水槽に浸かっていからか、皮膚は黄土色に染まっている。
リメアはびっくりして尻餅をつきそうになるも、後ろに立っていたヴェールに背を支えられた。
「はは、驚いただろう。ちょっとした余興だ。怖くないから、もう一度よく見てごらん」
首をしゃくったヴェールに促されるまま、リメアは恐る恐るもう一度水槽を遠目に覗いてみる。
どうやら中に閉じ込められている金髪の青年は、水中で両手両足を拘束されているようだった。
ガスマスクのような大きな器具に口は覆われ、頚椎から脊髄にかけて無数のホースが繋がれている。
「生き……てるの?」
「生きているというより、死なないのだよ、こいつは。忌々しい不死身の大罪人さ」
ヴェールは杖の先でコツコツとガラスを叩く。
中の男は、ピクリとも動かない。
(こんな状態でも、生きてるの……この人……?)
息を呑むリメアに、ヴェールは笑った。
「心配には及ばない。急に動き出したりせんよ。あ・れ・が! 機能しているうちはな!」
くるりとターンを決め、演劇じみた所作でヴェールは片腕を高らかに掲げた。
そのままビシッと指し示した先には、壁面の計器の親玉のような制御装置。
ごちゃごちゃに配線が組まれた機能美すら感じる装置の中央には、ヴェールが後付けしたか、場違いなほどカラフルなステッカーがベタベタと貼られていた。
注意書きでポップに彩られた操作盤上にはぐねぐねと形を変えるホログラムが浮いている。
周囲のモニター上では、数値や関数が目にも留まらぬ速さで切り替わっていた。
「あれって……?」
「よくぞ、よくぞ聞いてくれた! あの装置こそが監獄随一のエンターテインメント! その名も“大罪人の封印セキュリティ耐久試験”だ!」
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