EP 4
自警団リーダー就任と、地獄のミリ飯ローテーション
「……つまり。お前は、このアホ天使の『バズり目的の釣り動画』を真に受けて、ウチの村をテロ組織だと勘違いして単独カチコミをかけてきたと。そういうことか?」
ポポロ村の村長宅リビング。
腕を組み、額に青筋を浮かべる龍魔呂の前で、紅蓮の戦乙女・ダイヤは正座をして小さくなっていた。
「は、はい……。あのような重武装のゴーレム部隊(異端審問局)を壊滅させた映像を見れば、誰だって凶悪な武装集団だと……その……」
ダイヤはチラチラと龍魔呂の顔を見ては、先ほどの『ネギ味噌豚バラ弁当』と『頭ポンポン』を思い出して顔を赤くし、モジモジと指を絡ませている。
「えへへ〜、ごめんねダイヤちゃん! まさか本物の賞金稼ぎが釣れるとは思わなくて! あ、今の顔真っ赤でモジモジしてるの、配信で流していい?」
「ダメに決まってるでしょこのポンコツ天使!!」
キュララの魔法スマホ(カメラ)を、ダイヤが涙目で払いのける。
「ま、誤解が解けたんはええんやけどな」
ニャングルが、新しく取り寄せた『ミスリル製・絶対に折れない算盤』をパチパチと弾きながら、ダイヤの前に一枚の請求書を突きつけた。
「姉ちゃんが撃ち込んだバズーカとC4爆弾で、ルナはんの育てた大豆畑の畝が3本パーになりおった。さらに、威嚇射撃の弾幕で村の魔石灯もいくつか壊れとる。……修理費と損害賠償、合わせて『金貨50枚』や」
「き、金貨50枚……!?」
ダイヤは白目を剥き、自分の腰の『魔法ポーチ』をひっくり返した。
パラパラ……と、小銅貨が3枚と、謎のホコリが落ちてくるだけだった。
「も、申し訳ありません……。先ほどの戦闘で魔石弾薬を撃ち尽くしてしまい、現在の私の全財産は、この『銅貨3枚』のみでして……」
伝説の勇者の末裔であり、公爵令嬢。
しかしその実態は、武器の維持費で常に首が回らない【圧倒的自転車操業(ド貧乏)】であった。
「……しゃあないな」
ニャングルはニヤリと商人特有の悪どい笑みを浮かべた。
「姉ちゃん、ユニークスキル『ウェポンズマスター』を持っとるんやろ? 武器だけやなく、鍛冶や農機具の扱いもプロ級やと聞いたで。……借金を返すまで、この村の『自警団リーダー兼、お抱え鍛冶師』としてシノギを手伝ってもらおか」
「えっ……この村で、働く?」
ダイヤはハッとして、思わず龍魔呂の方を見た。
(こ、この村で働けば……またあの『めちゃくちゃ美味しいご飯』が食べられる……!? しかも、龍魔呂さんのすぐ近くで……っ!)
