EP 8
鬼神流・収穫祭
アイドリング音を響かせるV8魔導トラクターを背に、龍魔呂がゆっくりとゼインへ歩み寄る。
周囲には、完全にスクラップと化したゴーレムの残骸と、泥に塗れて呻く数百人のエリート兵たちが転がっていた。
「……あり得ん。貴様のような規格外が、辺境の農村に存在していいはずがない」
ゼインはギリッと歯ぎしりをし、これまで崩さなかった氷のような無表情を、初めて屈辱と焦燥に歪ませた。
「法と秩序を乱す害虫め……! 魔力が使えぬなら、私の手で直接駆除してやる!」
ゼインが腰のスイッチを叩き込んだ瞬間、彼の着ていた軍服の下から『起動音』が鳴り響いた。
シュィィィンッ!
隠し持っていた局地戦用・魔導外骨格が展開し、ゼインの腕に高周波の振動を纏った『魔導ブレード』が形成される。魔法を封じるジャミング下においても作動する、純粋な物理切断兵器だ。
「死ねぇッ! 農民!!」
ゼインが音速の踏み込みで間合いを詰め、龍魔呂の首を刎ね飛ばすべく、必殺のブレードを横薙ぎに振り抜いた。
空気を裂く鋭い刃。
しかし。
ガシィィィッ!!!
「……なっ!?」
ゼインの動きが、空中で完全に停止した。
龍魔呂が、高周波で振動する魔導ブレードの刃を、左手の『素手』でガッチリと掴み止めていたのだ。
刃と掌の間で、赤黒い闘気が激しい火花を散らしている。肉を切るはずの刃は、ヤンキーの絶対的な闘気の壁を1ミリたりとも突破できていなかった。
「……『害虫』だぁ?」
龍魔呂の瞳が、スッと細められる。
「てめぇ、さっきから随分と偉そうに『法』だの『秩序』だのほざいてるがな。……てめぇらの法は、他人のシマの大豆を燃やして、土を泣かせるのが正義なのか?」
「ぐ、ぬぅぅ……! 離せ! 貴様らのような下賎な……!」
ゼインが必死にブレードを引き抜こうとするが、龍魔呂の腕は万力のようにピクリとも動かない。
「生憎だが、ウチのシマ(畑)のルールは一つだけだ」
龍魔呂の左手に込められた力が、限界を突破する。
バキィィィィィィンッ!!!
「ああっ!?」
ゼインの頼みの綱であった魔導ブレードが、飴細工のように粉々に砕け散った。
「悪い根っこは、引っこ抜いて天日に干す。……それだけだ」
龍魔呂の右腕が、滑らかな軌道を描いて下段から跳ね上がった。
「鬼神流農業術・徒手空拳――『収穫祭』!!」
ドゴォォォォォンッ!!!
強烈なアッパーカットが、ゼインの顎を正確に撃ち抜いた。
魔導外骨格のヘルメットが衝撃で粉砕され、ゼインの身体が宙に浮く。
「がはっ……!?」
脳を揺らされ、意識が飛ぶ寸前のゼイン。
しかし、龍魔呂のコンボは終わらない。浮き上がったゼインの胸ぐらを両手でガッ!と掴むと、そのまま凄まじい膂力で自分の頭上高くへと持ち上げた。
「土の味、教えてやるよ」
そのまま、燃えカスとなって荒れ果てた自分の畑の土に向かって、ゼインの身体を顔面から真っ逆さまに叩きつけた。
ズドドォォォォォォンッ!!!!
地面がクレーターのように陥没し、盛大な土煙が舞い上がる。
大根を引っこ抜くのとは逆。まさに、悪い根っこを地面に『植え付ける(顔面着地)』ような、情け容赦のない一撃だった。
「…………」
土煙が晴れた後。
そこには、自らが「汚らしい雑草」と吐き捨て、業火で焼き払ったポポロ村の泥に顔面から突っ込み、ピクピクと痙攣する『三カ国合同特務・異端審問局』の冷徹な指揮官の無様な姿があった。
「……ふぅ」
龍魔呂は、ボロボロになった学生服の襟を正し、ポケットからひしゃげたバレッドの箱を取り出すと、最後の一本を口に咥えた。
カチッ……。
オイルライターの火が、静寂を取り戻した広場に灯る。
深く煙を吸い込み、紫煙を空に向かって吐き出した。
「間引き、完了だ」
圧倒的だった。
魔法も、権力も、兵器も通じない絶望的な状況を、たった一人の農業ヤンキーが、己の拳と『畑への愛』だけで完全にひっくり返したのだ。
「りょ、龍魔呂さん……!!」
キャルルたちが、涙ぐみながら立ち上がる。
「はわわ……龍魔呂きゅん、最高にロックでキュートだもんっ♡」
キュルリンが安全靴を踏み鳴らして歓声を上げる。
その時だった。
ゼインが倒れた衝撃で、彼の懐から転がり落ちた黒いクリスタル――『対・自然魔力用・絶対封殺プリズム』にヒビが入り、パキンッ!と音を立てて砕け散ったのだ。
「あっ……!」
ルナが顔を上げる。
「魔力が……森の息吹が、戻ってきましたわ!」
それと同時に。
地面に這いつくばっていた天使の少女の羽が、再び白く輝き始めた。
「……繋がった」
キュララが、懐に隠し持っていた『予備の魔法スマホ(最新型)』を取り出し、ニヤリと小悪魔のような笑みを浮かべた。
広域魔力ジャミングが解除され、大陸全土に広がる数百万人のリスナーとの接続が、再び復活したのだ。
「龍魔呂さんが物理でボコボコにしてくれたおかげで……私の『ターン』が回ってきたよっ♡」
天使の瞳に、復讐のデジタルな光が宿る。
物理的な制裁は完了した。
続くは、この冷徹なエリート官僚の人生を完全に終わらせる、社会的抹殺の開演である。




