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可愛いは最強!〜合理主義悪役令嬢の生存戦略〜  作者: ままはる
《破棄から始まる婚約成立》
14/35

14.鉱山の内部へ

⭐︎


 鉱山の中はひんやりとしていた。等間隔に設置された魔灯器の青白い明かりが、迷路のように枝分かれした狭い坑道を照らしている。


 どこか湿っぽく、鉄を含んだ臭い。外とは明らかに違う重たい空気が、私の気持ちまでも底の方へと沈めていく。


 ああ、嫌だ。どこから魔物が出てくるかもわからないこんな場所、一刻も早く出たい。明るい太陽が恋しい。


 憂鬱な私とは裏腹に、カイエンと並んで先頭を歩くリュカ様は楽しそうだった。物珍しそうにきょろきょろと首を回しては、時折子供のようにはしゃいだ声を上げる。その無邪気な様子に、沸々と怒りさえ湧いてくる。


「エステル様、大丈夫ですか?」


「……」


 私の隣を歩くロミが小声で囁いたが、答える気も起きなかった。代わりに、彼女の袖を小さく摘んで握りしめる。


 他の従者たちは外に待機させたが、彼女を連れて行くと決めたのは私だ。なんとなく、この面子の中では一番信頼できるような気がしたから。


「エステル。怖いなら俺の側に――」


「お気遣いありがとうございます、アルベリク様。けれど私は、鉱山を有する伯爵の娘です。このくらい、平気ですわ」


 最後尾を歩くアルベリク様の言葉を、笑顔で躱した。婚約者なのだから私を守るのは当然だろう。しかし今はこの状況に苛立っていて、彼が軽率にスキンシップでも取ってきたら、笑顔で受け流せる自信がなかった。


「この先が、現在の採掘現場です。そちらは危険ですので、こちらへご案内いたします」


 カイエンが指差した坑道の先からは、ツルハシが岩を叩く音や、台車が転がる音、男たちの賑やかな声が聞こえてくる。誰かが何かを叫び、それに応えるように別の声が笑う。地上とは違う種類の活気が、暗闇の奥にひしめいていた。


 別の道を進んですぐ、開けた空間に出た。採掘途中の現場なのか、足場が組まれ、様々な資材が置かれている。


「これが、鉄鉱石の鉱脈です」


 カイエンは灰色の岩肌に走る、黒くて太い筋を示した。ところどころ赤錆のような色が混じっている。


「これを掘り進めて行くのは、想像を絶する労力を要するな」


 冷たく硬い岩肌に触れ、リュカ様は高い天井を見上げた。


「お前たち鉱山夫がいて、鋼を打つ職人たちがいて、それでようやく俺たち騎士が敵を討てる。日頃の労働に、感謝する」


 ……へぇ。傍若無人に人を振り回す割には、謙虚だこと。


 思いもよらぬ公爵家の言葉にカイエンが感動を覚えたその時、にわかに遠くで騒がしい音と声が聞こえてきた。


「少々こちらでお待ちください」


 カイエンが、元来た道を駆け戻って行く。私はその背中を見送りながら、ロミの裾を握った手に力を込めた。


「事故でしょうか」


「魔物かもな」


 事も無げに言ってのけたリュカ様の言葉に、私の頭から血の気が引いていく。そんな私の様子に気づいたのか、アルベリク様の大きな手が私の肩に触れた。


「鉱山の内部に出る魔物は大したことはないから、心配するな。それに魔物は魔鉱石の力に惹かれてやって来ると言うから、吉兆の証だとも言われているそうだ」


 大したことがあろうがなかろうが、魔物は魔物だ。


「魔物が出たなら、オレアスにお目にかかれるかもしれないな」


「魔鉱石の守り人ですか。リュカ様は、オレアスをご覧になられたことが?」


「ない。奴らの置き土産は見たことはあるがな」


「彼らがいれば、大きな魔鉱石が出るらしいですね」


 男たちは呑気なものである。リアーナを横目で見ると、彼女もまた不安そうな顔で両手を胸の前で組んでいた。


 やがてカイエンが戻ってきた。


「魔物が出たそうです。警備の者が応戦していますが、数が多いので応援を呼びに行かせました。ここまで来ることはなさそうですが、騒がしくなるので出ましょう」


「なら俺が行く。案内しろ」


 は? 嬉しそうな顔で、リュカ様は何を言っているの?


「アルベリクはここで彼女たちの護衛を頼む」


「え、ちょっ……リュカ様!?」


「オレアスを見たら報告してやるから、待っていろ」


 私たちの意見も聞かず、リュカ様はさっさと歩き出してしまった。カイエンは戸惑うように私たちを見たが、一礼してリュカ様を追って行く。


「なん……っ」


「メチャクチャな人ですね」


 なんて身勝手な男だ! 危うく口から出るところだった言葉をなんとか飲み下した私の代わりに、ロミが言った。


「でもあの人、ちょっとだけエステル様に似てますよね」


「あら、ロミ。それは私がメチャクチャな人だと言いたいのかしら?」


「は……っ! ち、違います! 人を見る時の目が似ているだけです! エステル様はメチャクチャじゃなくて……えっと……ハチャメチャと言いますか……!」


「同じじゃないの」


「……あぅ……」


 これ以上は墓穴を掘ると悟ったのか、ロミは大人しく口を閉ざして一歩下がった。


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