EP 8
黄金のチャーハンと、腹ペコ達のてっぺん
「どうでっしゃろ!? キャルル村長! 龍魔呂兄貴は、最高でっしゃろ!」
先程までの激闘(と、駄女神による火事場泥棒)の余韻が残る畑の脇で、ニャングルがドヤ顔で算盤を弾きながら胸を張った。自分が発掘した「超優良銘柄」を自慢する投資家の顔である。
「うん……!」
キャルルは兎耳をピンと立て、熱っぽい、そしてどこか「重たい」瞳で龍魔呂の巨躯を見つめていた。
その頬はうっすらと紅潮し、両手でトンファーを抱きしめるように胸に当てている。
「私とあそこまで渡り合えるなんて……レオンハートの近衛騎士団にも誰も居なかったのに。最高だわ! 龍魔呂さん……ず〜っと、ず〜っと私のそばに居てね♡」
物理的な距離をスッと詰め、龍魔呂の太い腕にギュッと抱きつくキャルル。可愛らしい笑顔の裏に、一度捕まえたら絶対に逃がさないというヤンデレ特有の執着が垣間見える。
並の男ならその重圧に怯むか、あるいは鼻の下を伸ばすところだが、龍魔呂は咥え煙草のまま、ダルそうに首を鳴らしただけだった。
「……妙に、重い感じがするが。まぁ、これからよろしくな」
「えへへ♡ はいっ!」
あっさりと受け入れた龍魔呂の懐の深さ(あるいは鈍感さ)に、キャルルはさらに頬を緩ませた。
一行はそのまま、キャルルが住む「村長宅」へと移動した。
木造りの温かみがある広い家屋だが、元・王女でありながら現代ルナミスで一人暮らしのギャル生活を謳歌していたキャルルの家らしく、謎の生活感と適当さが漂っている。
「さて……」
龍魔呂は学生服の袖を腕まくりしながら、ドカッとリビングの椅子に腰を下ろした。
「腹が減ったな。キッチンを借りるぜ」
「えっ!? 龍魔呂さんって、お料理までできるんですか!?」
キャルルの兎耳がピョコンと跳ねた。190cmのヤンキーと「料理」。その圧倒的なギャップに、彼女の好感度メーターが限界を突破して振り切れる。
「すごいすごい! ポイント高いですぅ♡」
「まぁ、野郎が食う『漢飯』だがな。……おい、リリス」
「ふぁい?」
龍魔呂が声をかけると、ソファーでキャルルの人参クッションに埋もれていたリリスが間抜けな返事をした。口にはまだ、さっき奪った飴玉が入っている。
「ネギと、卵と、胡麻油を出せ」
「ふぁ〜い。お安い御用ですぅ〜」
リリスは躊躇なく『エンジェルすまーとふぉん』を取り出し、手慣れた様子で画面をタップした。ポンッ、ポンッ! と魔法陣が光り、立派な長ネギ、新鮮な卵、そして高級そうな胡麻油の瓶がテーブルの上に次々と召喚される。
「……言っておいてなんだが、お前、それが『ルチアナのクレジットカードからの引き落とし』だっていうのを、全く気にしなくなったな」
龍魔呂が呆れたように言うと、リリスはえっへんと胸を張った。
「えへへ〜! 褒められちゃいました★ さすが私、仕事が早いですぅ!」
「褒めてねぇよ」
ピシャリとツッコミを入れつつ、龍魔呂はキッチンに立ち、手早くネギを刻み始めた。
トントン、という小気味良い包丁の音が響く。農業高校で野菜の命と向き合ってきた彼の包丁さばきは、不器用な見た目に反して恐ろしく繊細で正確だった。
熱した大きなフライパンに胡麻油を引く。
ジュワァァァッ! と、香ばしい油の匂いが部屋いっぱいに弾けた。
溶き卵を流し込み、間髪入れずに冷やご飯を投入。巨大なフライパンを片手で軽々と振り、米の一粒一粒に卵をコーティングしていく。最後にネギを散らし、塩胡椒と少量の醤油(醤油草の汁)で味を調える。
あっという間に、見事な『黄金チャーハン』が完成した。
「おおお……たまりませんなぁ……!」
匂いにつられて、ニャングルがキッチンから身を乗り出してヨダレを垂らす。
「出来たぜ。食いな」
龍魔呂が山盛りのチャーハンを皿に盛り付けてテーブルにドンッと置くと、三人の目が釘付けになった。黄金色に輝く米粒、鮮やかなネギの緑、そして鼻腔を暴力的にくすぐる胡麻油の香り。
「美味しそう〜……!」
「「「いただきます!!」」」
三人はスプーンを握りしめ、一斉にチャーハンに食らいついた。
「んんんっ! 美味しいいいいっ!」
リリスが頬を押さえて悶絶する。
「うおおお! たまりまへんわ! パラパラやのに、米はふっくらしてて……ネギの甘みと胡麻油のコクが最高や! 流石は兄貴やわ!」
ニャングルは算盤を放り出し、無我夢中でスプーンを動かしている。
「最高だわ……! 王国の宮廷料理より、ルナキンの朝定食より、ずっと美味しい……!」
キャルルは感動のあまり、うっすらと涙すら浮かべていた。
自分が作った飯を、無心でガツガツと食う奴ら。
その光景を眺めながら、龍魔呂は真鍮製のライターを取り出し、カチッ、と火を点けた。
煙を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
「……そうか。よし、決めた」
龍魔呂の低く凄みのある声に、三人の手がピタリと止まった。
「俺は、このシマ(村)から『てっぺん』を取るぜ」
「決めましたか!? 兄貴!」
ニャングルが口の周りに米粒をつけたまま、バッと立ち上がった。
「よっしゃああ! 算盤(カネの計算)は、このニャングルに任せておくんなまし! 兄貴の覇道、ワテががっちりサポートしまっせ!」
龍魔呂は窓の外――広がるポポロ村の畑へと視線を向けた。
「俺には見える。このポポロ村で、黄金に輝く農作物たちが育ち……それを誰の遠慮もいらねぇ、腹いっぱい食える場所。誰も飢えねぇ、誰もこぼれ落ちねぇ……そんな『でけえ、てっぺん』を作るぜ」
ただの力による支配ではない。
「食い物」と「仁義」で異世界を塗り替える。農業ヤンキーとしての、スケールの大きすぎる真っ直ぐな夢だった。
「龍魔呂さん……かっこいいですぅ〜……」
リリスがチャーハンを咀嚼しながらうっとりと呟く。
「……素敵。一生、一生付いて行きますぅ……」
キャルルのヤンデレメーターが、ついに振り切れた。
「龍魔呂さん、もうずっと、この村長宅から出ないでくださいね♡ 私がずっとお世話しますから♡ 外の世界なんて危険だし、私が全部守ってあげますから♡ ずっと、ここに……」
王国の鳥籠から逃げ出したはずの月兎が、今度は自ら巨大な鳥籠を作り、意中のヤンキーを監禁しようとし始めた。
だが。
「いや」
龍魔呂はパイプ椅子から立ち上がり、首をボキリと鳴らした。
「畑に出ねぇと、てっぺんは獲れねぇだろ。土が俺を呼んでる」
重すぎる愛の監禁宣言を、農業への情熱で物理的にスルーし、龍魔呂はスコップを肩に担いでさっさと玄関へと向かった。
最強のヤンキーと、重すぎる村長、守銭奴の猫、そして駄女神。
ポポロ村からの「てっぺん獲り」が、ついに本格始動した。
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