EP 5
近代兵装の蹂躙と、銭の匂い
「やっちまえ!!」
リーダー格を盾に取られ、一瞬怯んだ盗賊たちが、やけくそ気味に刃を振り下ろした。
だが、龍魔呂は動じない。
「おっと……」
掴んでいた男の襟をさらに強く引き寄せ、迫りくる刃の軌道へ放り込む。
「じゃ、邪魔だ、どけッ!」
斬りかかった盗賊が、慌てて剣を止める。仲間を斬る勇気はないらしい。その「迷い」こそが、龍魔呂にとっては絶好の隙だった。
「おらよ!」
龍魔呂は盾にしていた男の背中を、鉄芯入りの安全靴で思い切り蹴り飛ばした。
人間一人の重量が、時速100メートル5秒台を叩き出す脚力で加速し、向かってきた盗賊たちをなぎ倒す。重なり合って転倒する男たち。
「……ッ!」
龍魔呂は逃がさない。倒れた盗賊の顔面に、追い打ちの踏みつけを見舞う。鼻の骨が砕ける鈍い音が響き、男の意識が瞬時に霧散した。
「舐めんなあああッ!」
まだ動ける別の盗賊が、脇から死角を突いて斬りかかる。
龍魔呂は反射的に右手を掲げた。その拳には、いつの間にか鈍い光を放つ**『メリケンサック』が装着されている。
ギィィィィンッ!!
「な、なにィ!?」
鋼鉄の拳が、鋭利なはずの片手剣を真正面から受け止めた。
火花が散り、衝撃で盗賊の腕が痺れる。常識外れの防御手段に男が目を見開いた瞬間、龍魔呂の左手がバッグから「それ」を引き出した。
「おら、特製の香水だ」
「は……?」
ブシュウウウウウウウッ!!
「ギャアアアアアアアッ!? 目が、目がアアアアアアッ!!」
至近距離で噴射されたのは、対熊用の強力な『カプサイシンスプレー』**。
魔法の耐性もクソもない。強力な刺激物が粘膜を容赦なく焼き、盗賊は剣を投げ出して悶絶した。そこへ、龍魔呂の黒光りする特殊警棒が、容赦なく首筋へと叩き込まれる。
「……に、逃げろ! こいつ、人間じゃねぇ、悪魔だッ!!」
最後の一人が腰を抜かし、這々の体で森の奥へ逃げようとする。
だが、龍魔呂は静かに真鍮製のライターをポケットに仕舞い、足元の木の枝を無造作に拾い上げた。
「逃げるには遅せぇ。始めた喧嘩を、途中で放り出すんじゃねぇよ」
龍魔呂の剛腕から放たれた木の枝が、正確に盗賊の足元へ突き刺さる。
「ぐふぅっ!?」
前のめりに転んだ盗賊。その背中に、龍魔呂の巨躯が影を落とす。
「じゃあな。宿題だ」
龍魔呂が男の首筋に押し当てたのは、青白い放電を繰り返す『スタンガン』。
バリバリバリィッ!!
「ギャアアアアアアアアアッ!!」
凄まじい電撃が盗賊の筋肉を硬直させ、最後の一人が白目を剥いて沈黙した。
静寂が戻った森に、龍魔呂の溜息が漏れる。
彼は学生ズボンのポケットから『マルボロ赤』を取り出し、一本咥えた。
そして、愛用の真鍮製ライターを――
カチンッ……
澄んだ金属音が響き、揺れる炎が煙草を赤く染める。
紫煙を深く吐き出し、龍魔呂は倒れた男たちを一瞥した。
「す、すご~い……! 龍魔呂さん、たった一人でやっつけちゃいましたぁ!」
いつの間にか、リリスが草むらから飛び出してきた。
彼女は驚嘆の声を上げながらも、その手は恐ろしいほど無駄のない動きで、倒れている盗賊たちの懐から財布を抜き取っている。
「……お前も大概だな」
「ふぇ? これは正当な『お布施』なんですぅ。精神的苦痛に対する『慰謝料』ですぅ!」
リリスが満面の笑みで金貨を数えていると、木陰で算盤を抱きしめていた猫耳族の青年――ニャングルが、恐る恐る近寄ってきた。
「いやああ……兄さん! いや、兄貴! 強い、強すぎますわ! ワテ、ゴルド商会のニャングルと言いますねん。命拾いしましたわ!」
ニャングルは深々と頭を下げながら、その鋭い目で龍魔呂の全身を舐めるように観察した。
龍魔呂は煙草を指に挟み、ダルそうに答える。
「おう。俺は龍魔呂。……こっちの火事場泥棒はリリスだ」
「紹介が雑ですぅ! 担当女神と言ってくださいッ!」
ブンブンと手を振って抗議するリリスを無視し、ニャングルはニヤリと口角を上げた。
(……こいつ、ただのヤンキーやない。この得体の知れん武器、そしてこの胆力……。金の匂い、それもとびきりデカい『大金』の匂いがプンプンしよるで!)
「龍魔呂兄貴。お礼と言っちゃあなんですけど、この先にワテが財務を任されてる『ポポロ村』っちゅう村があるんですわ。よろしければ、案内させてもらえまへんか?」
ニャングルの瞳の奥で、算盤の珠がパチパチと弾けた。
最強の武力と、最速の計算。
異世界の土を踏んだばかりのヤンキーに、運命という名の新たな『シノギ』が舞い込もうとしていた。
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