ダイヤの脳内で『ドン・キホーテ(騎士の誇り)』と『パリ・ロンドン放浪記(極貧の食欲)』、そして『初恋の純情』が全会一致で可決した。
「わ、分かりました! この紅蓮の戦乙女ダイヤ・カギタ! 騎士の誇りにかけて、ポポロ村の平和と農機具は私が完璧に守り抜いてみせます!!」
こうして、ダイヤはポポロ村の住人として迎え入れられることになった。
その日の夕方。
ポポロ村の広場の端っこで、カンッ、カンッ、とペグを打つ音が響いていた。
「……おい。お前、何やってんだ」
通りかかった龍魔呂が、眉をひそめて立ち止まる。
そこには、ツギハギだらけのボロボロの『軍用テント』を張り終え、満足げに汗を拭うダイヤの姿があった。
「あ、龍魔呂さん! 見ての通り、本日の野営地の設営です! ニャングルさんに宿屋の値段を聞いたら『一泊銀貨2枚』と言われたので! そんな大金、今の私に払えるわけがありませんから!」
ダイヤは自慢げに胸を張るが、その発言はあまりにも悲しすぎる底辺サバイバーのそれだった。
「……お前、公爵令嬢なんだろ。テント暮らしなんかしてていいのか」
「ふふっ、大自然のベッド(地面)こそ、戦士にとって最高の休息所ですよ! さぁ、本日のディナータイムにしましょう!」
ダイヤは魔法ポーチから、銀色の真空パック――ルナミス帝国軍から二束三文で買い叩いた『戦闘糧食(MRE型)』を取り出した。
「今日こそは……今日こそは、フランス軍仕様の『PRO型(美味しい煮込み肉)』か、ドイツ軍仕様の『EPa型(美味しいソーセージ)』が出ますように……っ!!」
ダイヤは祈るようにパッケージを開封し、中身のメニュー表記を見た。
その瞬間。
彼女の美しい顔から、一切の表情が消え去った。
「……嘘でしょ。また……『ベジタブル・オムレツ』……」
MREの中でも『最悪のハズレ』として兵士たちから恐れられるメニュー。
あまりの不味さに、戦場での士気を確実に下げるという伝説の悪食である。
「でも、これを食べなきゃ……明日の体力が……」
ダイヤは震える手で、黄色と緑が混ざった『消しゴムのような固形の何か(オムレツ)』をスプーンですくい、口に運んだ。
「…………」
咀嚼した瞬間。ダイヤの魂が口から半分抜け出し、瞳は完全に光を失った。
「あぁ……お母様……お花畑が、見えます……」
そのままパタリと、テントの前に倒れ込むダイヤ。
「……おい」
見かねた龍魔呂が、ため息をつきながら歩み寄り、ダイヤの口から不味そうなMREをスプーンごと引っこ抜いた。
「お前なぁ……。そんな『泥水で煮込んだ消しゴム』みてぇなもん食って、自警団の仕事ができんのかよ」
「あぅ……で、でも、お金が……」
「……口開けろ」
「えっ?」
ダイヤが口を開けた瞬間、龍魔呂が何かをヒョイッと放り込んだ。
それは、昼間の『ネギ味噌豚バラ』の余り肉を細かく刻み、熱々の銀シャリに混ぜ込んで硬く握った、龍魔呂特製の『ヤンキー風・肉巻きおにぎり』だった。
「んむっ!?」
口いっぱいに広がる、豚肉の強烈な旨味と、ごま油の香ばしい風味。
そして、MREのパサパサ感とは対極にある、炊きたてのお米のモチモチとした甘み。
「んんんんん〜〜〜〜っ!!? な、なな、なんだこれはぁぁぁ!?」
ダイヤは倒れたまま、あまりの美味さに足をバタバタと痙攣させた。
「腹減って死にそうな時は、俺に言え。ウチのシマ(村)の人間が、そんな残飯みてぇなモン食って飢え死にするのは、俺のメンツが丸潰れになんだよ」
龍魔呂はそう言って、さらに2つの『肉巻きおにぎり』をダイヤの膝の上にポンと置いた。
「明日の朝には、農機具の鍬の刃先をメンテしとけよ。頼んだぜ、鍛冶師」
背を向けて歩き出す龍魔呂。
「…………っ!!」
プシューーーーーッ!!!!
再び、ダイヤのクリムゾンアーマーの排熱ダクトから、凄まじい勢いで高熱の蒸気が噴出した。
「あ、あの不器用な優しさ! そしてこの、全身の細胞が歓喜するおにぎりの美味しさ……っ! ど、どうしよう……私、もうこの村から、一生離れられないかもしれない……っ!!」
ダイヤはホカホカのおにぎりを胸に抱きしめながら、テントの前で真っ赤になって身悶えするのだった。
紅蓮の戦乙女の胃袋と純情は、完全に最強の農業ヤンキーに掌握されてしまったのである。
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