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チートはいらねぇ。農高ヤンキー、拳と畑で異世界のてっぺんへ  作者: 月神世一


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EP 6

ウェポンズマスターの無駄遣いと、キュルリン・ラボ

「ふんっ! はっ! せやぁぁぁっ!!」

翌朝。ポポロ村の広大な農地で、凄まじい風切り音が鳴り響いていた。

紅蓮の戦乙女・ダイヤが、額に汗を浮かべながら、手にした『鋼のクワ』を猛烈なスピードで振り下ろしているのだ。

ザシュッ! ザシュッ! ドスゥゥンッ!!

ただ土を耕しているだけではない。その動きは、無駄な力が一切省かれた『洗練された武術の型』そのものだった。

均等な深さ、完璧な等間隔でほぐされていく土壌。まるで機械が測ったかのような美しいうねが、瞬く間に形成されていく。

「……ほう」

腕を組んで見ていた龍魔呂が、咥えていたバレッドの煙を細く吐き出し、感心したように目を細めた。

「ただのコスプレお嬢様かと思いきや、大したモンだな。……ヤンキー(実戦)の喧嘩じゃねぇが、基礎が極限まで完成されてやがる」

「ふふんっ! 当然です!」

ダイヤは鍬をビシッと構え、得意げに胸を張った。

「私のユニークスキル『ウェポンズマスター』は、剣や銃器だけでなく、手に持ったあらゆる道具の『最適解』を脳内にインストールする能力! もちろん、農機具だって完璧に使いこなしてみせます!」

ダイヤの深層心理に刻まれた『五輪書』の剣術の極意が、まさかの【農業】で大爆発(無駄遣い)していた。

「おう、その調子で頼むぜ。借金(金貨50枚)、きっちり身体(労働)で返してもらうからな」

「し、身体で……!?(トゥンク)」

龍魔呂の何気ないヤンキー用語に、純情なダイヤの心臓が跳ね上がり、クリムゾンアーマーの排熱ダクトからプシューッと薄い蒸気が漏れる。

「あ、あの! 龍魔呂さん! 実はこれ、土が固すぎて鍬の刃先が少し欠けてしまって……。私、自警団兼『お抱え鍛冶師』として契約しましたよね? どこかに作業場はありませんか?」

ダイヤが誤魔化すように、刃こぼれした鍬を見せた。

その教養である『クラフツマン(職人)』の血が、欠けた道具を許せなかったのだ。

「あぁ。なら、地下要塞の奥にある『キュルリン・ラボ』に行きな。あそこなら、どんな工具も揃ってる」

ポポロ村地下要塞、最深部。

ガガガガッ! ギュイイイイインッ!!

今日も鼓膜を破るような金属音と溶接の火花が散る工房に、ダイヤは足を踏み入れた。

「たのもーっ! 新しく鍛冶師として配属されたダイヤ・カギタよ! 工房をお借りしたいのだけれど……」

「あぁん? なんだお前、そのピカピカの赤い鎧。ここは乙女の秘密基地だもんっ! 冷やかしなら帰れ、オラァッ!!」

火花の向こうから顔を出したのは、泥だらけのゴスロリドレスに安全靴を履いた天才ドワーフ・キュルリンだった。

「ゴ、ゴスロリ……!? いや、そんなことより……」

ダイヤの視線が、工房の中央に鎮座する『V8魔導トラクター』と、壁にズラリと並んだ魔導重火器の数々に釘付けになった。

「こ、これは……ドンガン帝国の軍事機密『V8魔導エンジン』!? しかも、吸気口インテークが拡張されて、魔力を強制過給スーパーチャージできるように魔改造されてる……!?」

