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第13話(2)逮捕【主律星フェニス】

「ど、どうしてわかったの?」


 恐る恐る尋ねてみると、男性はぱっと表情を明るくする。


「はっはぁ! やっぱりそうか! まさかとは思ったが、いやはや。なんでわかったか、知りたいかい?」


 コクコクと頷くリメア。


「わかった。じゃあ説明しよう。この星の住人はね、生まれたときに必ず、腕のどちらかにチップを埋め込まれるんだ。そいつが住所登録、買い物の支払い、給料の受取、健康管理、犯罪歴の照会を含め、ありとあらゆる個人情報に直結している」

「はぉー……」

「そしてお嬢ちゃんにはチップを埋め込んだ形跡も、無理やり取り出した形跡も見当たらなかった。この星で生活する以上、チップなしだとデメリットしかない。精神疾患などが原因で自ら取り出してしまうケースを除き、チップがない人なんて見たことがないよ」

「なるほど」


 妙に納得してしまった。

 話を聞いていたのか、逮捕された時とっさに体の中へ隠したリッキーが頭の中でしゃべりだす。


「リメア様、以前アリシア様の体をスキャンした際、この男性が言うICチップについても分析済みデス。リメア様の腕の中へ再現も可能デスが、いかがいたしまショウ」

(ダメだよ、リッキー。こんな状況でエーテル操作すると、不審に思われちゃう。さっきの話でわかったけど、わたしはこの星のことまだ何もわかってないみたい。精霊の居場所もわからない。うまくお話すれば、いろいろ教えてくれるかも!)

「かしこまりまシタ。……ご武運ヲ」


 リッキーとの秘密の会話などつゆ知らず、警官は上機嫌に端末を操作する。

 引っ張られていたワイヤーが解除され、姿勢が自由になった。

 もちろんリメアからすればこの程度の拘束は、無理やり壊そうと思えば簡単に壊せる。

 しかし従順なふりをしていた方が警官から情報を得やすいと判断し、物騒な手段は封印することに決めた。


「こ、この星に来たのは初めてだから、特別サービスとか……ない?」

「そうだな。じゃあお嬢ちゃんには特別に、不法移民と入星手続き不備も罪状に追加しておくね」

「うっ、どんどん悪い人になっていく……」


 るんるんと楽しげな様子の警察官。

 よほどこの仕事が好きなのか、目がやたら生き生きしている。


「これは重大犯罪だから、本部に連絡させてもらうからな」

「……うぅ」


 容赦のない警官に、リメアはなす術もなかった。

 

「それはそうと、外は暑かっただろ、飲み物はいるかい?」

「だ、大丈夫!」

「そうか、残念だ。この車両についているベンダーはとても優秀でね、ジュースからコーヒー、お酒まで出るんだ。もし飲みたくなったらいつでも声をかけてくれ」


 男性はくるりと座席の向きを変えようとして、もう一度こちらへと目線を投げる。


「護送中の飲食は規則で定められていないからな、心配はいらないよ」

(べ、別にそんなこと心配してないけど……)


 リメアが心の中で呟いた反論も知らずに、警官はウインクしながらダッシュボードのボタンを押し込んだ。


「えー、こちら、巡回警備中のD一七二五、不法移民、入星手続き不備、走行区分違反、速度超過の容疑者を現行犯逮捕。本部の指示を待つ」


 罪状をこうもあからさまに並べられると、事情を把握しきれていないリメアでも悪いことをした実感が湧いてくる。

 なんとなく落ち着かず、モジモジしながら窓の外を覗いてみる。

 高速道路をつっ走る車からは、美しくも荒々しい山脈が見えた。

 平地にはサボテンが群生し、まばらだが低草を食むバッファローも見受けられる。


(リッキー、あれもぜんぶ、ホログラム?)

「えぇ。バッファローの動きはランダムに見えますが、一定のアルゴリズムに基づいて動いていマス。間違いありまセン」

(……そうなんだ)


 流れる景色に見とれていると、車内にブザーが鳴った。

 警官は慣れた手つきで応答する。


「こちらD一七二五。どうした?」

『ザザッ――えー、こちら、巡回警備中のD一七二五、不法移民、入星手続き不備、走行区分違反、速度超過の容疑者を現行犯逮捕。本部の指示を待つ――』

「了解、容疑者を輸送し、本部で一次勾留、即日中に監獄へ輸送せよ。並行してICチップの新規発行を関連部署へ要求しておく。ご苦労」


 プツン、と通信が切れ、警官が再びこちらへウインクしてきた。

 続けざまに、再び車内のブザーが鳴る。


「こちら、巡回警備中のD一七二五。どうぞ」

『ザザッ――容疑者を輸送し、本部で一次勾留、即日中に監獄へ輸送せよ。並行してICチップの新規発行を関連部署へ要求しておく。ご苦労――』


 通信の向こう側から流れてくる音声は、間違いなく、先ほど警官が喋っていた内容と瓜二つだった。

 リメアは首をひねり、訝しがる。

 そんな視線に気がついたのか、警官は座席を戻し、苦笑する。


「何をやってるんだと思ったかもしれないね。一人芝居みたいで滑稽だろ? だがこれも規則だ。破るわけにはいかない」

「それって、どんな規則なの……?」

「そりゃあもちろん、本部と巡査の権限を分けるための規則だ。ええっとつまり、偉い人と、普通の警察官で仕事が違うんだよ」

「でも、さっき、おじさんが全部喋ってたよ?」

「おじ……ああ。そうだ」


 おじさん、というワードにやや反応するも、警官はコホン、と咳払いして胸の階級章をリメアに見せる。


「いいかい、私は巡査であり、本部窓口受付であり、そして本部長官すら兼任しているのだ!」

「す、すごい! ……のかな、それって。映画の俳優さんみたいに、一人で三役こなしてるってこと?」

「そうだ。すごいことなんだぞ。そしてとても偉い。……厳密に言うと三役どころか、警察署本部の清掃員、クレーム対応署員、各種申請対応署員も兼ねているが……」

「おぁ、たくさん!」


 あまりの広範囲業務に、リメアは面食らう。

 そしてふと、思いついたことをそのまま口にした。


「でもどうして全部一人でやってるの? 他の人は手伝ってくれないの?」

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