EP 10
T-barと発光野菜の『極上焼肉パーティー』
ポポロ村を襲った『三カ国合同特務・異端審問局』の脅威は、最強の魔改造トラクターと天使のデジタルタトゥーによって、物理的にも社会的にも完全な更地にされた。
騒動の直後。
ゼインたちが放った業火によって黒焦げになった畑の前に、ルナがふわりと降り立った。
広域魔力ジャミングから解放された彼女の世界樹の杖が、眩いエメラルドグリーンの光を放っている。
「ごめんね、大地の子供たち。……でももう大丈夫ですわ。さぁ、私の溢れる愛(魔力)で、再び芽吹きなさいっ♡」
ルナが杖を振るうと、黒焦げの土から一斉に『極彩色の光を放つ超巨大な大豆の苗』がドゴォォォン!と爆発的な勢いで生え揃った。
「……やりすぎだバカエルフ。あとでまた俺が剪定(間引き)しねぇとジャングルになっちまうだろうが」
龍魔呂が呆れながらも、緑を取り戻した自分のシマ(畑)を見て、ほんの少しだけ目元を緩めた。
「おーい! 龍魔呂兄貴! T-barの配達員から『最高級ドンガン霜降り牛』と『ルナミス幻豚の厚切りバラ肉』をドッサリ受け取ったでえ!」
ニャングルが、自分の背丈ほどある巨大な肉のブロックを台車に乗せて運んできた。
「えへへ~、全部キュララちゃんのリスナーさんたちの奢り(スパチャ)だから、遠慮なく食べちゃお!」
キャルルがヨダレを拭いながらウサギ耳をピンと立てる。
「よし。なら、さっそく『宴会』の準備だ」
広場の中央には、キュルリンが即席で用意した『V8魔導エンジン直結型・極厚ミスリル鉄板』がセッティングされた。
龍魔呂は袖を捲り上げ、包丁を手に取る。
トントントントントンッ……!!
まな板の上で、目にも留まらぬ速さで『地下隠田』から収穫してきた発光ネギがみじん切りにされていく。
ボウルにたっぷりの刻みネギを投入し、そこへ岩塩、粗挽きの黒胡椒、そして特製の『ごま油』と柑橘の果汁を豪快に回しかけ、全体を素早く混ぜ合わせる。
「……完成だ。ポポロ村特製『極旨・ネギ塩ダレ』」
ボウルからは、ごま油の香ばしさとネギの鮮烈な香りが爆発的に広がり、それだけで白飯が3杯食えそうなほどの暴力的な匂い(飯テロ)を放っていた。
「じゅるり……龍魔呂きゅん、早くお肉焼いてほしいもんっ!」
キュルリンが鉄板の前でフォークとナイフを握りしめて待機している。
「オラ、いくぞ」
龍魔呂が、見事なサシの入ったドンガン霜降り牛を鉄板に乗せた瞬間。
ジュワァァァァァァァァァッ!!!
肉の焼ける凄まじい音と共に、極上の脂が弾け、香ばしい煙が広場を包み込んだ。
絶妙な焼き加減でひっくり返した肉の上に、先ほど作った『極旨・ネギ塩ダレ』をたっぷりと乗せる。
「食え」
その合図と同時に、飢えたイカれ住人たちが一斉に肉に群がった。
「はむっ……!? んんんん~~~っ!! な、何これぇぇ!?」
一口食べたキュララが、天使の輪を激しく明滅させて絶叫した。
「お肉が口の中でとろけるのに、このネギ塩ダレのシャキシャキ感と塩気が、脂の甘みを億倍に引き出してるぅぅ! 美味しすぎて放送事故レベルだよっ♡」
『画面越しでも匂いが伝わってくるううう!』
『深夜に見るんじゃなかった(飯テロ被害者)』
『そのネギ塩ダレのレシピ、金貨1000枚で買い取らせてくれ!』
キュララの配信画面でも、リスナーたちが阿鼻叫喚の嵐を巻き起こしている。
「あへぇぇぇ……♡ V8エンジンの爆音より、脳髄に響く美味さだもんっ……!」
キュルリンも、顔をネギ塩まみれにしながら、涙を流して霜降り牛を頬張っている。
「どきなさい寄生天使! その肉は私のものですわぁぁ!」
「あっ、ちょっとリーザちゃん! 私の分まで食べないでよ! あんたカツ丼10杯食べた後でしょ!?」
カメラの死角で、リーザが本物の野獣のような動きで次々と肉を強奪していく。
「ヒャハハハ! このネギ塩ダレ、瓶詰めにして『ポポロ村ブランド』で売り出せば、三カ国から金貨が滝のように流れ込んで来まっせ!!」
算盤を失ったニャングルが、頭の中で莫大な利益を弾き出して狂喜乱舞している。
「龍魔呂さんのご飯は、いつ食べても宇宙一美味しいね!」
キャルルが満面の笑みで、ネギ塩豚バラ肉で白飯を巻いて豪快にかき込む。
「ふふっ♡ 私の愛情たっぷりの野菜が、龍魔呂さんの手でこんなに美味しくなるなんて。やっぱり私たちは結ばれる運命ですのね♡」
ルナがちゃっかり龍魔呂の隣をキープし、彼に『あーん』をしようとしている。
「てめぇは大人しく座って食ってろ」
龍魔呂はルナのフォークを軽くあしらいながら、騒がしい広場を見渡した。
――異端審問局が放った業火は消え去り、そこには極上の焼肉の匂いと、イカれた仲間たちの笑い声だけが響いている。
社会的に抹殺されたエリートおじさんのことなど、もう誰も覚えていない。
「…………」
龍魔呂は、エプロン代わりの前掛けを外し、新しく補充したバレッドの箱から一本抜き取った。
カチッ……。
オイルライターの火が、賑やかな夜の広場に小さく灯る。
深く煙を吸い込み、星空に向かってゆっくりと紫煙を吐き出した。
「……まぁ、悪くねぇ『収穫祭』だったな」
ヤンキーの農業高校生が、異世界の辺境に作り上げた最高のシマ。
規格外の天然災害エルフ、炎上配信天使、魔改造ドワーフと、日に日に増えていく問題児たちを「極上の飯」と「圧倒的な暴力」で束ね上げながら。
龍魔呂のポポロ村での破天荒な農業ライフは、これからも止まることなく、大陸全土を巻き込んで爆走し続けるのだった。