「……ほう」

ダイヤの呟きを聞いたキュルリンの目つきが、一瞬で『職人』のそれに変わった。

ゴーグルを額に押し上げ、ダイヤをねめつけながら歩み寄る。

「……ただのコスプレ騎士かと思ったら、一目でこの『V8の魔改造』に気づくとはね。お前、素人じゃないな?」

「当たり前よ! 重火器のメンテナンス費用を節約するために、自分で設計から分解・清掃までやってるんだから!」

ダイヤの深層に眠る『レンジャー・ハンドブック(ゲリラ戦の知識)』と『クラフツマン』が激しく共鳴し始めた。

「でも、この構造だとガス圧が高すぎて、長時間の連続稼働でシャフトが焼き付くわよ! ミスリルだけでなく、チタン合金を2割混ぜてハウジングを補強しないと!」

「……っ!! お、お前……分かってるじゃねぇか! あたしもそう思ってたんだもんっ! でもルナはんに予算をケチられてて……っ!」

ガッチリと。

紅蓮の戦乙女と、ゴスロリドワーフが、油まみれの手で熱い握手を交わした。

【外面お嬢様(中身レンジャー)】と、【外面ゴスロリ(中身オヤジ)】。

ベクトルは違えど、兵器と魔改造を愛する『ガテン系・同盟』が、ここに爆誕した瞬間である。

「ねぇ、ダイヤちゃん! その欠けたクワさ、ただ直すだけじゃ面白くないもん! せっかくだから、あたしたちの技術で最高にキュートでアグレッシブな武器に魔改造しちゃわない!?」

キュルリンが鼻息を荒くして、ピンク色の溶接機を構える。

「ええ、いいわね! 実は私、畑の固い岩盤を砕く時に、いちいち鍬を振り下ろすのが非効率だと思ってたの。……ねぇ、この鍬の柄の空洞に、『12ゲージの魔導ショットガン』の機構を組み込めないかしら?」

「天才かお前ッ!! 鍬を岩に叩きつけた瞬間の衝撃で雷管を作動させて、至近距離から散弾をブッ放して岩盤を粉砕する『アンチ・ロック・ショットガン・クワ(対岩盤用散弾鍬)』だね!? 最高にイカれてるもんっ!!」

「さらに、弾薬代を節約するために、散弾の代わりに『その辺の小石』を魔力圧縮して撃ち出せるリサイクル機構も追加しましょう! これならランニングコストはゼロよ!!」

「うおおおおっ! 燃えてきたもんっ! よーし、デザインはピンク色のフリル付きにするぞ、オラァッ!!」

「フリルはいらないわ! 実戦(農業)で邪魔になるし、装飾費の無駄よ! C4爆弾の起爆スイッチを付けなさい!」

カンカンカンカンッ!!!

ギュイイイイイイイイインッ!!!

それから数時間。地下要塞のキュルリン・ラボからは、二人の少女(?)がキャッキャと発する楽しそうな笑い声と、狂気的な金属加工音が響き渡り続けた。

その日の夕方。

「おい、お前ら。メンテは終わったのか」

夕飯の呼び出しに来た龍魔呂が、工房の扉を開けた。

そこには、顔を真っ黒なススと油で汚し、最高の笑顔でハイタッチをしているダイヤとキュルリンの姿があった。

「龍魔呂さん! 見てください! 刃こぼれした鍬が、最高の『農機具ウェポン』に生まれ変わりました!」

ダイヤが誇らしげに掲げたのは、刃の部分がチェーンソーのように回転し、柄にはショットガンの銃身が組み込まれ、さらにピンク色の迷彩塗装が施された、もはや何に使うのか分からない『最狂の魔改造・散弾鍬』だった。

「…………」

龍魔呂は、その殺意マシマシの農機具と、完全に意気投合してしまった二人の顔を交互に見比べた。

「……まぁ、土がしっかり耕せるなら、文句は言わねぇよ」

龍魔呂が深いため息をつきながら、頭をかく。

「手が油まみれだぞ。早く洗ってこい。……今日のメシは、ルナミス幻豚の『特製・生姜焼き定食』だ。白飯、大盛りで炊いてあるからな」

「「生姜焼き定食ゥゥゥッ!!? 神(龍魔呂きゅん)ッ!!!」」

二人のガテン系少女の歓声が、地下要塞に響き渡った。

最強の農業ヤンキーと、最凶のガテン同盟。ポポロ村の武力と農業力は、彼女たちの出会いによって、またしても常軌を逸した方向へとインフレを起こし始めていた。

お読みいただきありがとうございます!


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