26.お義姉様たち①
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――そうして、冒頭へと繋がるのだ。
「あ……悪女……」
リュカの忠告もあって、ただの挨拶ではないかもしれないとは思っていたが、開口一番そう来るとは。まさかこの兄嫁たちも、あの侍女たちと同じような、くだらない嫌がらせをするつもりなのだろうか。
女社会では、まず泣き落としは通用しない。かと言って、初対面で応戦するには相手が悪すぎる。まずはもう少し、出方を見るべきだろう。
私は居住まいを正し、礼を取った。
「ご挨拶が遅れました。ガルシア・パシュテール伯爵の次女、エステルと申し上げます。セシール様、ナディア様。本日はお招きいただき、感謝いたします」
得意の笑顔でにっこり微笑むと、ナディア様は目を細め、真っ赤な唇の端を上げた。
セシール様は柔らかい雰囲気の女性だが、ナディア様はあまりにも独特だ。お葬式でもないのに、ドレスは真っ黒。しかし真っ白な肌がドレスと艶やかな髪に映えていて、エキゾチックな美しさのある方だ。
「へぇ。リュカの趣味って、こういうのなんだ? 悪女って言うより、小悪魔系? あの馬鹿、人を見る目だけはありそうなのに、女を見る目はないんじゃない?」
あまりにもストレートな物言いに、思わず私の目が点になる。
「本当にあんた、舞踏会場の真ん中で婚約者に婚約破棄を言い渡したの? しかも実の姉から奪い取った男をポイ捨てして、あの阿呆に乗り換えたって?」
「えっと……」
「アレのどこがいいの? 肩書きが欲しいなら、侯爵夫人でも十分だと思うんだけど」
「あの……」
「あ、もしかして顔で選んだ? それなら――」
「ナディアちゃん。エステルちゃん、すごーく困ってるわよ」
矢継ぎ早に詰め寄られる私を見兼ねたのか、ナディア様の後ろからセシール様の制止が入った。
「ごめんなさいね、エステルちゃん。ナディアちゃんたら、貴女に会うのが楽しみすぎて、昨日の夜から寝てないの。だからテンションがおかしくって」
「い、いえ……」
「こっちに座ってちょうだい。お茶でも飲みながら、ゆっくりお話ししましょう」
ふわりと笑うセシール様に促され、私たちは庭に用意されたテーブルの席に着いた。
セシール様の侍女が、私が手土産として用意したお茶菓子をテーブルに運んでくる。それを見たセシール様は、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「あらぁ。私、このお菓子大好きなのよ。エステルちゃん、知って――ぶふぉっ!」
「セシール様!?」
言葉の途中で、セシール様は突然吹き出した。両手で顔を押さえ、肩を震わせながら、懸命に何かを堪えている。
「ごめ……っ、ごめんなさ……ぶふっ……ちょっと、あの……ふふふっ……お、思い出しちゃって……!」
「お、思い出した……?」
「義姉さん。その思い出し笑いをする癖、早く治した方がいいわよ。側から見ていて、とても不気味だわ」
「そ……そうよね、ごめんなさい。本当に……うふふふふ」
ひとまずセシール様が落ち着くのを待ってから、ナディア様が尋ねた。
「何を思い出したの? 舞踏会のこと?」
「そう。リュカ君とエステルちゃんのダンスと、直後の婚約破棄宣言! もう、何度思い出してもおかしくって」
「あ……」
自分でもなるべく思い出さないようにしていたのに。私は恥ずかしくなって、俯いた。
「あ、違うのよ! 馬鹿にしているわけじゃないの。あのリュカ君が舞踏会に来て、あのリュカ君がダンスを踊って、しかもあのリュカ君に合わせて踊れるエステルちゃんて、本当にすごいと思ったのよ!」
……さっきからナディア様と言い、セシール様と言い、リュカに対する評価が低い気がするのは気のせいだろうか。
「ほんっとにナディアちゃんにも見て欲しかったわ。彼、ミラーセン侯爵の一人息子でしょう? あの人ったら、エステルちゃんと踊っている時からずっと違う女の子ばっかり目で追ってるのよ。なんて酷い男だと思っていたところに、あの婚約破棄宣言! スカッとしたわー!」
「そもそも本来は、あの男の方が姉を捨てて妹に乗り換えたんでしょ? なのに、なんでエステルが悪いみたいな話になったの?」
「もともと女の立場って弱いものよ。浮気とか不倫とか、された方が悪いって大体女のせいにされるじゃない? それにきっと、侯爵が息子の体面を守るために、そういうことにしたのよ」
「はぁ? マジで胸糞悪いわね」
……これは、どういうことだろう。
相槌を打つ間もなく繰り広げられるセシール様とナディア様の会話を聞いていると、どうやら私を本物の悪女だとは思っていないようだった。
「で、実際のところはどうなの? 噂通りの悪女なの? それとも、あたしたちが話した方が真実?」
「あ……きっと誤解されていると思っていましたので、安心しました……」
じわじわと、リュカの言葉の意味がわかってきた。
ケーストリデン家の女は、癖が強い――確かに、その通りかもしれない。私が本物の悪女でないとわかっているのなら、ここへ呼んだ理由はなんだろう。




