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第5話(2)傷だらけセレモニー【フェニス第3従響星】

「あははっ、こっちこっちー!」


 てってってっ、と軽やかに走るリメアの後ろから、ドタドタと5人分の足音が追いかけて来る。巨大な岩が乱立するこの場所で、五対一の鬼ごっこが始まった。


「回り込め!」


 赤毛少女の号令を合図に、四人が散る。

 リメアを取り囲むようにそれぞれが動き、岩の間からこちらを伺ってくる。


「あそこに追い詰めろ!」


 赤髪少女が背後から指さした先に、リメアも視線を向けた。

 密度高く岩が並んでおり、袋小路のような行き止まりになっていた。


「逃げるな!」

「まてー!」


 リメアが逃げられないように、左右の脇道が他の四人に固められる。

 進める道は前しかない。

 絶体絶命の窮地の中、ニコニコのリメアは袋小路めがけ更に加速する。


「こいつバカか!?」

「囲い込め!」


 ドタドタと後ろに集まった五つの顔。

 迫りくる岩の壁。

 そこでリメアは突然急ブレーキを掛け、岩陰に飛び込んだ。

 袋小路にやってきた少女たちは、キョロキョロとリメアが身を潜めていそうな場所をくまなく探す。

 岩と岩の隙間はぴっちり閉じていて、子供の体でもすり抜けられる場所は見当たらない。


「どこに行った!?」

「――ここだよ?」


 トントンと肩を叩かれた一人の少女が、ヒッと声を上げる。

 袋小路の入口側から現れたリメアに、各々が狐につままれたような顔で互いを見た。


「誰か、逃がしたな……?」


 ギロリと睨みをきかせる赤毛に、四人の少女は皆、首を横に振った。


「あれー? もうおしまい?」


 険悪な空気をあしらうように、リメアは安い挑発を投げかける。

 

「あんま調子のんなよ……?」

 

 赤髪の頭からは、今にも湯気が出そうだった。

 そんな彼女を横目に、踵を返しリズムよくスキップを始めるリメア。


「ふふ~ん♪」


 鼻歌を歌いながらワンピースをひらひら揺らし、誘うように岩の向こうへ。

 少女たちは頷き合うとすぐさまリメアのあとに続く。

 しかしその後、ストーンヘンジは、徐々に異様な空気に包まれていくこととなる。

 少女たちは岩を曲がったリメアの姿をすぐに見失ってしまったようで、怪訝な表情を見合わせる。

 リメアは体を透過させたまま岩から岩へと移動し、呼びかけを繰り返す。

 離れた場所から、次は少女たちの隣からと、遠近織り交ぜながら。


「ここだよ~」

「こっちこっち」

「まだ見つけられないの~?」

「そっちじゃなくて、こっちだよ」


 まるで、黒髪の少女が何人にも分身したかのように。


「どういうことだ……」

 

 赤毛の少女を含め、全員の顔に焦りと不安が浮かぶ。


「い、いました!」


 四人のうち、やや背の低い少女が声を上げた。

 リメアは岩に寄り掛かり、退屈そうに毛先をいじって見せる。

 少女は慌ただしく他のメンバーを手招きし、すぐにこちらへと振り返る。

 刹那、その目が大きく見開かれた。

 白銀に染まった髪をなびかせたリメアは妖しい笑みを浮かべたまま、わざとらしく岩の壁の中へ、スゥッと溶け込んでみせたのだ。


「えっ……」


 口をぱくぱくさせながら固まる少女の周りに、息を切らした他の少女らが集まる。

 

「どこだ!」

「い、今そこにいた!!」

「いないぞ!」

「ち、違うの、い、岩の中に溶けちゃったの!」

「…………はぁ?」


 疲労の滲む顔で、赤毛がリメアを見つけた少女ににじり寄る。


「本当なの!!」

「……ッ!」


 大きく振りかぶった手のひらが、風を切って怯える少女の頬を叩かんとする。

 ――パシンッ。


「……また、ハイタッチだね!」


 平手打ちは背の低い少女と赤髪の間に差し込まれたリメアの手によって阻止される。

 嫌がらせのように二度も続いたハイタッチに、赤髪の少女は怒り狂った。


「てめぇ! うろちょろどこからっ!?」


 叫んだ少女の表情が、恐怖一色へ綺麗に染まる。

 ニョキッと岩の壁から生えた植物のような格好で、リメアはちろりと舌を出した。


「えへ、ばれちゃった?」


 不敵な笑みを浮かべたまま、埋まっていた下半身を岩から出す。

 五次元空間から三次元空間に適応途中だった足は、半透明に揺らいでいた。

 少女の一人が、耐えかねて悲鳴交じりの声を上げる。


「こ、こここ、こいつ、幽霊だ!!」


 その声が合図だった。

 揃いも揃って互いを押しのけ合いながら、ドタバタと背を向け駆け出す少女たち。

 ストーンヘンジの外に向かって、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 したり顔で眺めていたリメアは、ハッと気づいて、慌てて彼女らに呼びかけた。


「あ、まって、そっちは……」


 言い終わるよりも先に、結果報告が各方面から聞こえてくる。


「ぐえっ」

「わぁっ」

「きゃっ」


 あちゃー、と後ろ頭をポリポリかきながら、リメアは呟く。 


「そっちはまだ、埋め立て工事中だったんだけど……」


 まさに、時すでに遅し。

 少女たちは掘り返されたままの深い穴に、それぞれきれいに収まった。

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