EP 5
ポポロ村「三大底辺女子」の奇妙な友情
夜の帳が下りたポポロ村。
広場の端っこにポツンと張られたボロボロの軍用テントの前で、パチパチと薪が爆ぜる音が静かに響いていた。
「はぁ……。自警団の夜間巡回、異常なし、と……」
ダイヤ・カギタは、重いクリムゾンアーマーを脱いでラフなシャツ姿になり、焚き火の前に腰を下ろした。
昼間は龍魔呂から貰った『ヤンキー風・肉巻きおにぎり』の美味さと優しさに悶絶し、限界までオーバーヒートしてしまったが、夜になればまた過酷な現実(金欠)が待っている。
「弾薬の借金、金貨50枚。……遠い道のりだわ。でも」
ダイヤは魔法ポーチをごそごそと漁り、大切そうに『小袋』を取り出した。
「今日は、特別な日。一週間に一度の、最高のご褒美タイムよ……っ!」
袋の中から取り出したのは、真っ白な『マシュマロ』。そして、お湯で溶かすタイプの『インスタント・コーンスープの素』。
ダイヤは焚き火に掛けた飯盒でお湯を沸かし、マグカップにコーンスープを作る。そして、拾ってきた木の枝にマシュマロを刺し、焚き火の遠火で慎重に炙り始めた。
「焦がさないように、じっくり、ゆっくり……表面がキツネ色になったら、食べ頃……♡」
普段の『紅蓮の戦乙女』や『レンジャー部隊』の苛烈な姿からは想像もつかない、年相応の無邪気な笑顔。
熱々のコーンスープから漂う甘く優しい香りと、マシュマロが焦げるキャラメルのような匂いが、夜の冷たい空気に溶けていく。
「よしっ! 完璧な焼き加減! いただきまーす……」
ダイヤが、とろとろに溶けかけたマシュマロを口に運ぼうとした、その時。
カサッ。
背後の茂みが揺れ、『飢えた野獣』のような気配が2つ、焚き火の光の中に這い出てきた。
「じゅるり……っ。あぁ、なんて甘くて暴力的な匂い……」
「神よ……あの白くてフワフワした供物は、私のために捧げられたものですか……?」
「ひぃっ!? も、魔物!?」
ダイヤが咄嗟に隠し持っていた暗器を構えたが、そこにいたのは魔物ではなかった。
芋ジャージ姿で『パンの耳』を握りしめている元・地下アイドル(現T-チューバーの底辺)のリーザと。
ボロボロの法衣を纏い、スマホのガチャ画面を開いたまま白目を剥いている駄女神リリスだった。
「だ、誰!? なんでそんな死相を浮かべて……」
「……お腹が、空いているんですのよ」
リーザがフラフラと焚き火に近づき、ダイヤの隣にへたり込んだ。
「あの寄生天使に太客を全部奪われ、投げ銭はゼロ。今日の私の晩御飯は、公園で鳩と壮絶な死闘を繰り広げて勝ち取った、この『パンの耳』だけ……。もう、パンの耳の味すらしませんわ……」
「わたくしもですぅ……」
リリスが涙目でスマホの画面をダイヤに見せる。
「先週、ルナミス帝国の信者たちから集まったお布施(神力)を、新作ソシャゲの『ピックアップSSR確定ガチャ』に全ツッパしたのに、全部すり抜けて爆死したんですぅ……。明日の朝ごはんを買う銅貨一枚すら残ってないんですぅ……」
「ガチャで破産した女神!? なにそれ怖っ!」
ダイヤはドン引きしながらも、二人のお腹から鳴る『キュルルルルゥ~~』という悲鳴のような音を聞いて、ハッとした。
(分かる……! その飢えと絶望、痛いほど分かるわ……っ!)
ダイヤの深層心理に眠る『パリ・ロンドン放浪記(底辺の共感)』が、激しく反応した。
彼女自身、武器の弾薬代とメンテ費用が高すぎて、常に極貧サバイバルを強いられている身だ。MREのハズレ(オムレツ)を食べて白目を剥く苦しみは、誰よりも理解している。
「……あなたたちも、苦労しているのね」
ダイヤは構えていたナイフをスッと下げ、柔らかい微笑みを浮かべた。
「こんなものでよかったら、一緒に食べる?」
「「……神(女神)!!!!」」
リーザとリリスが、ダイヤの足元に平伏した。
ダイヤはマグカップをさらに2つ用意し、熱々のコーンスープを注ぎ分ける。そして、マシュマロを枝に刺して、二人に手渡した。
「さぁ、焦がさないように炙ってね。……うん、いい感じ。それじゃあ、コーンスープに、ちょっとだけ浸して……」
「「いただきますわ(ですぅ)!!」」
リーザとリリスが、炙りマシュマロをコーンスープにディップして口に放り込む。
「んんんん~~~~っ!!! しゅ、しゅごいですわぁ!!」
リーザが悶絶して芋ジャージをバタバタとさせる。
「カリッとした表面の中から、トロットロのマシュマロが溢れ出して、濃厚なコーンポタージュの塩気と甘みが絶妙なハーモニーを……っ! これぞ、至高のフレンチ! 私のパンの耳をちぎって入れれば、最高級のクルトンになりますわ!!」
「あぁぁ……神の癒やしですぅ……ガチャで荒んだ心が、温かいスープで洗われていきますぅ……」
リリスも涙と鼻水を垂らしながら、マグカップを両手で包み込んでスープを啜る。
「ふふっ、喜んでくれてよかった」
ダイヤも自分のマシュマロを頬張りながら、ホッと息をついた。
「私なんて、普段は『戦闘糧食のハズレ(ベジタブルオムレツ)』ばっかり食べてるから、こういう甘いものが本当に身に染みるのよね……」
「オムレツ……? あ、それ、私が持ってる『サバ缶(賞味期限1ヶ月前)』と交換しませんこと?」
リーザがチャッカリとした商魂(詐欺師の目)を覗かせる。
「えっ! いいの!? あの消しゴムみたいなオムレツの代わりに、お魚が食べられるなんて……!」
「ええ、ええ! もちろんですわ!(ふふっ、このポンコツお嬢様、チョロすぎますわ! あのオムレツ、後で龍魔呂の弁当のおかずにコッソリ混ぜてやりますわ!)」
「わたくしは、そのオムレツを信者に高値で売りつけて、ガチャの石(軍資金)にしますぅ!」
ポポロ村の広場の片隅。
公爵令嬢の戦乙女、元地下アイドルのT-チューバー、そしてガチャ廃人の駄女神。
本来なら絶対に交わるはずのない三人が、焚き火の火を囲み、インスタントのスープとマシュマロを分け合いながら、夜空の下で奇妙な『底辺同盟』を結んだのだった。
「……あいつら、何やってんだ?」
少し離れた村長宅の縁側から、龍魔呂がバレッドを咥えながらその光景を呆れ顔で眺めていた。
「ポポロ村『三大貧困女子』の誕生やな。……類は友を呼ぶとは、まさにこのことやで」
ニャングルが熱いお茶を啜りながら、深く頷く。
最強のヤンキーが支配する農業村は、今日もまた一つ、新たなカオス(癒やし)の生態系を生み出しつつあった。
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