EP 6
投資の匂いと、野宿回避の女神
「ワテ、この先の『ポポロ村』っちゅ〜、まぁ、しけた村で財務を任されてるんですわ」
縄を取り出し、気絶している盗賊たちの手足を慣れた手つきで縛り上げながら、ニャングルが愛想笑いを浮かべて言った。
その言葉に、盗賊の財布から硬貨を抜き取っていたリリスがピクリと反応する。
「あ~、ポポロ村! 知ってますぅ! ルナミス帝国、アバロン魔皇国、レオンハート獣人王国の3カ国の緩衝地帯のど真ん中にある、政治的にめちゃくちゃ『迷惑な村』ですよね!」
「誰が迷惑な村やねん! 言い方っちゅうもんがあるやろ!」
神界からの無慈悲なメタ発言に、ニャングルがキレ気味にツッコミを入れる。
「それで?」
龍魔呂は短く煙草の灰を落とし、先を促した。
「せやから、兄貴。そのポポロ村にきまへんか?」
ニャングルは縄を結び終えると、算盤を小脇に抱え直し、目をギラギラと輝かせて龍魔呂を見上げた。
「兄貴のその腕っぷしと、見たことない不思議な武具……それに何より、その『肝の太さ』! おおきに稼げまっせぇ。いや、ワテが稼がせたるわ!」
「やけに鼻息が荒いな」
龍魔呂は胡散臭そうに眉をひそめた。見ず知らずの男にいきなり投資を持ちかけるなど、裏社会でもそうそうある話ではない。
だが、ニャングルは胸を張って言い切った。
「ワテの目、いや、この『算盤』に狂いはあらへん! 兄貴は間違いなく、ど偉い男になります! その第一の支援者になれる思たら……ワテ、投資家としてウッキウキや!」
猫耳族の青年は、本気で尻尾をピンと立てて興奮している。
「……そうか。まぁ、行く所もねぇからな。行くとするか」
龍魔呂はあっさりと提案を呑んだ。
右も左も分からない異世界だ。とりあえずの拠点(シノギの場所)と、案内役がいるのは悪くない。
「わぁぁぁい! 野宿回避ですぅ!」
リリスが両手を挙げてぴょんぴょんと跳ねる。「虫とか泥とか絶対に嫌だったんですよぉ!」と、女神らしからぬ俗物ぶりを全開にしている。
龍魔呂は足元で白目を剥いている盗賊たちを見下ろした。
「で、コイツらはどうすんだ? ここに転がしといていいのか?」
「あぁ、それは心配ご無用ですわ」
ニャングルは懐から、手のひらサイズの水晶のような石——『魔導通信石』を取り出した。
「さっき、近くの駐屯地の兵士に連絡入れときましたんで。もうすぐ引き取りに来ますわ。……それに、コイツらは近隣を荒らしてた札付きの悪党や。後でギルドを通して、兄貴の懐にドカンと『賞金』が入りますさかいな!」
ニャングルがニヤリと笑うと、龍魔呂の隣でリリスの耳がピクッと動いた。
「しょ、賞金……!?」
リリスの瞳が、一瞬にして硬貨の形に変わる。
「わぁい! それで、ルチアナ先輩のスマホからデパ地下の『超高級ショートケーキ』をお取り寄せできるですぅ! いや、いっそホールケーキで行っちゃいましょうか! 慰謝料プラス賞金で、私、大富豪ですぅ!」
エンジェルすまーとふぉんを撫で回しながらヨダレを垂らす駄女神に対し、ニャングルがすかさず算盤でツッコミを入れた。
「って、あんさんはさっきから後ろで震えてただけで、何一つやっとらんがな!?」
「なっ! 精神的応援という立派な後方支援を……!」
「アホ抜かせ! 盗賊の財布漁っとっただけやないか!」
ギャーギャーと騒ぎ始めた関西弁の猫耳とピンクジャージの女神を尻目に、龍魔呂は「やれやれ」と首を振り、短くなった煙草を携帯灰皿に放り込んだ。
「行くぞ。うるせぇのが増えたな」
ポポロ村。
そこがどんな場所かは知らないが、龍魔呂の『農業ヤンキー』としての本能は、少しずつ高鳴り始めていた。
土と、金と、厄介事の匂いがする。暴れるには、悪くない舞台だった。
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