EP 2
C4爆弾 vs ヤンキー農業術
「消し飛びなさい! 正義の裁き(ロケットランチャー)よ!!」
ポポロ村の巨大大豆畑のど真ん中で、紅蓮の戦乙女・ダイヤが『魔導式バズーカ』の引き金を躊躇なく引いた。
ドシュゥゥゥゥンッ!!
高圧縮された炎属性の魔力弾頭が、空気を焼き焦がしながら龍魔呂へと一直線に迫る。
「アカン! 村が、畑が消し飛ぶでええっ!」
ニャングルが頭を抱えて地面に伏せる。
だが、龍魔呂は咥えていたバレッドをペッと吐き捨てると、手に持っていた『使い込まれた鋼の鍬』をプロ野球のバッターのように構えた。
「シマの土を……無闇に焼くんじゃねぇっ!!」
「鬼神流農業術・防除編――『天地返し(フルスイング)』!!」
ドゴォォォォォォンッ!!!
龍魔呂の恐るべき腕力と赤黒い闘気を纏った鍬が、魔導弾頭を『下から上へ』とカチ上げた。
バズーカの弾頭は、まるで場外ホームランのように空高く打ち上がり、はるか上空で花火のように爆発して散った。
「なっ……!? 魔導バズーカを、ただの農機具で弾き返した……!?」
ダイヤの美しい瞳が驚愕に見開かれる。
「オラァッ! 人の畑でチャカ振り回すような行儀の悪いガキは、俺が間引いてやる!」
龍魔呂が、鍬を片手に猛然とダッシュして間合いを詰める。
並の射手なら、その凄まじいヤンキーのプレッシャーに押されて腰を抜かすところだ。
しかし、ダイヤの深層心理に刻まれた『レンジャー・ハンドブック』の教えは、どんな窮地でも最適解(ゲリラ戦術)を自動的に導き出す。
(――対象は近接戦闘の達人と推測! 距離を保ち、面制圧で足止めしつつトラップへ誘導する!)
「くっ……! 甘く見ないで!」
ダイヤはバズーカを即座に魔法ポーチへ放り込むと、今度は両手に『魔導式サブマシンガン(SMG)』を構え、後ろへステップを踏みながら乱射を開始した。
ガガガガガガガガガッ!!!
「おわっ!?」
「さらに、これよ!」
SMGで龍魔呂の足を止めさせた一瞬の隙に、ダイヤは腰から複数の『プラスチック爆弾(C4)』を取り出し、ニンジャの手裏剣の如き手付きで龍魔呂の周囲の地面に貼り付けた。
「おいコラ姉ちゃん! あんた名乗りは『騎士』とか『戦乙女』とか言うとったやろ! 何で背中の聖剣抜かへんのや! 戦い方が完全に特殊部隊のそれやないか!」
物陰からニャングルが激しいツッコミを入れる。
「うるさいわね! 聖剣はメンテナンス費用が高くて、刃こぼれしたら修理代が払えないのよ! だから基本は火器で面制圧するの!」
ダイヤは悲痛な台所事情を叫びながら、C4の起爆スイッチを押した。
「吹き飛べ! テロリスト!!」
ドボォォォォォンッ!!
連続する爆発。土煙が舞い上がり、龍魔呂の姿が完全に隠れた。
「……やったか!?」
ダイヤが油断なくSMGを構えたまま、土煙の先を睨む。
「……チッ。土がほぐれすぎちまったじゃねぇか」
「えっ!?」
土煙を切り裂くように、凶悪な重低音が轟いた。
ヴロロロロロォォォォォォッ!!!
爆炎の中から飛び出してきたのは、ピンク色のフリル装飾と極太マフラーを備えた世紀末仕様の『V8魔導トラクター』だった。
運転席には、かすり傷一つ負っていない龍魔呂の姿。彼はC4の爆発の瞬間にトラクターの陰に隠れ、そのままエンジンをふかして突撃してきたのだ。
「土を耕すのは俺の仕事だ。……てめぇは大人しく、畑の肥やしになりな」
龍魔呂がアクセルを踏み抜く。
「ひぃっ!? な、何あの狂った装甲車……!」
ダイヤは慌てて『魔導式ショットガン』に持ち替え、トラクターのフロントガラスに向けて徹甲散弾をブッ放した。
ガァァンッ!! ガガガガッ!!
しかし、キュルリンが魔改造を施したミスリル合金の装甲と、龍魔呂の纏う闘気の前では、ショットガンの弾など小石をぶつけるのと同じだった。
「くそっ、装甲が硬すぎる! ならば、魔法ポーチの奥底に眠る、一発金貨50枚の『超高圧縮・対艦用徹甲魔導弾』を……!」
ダイヤがトラクターの突進をギリギリで躱し、最後の切り札を取り出そうと魔法ポーチに手を入れた。
その瞬間。
『――ピーッ。魔石残高が不足しています。チャージしてください』
魔法ポーチから、無機質で冷酷なシステム音声が鳴り響いた。
「…………へ?」
ダイヤの動きが、完全にフリーズした。
「ざ、残高不足……? 嘘、先月の討伐報酬でチャージした分が、もう……? あ、あああっ! さっきのバズーカとSMGの乱射で、魔石(お金)を全部使い切っちゃったぁぁっ!?」
「隙だらけだぜ、姉ちゃん」
キキィィィッ! とトラクターが急ブレーキをかけ、運転席から飛び降りた龍魔呂が、一瞬でダイヤの懐に潜り込んでいた。
その拳が、クリムゾンアーマーの腹部に向かって無慈悲に振り上げられる。
(あ、終わった……。ごめんなさい、お父様……私、ここで……)
ダイヤが死を覚悟し、ギュッと目を閉じた、その時だった。
キュルルルルゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜ッ!!!
戦場に響き渡ったのは、龍魔呂の拳の風切り音でも、爆発音でもなかった。
それは、ダイヤのお腹から鳴り響いた、信じられないほど巨大な『腹の虫』の音だった。
「…………あ」
ダイヤの顔からスゥッと血の気が引く。
数日間、不味いMREしか食べていなかった彼女の肉体は、度重なる重火器の使用と急激な運動により、限界を突破して『完全なエネルギー切れ』を起こしたのだ。
「あれ……? なんだか、空が回って……」
カチャッ、とダイヤの手からショットガンが滑り落ちる。
「……オムレツは、もう……嫌だぁ……」
バタッ。
紅蓮の戦乙女は、龍魔呂の拳が当たる数センチ手前で、白目を剥いてパタリと地面に倒れ伏してしまった。
「…………」
振り上げた拳を止めた龍魔呂は、完全に気絶しているダイヤを見下ろし、持っていたバレッドの箱を無言でポケットにしまった。
「おい、ニャングル。……この姉ちゃん、ただの腹ペコじゃねぇか」
「ホンマや……。あんな大層な鎧着といて、栄養失調で倒れるアホがおるかいな……」
世界を救う勇者の末裔にして、正義の賞金稼ぎ。
彼女とポポロ村の最悪の出会いは、ヤンキーの拳ではなく『空腹』によって、あまりにも呆気なく幕を閉じたのだった。
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