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可愛いは最強!〜合理主義悪役令嬢の生存戦略〜  作者: ままはる
《ケーストリデン家の女たち》
37/39

37.まずは私の部屋へ参りましょう


 ――さすがに言いすぎたかしら。


 リュカの反応が気になってちらりと視線を向けると、彼は笑って小さく頷いた。


 『大丈夫だ』と言いたかったのかもしれない。けれど今の私には、『もっとやれ』と言っているようにしか見えなかった。


「ブランシュ様」


 無言で車椅子を動かし、部屋に戻ろうとしたブランシュ様を呼び止める。


「……なんだい」


「今日は、リュカと過ごすのは諦めますわ」


「そうかい。だったら――」


「私とブランシュ様で、出掛けましょう」


「はぁ? なんだってあんたと……そもそも、どこに行くつもりだい」


「まずは私の部屋へ参ります。ロミ、来なさい!」


 私はブランシュ様の車椅子のハンドルを握った。


「これに触るんじゃないと――」


「お嫌でしたら、歩く訓練をなさってはいかがですか? 聞けば怪我でもご病気でもないそうですし、ブランシュ様なら、また歩けるようになるそうですよ」


 前のように怒鳴られる前に、畳み掛ける。ブランシュ様は鬼のような形相で睨んでくるけれど、構わなかった。


「あ……あれ? 俺はどうしたら……?」


 食堂にリュカをぽつんと取り残したまま、私はブランシュ様を自室へと運んだ。


「この部屋で何をするつもりだい。言っておくけれど、年老いても私は現公爵の母親だよ。下手なことをすれば、この屋敷から叩き出すだけじゃ済まないからね!」


「綺麗になりましょう、ブランシュ様」


「……は?」


 化粧台の前に車椅子を停めると、私は有無を言わさず、ブランシュ様の髪を纏めた紐を解いた。


 雪のように白く長い髪を、ブラシでゆっくりと梳いていく。


「ロミ。髪は貴女に任せるわ。派手すぎず、地味すぎず……そうね、イメージは芍薬よ」


「はい。やってみます!」


「ちょっと! 何を勝手なことを……!」


「ブランシュ様。私を信じて欲しいとは申しません。悪女の毒牙にかけられたとでも思って、一度だけ辛抱してください」


「……っ!」


 ブランシュ様は強く拳を握りしめたが、それ以上の抵抗はしなかった。


 私は化粧台に並んだ瓶を手に取り、化粧水やクリームをブランシュ様の肌へと重ねていく。


「この化粧台、鏡がとても見やすいんです。引き出しの位置も数も、すごく使いやすくて。年季は入っているけれど、少しも古臭くない。むしろそれが魅力的で、私は気に入っているんですよ」


「……ふん」


 ブランシュ様は目を閉じたまま、小さく鼻を鳴らした。


 私は彼女の肌に、丁寧に化粧を施していく。


「ブランシュ様はお肌がとても白いので、爪と同じようなピンクがよく映えると思います。深いワイン色もお似合いになりますが、今回はローズピンクを目元に入れますね」


 その上に控えめで上品なラメを乗せて、アイラインを引く。更にマスカラで睫毛にボリュームを出し、眉の形を整え、頬にはチークで血色感を足した。ハイライトとシェーディングを加えて、最後に明るい紅を引く。


「髪型、完成しました」


 ロミは、私の頭の中のイメージそのままに仕上げてくれていた。品のある編み込みの、低めのアップヘアだ。


「メイクも終わりました。ブランシュ様、目を開けて鏡をご覧になってください」


 ずっと目を閉じていたブランシュ様が、ゆっくりと瞼を開く。そして鏡に映ったご自身の姿を、じっと見つめた。


「いかがですか? お気に召しませんか?」


「……」


 ブランシュ様からの返事はない。ただ無言で、鏡に見入っている。


 この反応だけでは、是なのか非なのか判断がつかない。


「差し支えなければ、今日のお姿に似合うドレスを買いに参りたいと思っています。お付き合い願えますか?」


「……私は悪女の毒牙にかけられたんだろう。好きにおし」


 

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