11.リアーナの想い
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翌朝、私はリュカ様の迎えをサロンで待っていた。ローズヒップの香りで胸を満たしながら、リュカ様はどんな女性が好みなのだろうかと思案する。公爵家に気に入られて損はないし、彼は将来アルベリク様の上司になる人だ。今日で情報を引き出せるだけ引き出しておきたい。
そんな風にあれこれ考えていると、準備が整ったらしいリアーナもやって来た。
相変わらず、どこかズレた装いである。淡いブルーにフリルとリボンが沢山あしらわれた外出着は、全然彼女には似合っていない。と、言うよりも――
「お姉様。ひょっとしてそれは、私への当てつけですか?」
「え? あ、当てつけ?」
リアーナはきょとんとした顔で私を見つめる。
「今日の衣装も昨日のドレスも、私が好んで着ているものに似ているわ。お姉様は、私になろうとしているのかしら」
「あ……」
途端にリアーナの顔が真っ赤に染まった。
「やっぱり、そう見えてしまうわよね……」
「そうにしか見えないわ」
「……ごめんなさい」
聞き取るのがやっとの、小さな声を漏らす。
「エステルになりたいわけでも、真似をしているわけでもないの……ただ、どうすればいいのかわからなくて……」
「一体、何がしたいの? 急に装いを変えてみたり、化粧をしたり。アルベリク様にも随分積極的に話しかけているみたいだけど、彼を取り戻したいとか子供じみたことはおっしゃらないでね」
「ち、違うわ! あ、いえ……お……お心が戻ればと望んではいるけれど、それは、もう……」
憂いを含んだ目を落とし、もごもごとはっきりしない姉に次第に苛立ってくる。
「だったら何だと言うの?」
「そ、その前に謝らせてほしいの!」
「謝る? お姉様が、私に?」
「学校でのことよ。婚約破棄が辛くて、悲しくて……友人に話を聞いてもらっていたら、エステルが簒奪者のような話になって広まってしまって……本当に、本当にごめんなさい!」
まるであんなことになるとは思っていなかった、とでも言いたそうな口ぶりだった。
「あの時……改めて思ったの。エステルは本当にすごいな、って。貴女は一言も言い訳をしなかったと聞いたわ。貴女の日頃の努力が、自然と周りを味方に変えたのよ」
「そうね、当然だわ」
「それで思い知ったの。私はこれまで、アルベリク様のお心を繋ぎ止める努力をしていなかった。彼が見た目の麗しい女性が好きだと知りながら、私はそうなろうとはしなかったの……だから今回の婚約破棄は、自業自得なのよ」
「だから今更になって、綺麗になる努力を始めた……と?」
「で、でも……何をどう変えたら正解なのか、わからないのよ……綺麗で可愛い人を参考にしようとすると、どうしたってエステルの真似をしているみたいになってしまうの」
……呆れた。どんな悪意や打算を積み重ねているのかと構えていたのに、拍子抜けするほど不器用な本音しか出てこない。
「……せめて、お姉様の侍女に協力させたら? その様子だと、手出しさせていないのでは?」
「だ、だって……! エステルは、全部自分でコーディネートしているでしょう? 私も――」
「私の磨き抜かれたセンスは、一朝一夕で身につけたものではないの。簡単に真似できると思わないで」
ぴしゃりと言い捨てると、リアーナは赤い顔のまま俯いてしまった。
「エステルになりたいわけじゃないと言ったけれど、本当は羨ましかった……可愛くて、賢くて、積極的な貴女が。少しでも貴女のようになりたかった。手遅れだとわかっていても、やっぱり私はアルベリク様のことが……」
リアーナの声は、途中から言葉にならなかった。
まったく……なんて面倒な人なのだろう。いっそ私を悪者に仕立て上げ、悪意の罠を張り巡らせてくれていた方がよっぽど良かった。
「……ごめんなさい。こんな格好では、リュカ様にもアルベリク様にも笑われてしまうわね。私は体調が優れないことにして――」
「ちょっと、そこのあなた」
私はリアーナの言葉を遮り、部屋の隅に控えていた彼女の侍女を呼んだ。
「リュカ様がいらっしゃるまで、まだ時間があるわ。お姉様の支度をやり直しなさい」
「エステル……? 私はもう――」
「お姉様の侍女で、おさげ髪の子がいるでしょう。あの子が一番マシだから、彼女にヘアメイクを担当させて。衣装はもっとシンプルなものを。お姉様にふわふわした色は似合わないから、深い青か濃紺がいいわ」
侍女は困惑した顔で、私とリアーナのどちらの指示に従うべきか決めかねている。私はティーカップを、音を立ててソーサーに置いた。
「早く動きなさい! こんな格好でリュカ様たちの前に立たれたら、パシュテール家の恥になることくらいわかるでしょ!」
「は、はい!」
侍女は飛び上がってリアーナの手を取ると、慌ただしく下がって行った。
このまま呑気な侍女たちに任せていてはいられない。私は腰を上げ、彼女の部屋へ向かった。




