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鬼の神使いーインディアンと騎兵隊と武士(さむらい)の戦記― 続武士大神(もののふおおかみ)  作者: ぽんた


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饂飩と違和感

「副長、どうしても先に戻れといってきかぬのです」

 辺りはすっかり暗くなっている。森から戻ってきた斎藤が躊躇いがちに報告すると、それを受けた土方よりも早く近くでそれをきいていた沖田がにやにやと笑いながらいった。

「やはり頑固ですよね、土方さんの息子」「あぁ、悪いか?」眉間に濃く皺を刻んで沖田を睨み付ける土方。

「それが頑固なのはあなたの甥も同じでして、副長」

「坊はまだやるってきかないし厳周は坊についてるから先に帰れってきかないし。もっとも、坊は純粋にやり遂げたいってことで、厳周は親父さんに対して意地になってるのとおれたちに気をつかってるってことだろうがな。で、その親父さんは?」

 土方は永倉の説明をききながら窓辺に近寄った。そこから暗くなった異国の冬景色を見渡す。

 異国の家屋はなにもかもが故国のそれとは違う。まず、土足でずかずかと屋内に入っていくことに抵抗を覚えてしまう。

 玄関ホールの横に居間があり、そこに大きな暖炉があった。故国でいうところの囲炉裏のようなものか。それのおかげで室内は驚くほど暖かい。

 家屋の修繕には几帳面で繊細な相馬が中心になってあたっている。住居から始めていたので、とりあえずは寝起きするこの母屋は不自由なく過ごせるようになっていた。


「両掌を消毒するだけして様子をみにいってしまった。すまなかったな。兎に角、体を温め夕飯を済ませてくれ。後で作戦会議を行う」

「おうっ!飯っ、飯っ!」「原田先生っ、今夜は負けないぞっ!」「小癪なわっぱめ、いいだろう、受けて立ってやる 」「おのおの方、油断めさるな。伏兵が潜んでおりますぞ」「あららワオ、それを申されては伏兵にはなりませぬぞ、藤堂殿っ!」

 原田と市村、藤堂に野村が上機嫌で冗談をいいあっている。最近、以前にも増して彼らは食事中におかずの取り合いなどをして騒がしい。全員が米をそろそろ恋しがっていることが要因の一つだ。豆や小麦粉ではどうしても米の代用にはならぬ。その鬱憤を晴らすがごとく騒ぐのだ。それを土方夫妻も大目にみていた。そうでなくては米文化で生まれ育った仲間たちがかわいそうだ。


 手を洗うために原田らが去ると、土方は残っている永倉と斎藤に向き直った。いつもどおり眉間に皺が刻みこまれている。

「なんだ斎藤、わかってる、義兄上あにうえの息子への厳しさのことだろう?」

 斎藤、そして永倉もいいたいことがあるのだ。心中をよまずとも二人の表情かおからそれがはっきりとわかる。

「ええ、それもあります。ですがいま一つ・・・」斎藤は尖り気味の顎を利き掌のほうの指でさすりながらいいよどんだ。

「なんだ?新八、おめぇのいいたいことも斎藤と同じか?」

「おそらくな・・・。坊のことだがな副長、おれにはどうもあの子がただの赤子のような気がしねぇんだが。ああ、神絡みは抜きにしても、だ。斎藤、そのことだろう、おまえがいいたいのも?」

 声量を抑える永倉に斎藤はまず無言で頷いた。「ずっと違和感がつきまとっています」

 それは土方自身にも当然いえることだ。否、おそらくは永倉や斎藤以上に感じている。自身らだけではない。沖田や原田なども同様のはずだ。

 そう、柳生の一族以外は。正確には、柳生の一族は知っている。土方たちのように感じているのではなく、確かになにかを知っているのだ。


「まぁっ!そのようなところで立ち話などして。新八さんも一さんもお疲れ様でした。寒かったでしょう?」

 土方が口唇をひらこうとした機会タイミングで食堂から信江がでてきた。最近では心中の防御を無意識のうちにしているから自身でも偉いものだと自画自賛してしまう。

「ニックが小麦粉を大量に手に入れてくれたので今夜はそれで麺を打ってみました」

「斎藤、面じゃねぇ!白くて長い、喰う麺のこった」斎藤の利き掌がぴくりと動いたのを目敏くみつけた土方が小声で嗜めた。

「冷えますからね。お饂飩を拵えました。伸びないうちに食べてくださいな」

「そりゃありがたい」永倉と斎藤も故国の食事が懐かしいのは同様だ。同時に表情かおが明るくなった。それはなにも玄関ホールの天井からぶら下がっている洋燈ランプのせいではない。

「うまかったぞ。体の芯から温まるってのはこういうことだ。さあ、早く掌ぇ洗って喰え。左之や市村に取られんうちにな」

 ほんのわずかの間に交わされる視線

 信江もなにかを知っている。これは柳生ということも含め母親だからかもしれぬが。 

 やはり柳生の一族はわかっている・・・・・・

 故意に邪魔をされた密談を中断し、副長・・と二名の組長・・はそれにのるしかなかった。

 だが、こういう駆け引きは嫌いではない。


 この駆け引きがこの後十年以上もつづくとになるとは・・・。

 このときの副長や組長たちにそれを知る術はない。

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