13.カレイド鉱山
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カレイド鉱山は、パシュテール領の南にある質の良い鉄鉱石が採れる鉱山である。稀に貴重な魔鉱石が採掘されることもあり、父が力を入れている鉱山の一つだ。
鉱山の周辺は小さな村の様相を呈しており、その入り口では事前に私たちの訪問の報せを受けていた、責任者であるカイエンの歓迎を受けた。
カイエンもまた、元鉱山夫だ。がっしりとした体は真っ黒に日に焼けており、快活な初老の男である。幼い頃から父に連れられて何度か会ったことがあり、私たち姉妹にとっては馴染みのあるおじさんだ。
リュカ様は、挨拶もそこそこにカイエンに鉱山の入り口へと案内させた。脇に積み上げられた採掘されたばかりの鉄鉱石を目にして、彼の目がキラキラと輝く。
「この石ころが美しい剣になるんだから、職人の技というのは素晴らしいな。こっちのは色が違うようだが、これも鉄鉱石か?」
「そちらは魔鉱石にございます。このように小さなものは護身用のブローチなどに加工いたします」
カイエンは自身のループタイに通した装飾を指差した。親指の先ほどの大きさなので強力なものではないだろうが、それでも薄い防壁を張る程度の力があるはずだ。この大きさの魔鉱石で、馬一頭に匹敵する価値がある。
「もっと大きなものであれば製錬の際に鉄鉱石と一緒にして、剣を作ることもございます」
「魔法剣か。俺のかつての相棒も魔法剣だった。同じような剣を探しているが、どれも少しずつ使い心地が違って決めかねているんだ」
「魔法剣は相性が重要ですからね。私の魔法剣も、この手に馴染むまで数年掛かりました」
アルベリク様は腰に差した剣に、大事そうに触れた。
あれこれとカイエンに質問をするリュカ様と、それを隣で興味深そうに聞いているアルベリク様とリアーナ。その後ろで私は、笑顔を貼り付けたまま退屈を持て余していた。
鉱山なんてちっとも面白くない。土や砂だらけで煙たいし、鉱山夫たちの汗の臭いも嫌いだ。宝石になる鉱石ならまだしも、鉄鉱石の何がそんなに楽しいのか、私にはさっぱりわからなかった。
「エステル。お前は見飽きているかもしれないが、もっとこっちへ来たらどうだ」
「見飽きているだなんて、そんなことは」
リュカ様の言葉に一瞬ドキリとしたが、笑顔を崩さぬまま彼の隣へと行く。退屈していたことなど、顔には出していなかったはずなのに。
「精錬所や鍛冶工房もご覧になってはいかがですか? リュカ様のお気に入りの一品が見つかるかもしれませんわ」
「そうだな。その後は鉱山の中に入ってみたい」
「私やお姉様も、鉱山の中には一度も入ったことがありませんのよ。お父様が危険だからと近寄らせてくださらなかったんです」
「俺も入ったことがない。全員初めてなら、楽しめそうだな」
どうやらリュカ様は、配慮はしてくれないらしい。
「リュカ様。鉱山の中……特に魔鉱石の周りには魔物が出ると言います。彼女たちを連れて入るのはいかがなものかと……」
アルベリク様、ナイスだわ! 今までで一番、いい仕事をしている。
「その為に俺たちがいるんだろう? さすがに崩落からは守れないだろうが、鉱山の魔物くらいどうってことはない」
「それはそうですが……」
心の中でアルベリク様を応援するが、そこはやはり押しに弱い彼のことだ。すぐに黙り込んでしまった。
リュカ様は小さく笑うと、私とリアーナに目を向けた。
「それとも貴族令嬢は、鉱山には入りたくないか?」
「私は一度、足を踏み入れてみたいと思っていました。足手纏いになるやもしれませんが、連れて行ってください」
リアーナがそう答えてしまっては、私だけ行かないわけにはいかなくなってしまったではないか。
内心げんなりとしながら精錬所へ移動していると、身体中に包帯を巻きつけた男が三人、苦痛に顔を歪めながら鉄鉱石の乗った台車を押している姿が目に入った。
「彼らはどうしたの?」
「先日鍛治工房で事故があり、火傷や怪我を負った者たちです。腕の良い職人たちなのですが、道具が握れないので雑用をしているのでしょう」
痛ましそうな目で尋ねたリアーナに、カイエンが答えた。白い包帯には血が滲んでおり、傷の深さと、事故からさほど日にちが経っていないことが窺える。
私はざっと周辺に目を走らせた。周囲では、汗を流しながら男たちが忙しなく動き回っている。真新しいツルハシを肩に担いだガタイの良い男たちが、小さく頭を下げて私たちの横を通り過ぎて行った。
「どうかしたのか?」
「いいえ、なんでもありませんわ」
私を見下ろすリュカ様に、私はにっこりと笑って返事をした。しかし頭の中では、すぐに別のことを考え始める。
この鉱山には医師が常駐している。怪我人の包帯は清潔で、道を行き交う鉱山夫たちの体格も良い。建物や備品の手入れも行き届いている。それなのに鉱山夫たちの表情はどこか疲れていて、怪我をした職人まで雑用に駆り出されている。これは恐らく、人手が足りていない。
経営に口を出しすぎて父に煙たがられては元も子もない。セレスタンにそれとなく進言してみようか。雑用を優先して職人たちの治療が疎かになれば、結果的に生産が遅れてしまうのだから。




