EP 5
蹂躙されるポポロ村と、燃える畑
「全隊、制圧を開始しろ」
ゼインの冷酷な号令とともに、重武装の異端審問兵たちが一斉にポポロ村へと雪崩れ込んだ。
彼らは感情を持たない機械のように、正確かつ無慈悲に村の制圧を進めていく。
「や、やめぇ! わいの店に踏み入るな! この帳簿と算盤だけは……!」
ニャングルが身を挺して商会の入り口に立ち塞がるが、無情にも兵士の鋼鉄のブーツが、彼の命とも言える『算盤』を無造作に踏み砕いた。
バキィッ! という乾いた音とともに、木の珠が虚しく地面に転がる。
「ニャングルさん!」
キャルルが紫電を纏わせたダブルトンファーを構えて飛び出す。
「あんたたち、よくも私のシマで好き勝手に……!」
「無駄だ、ウサギ」
ゼインが冷たく一瞥する。広域魔力ジャミングの影響で、キャルルが得意とする雷の魔力は火花程度にしか発生しない。そこへ重装甲の盾を持った兵士が突進し、キャルルを容赦なく弾き飛ばした。
「きゃっ……!」
「キャルルちゃん! うぅっ……女神の裁きを……って、神力が出ませんぅぅ!」
地面を転がるキャルルを庇おうとしたリリスも、兵士に槍の柄で殴り倒される。
「ひぃぃっ! アイドルの顔だけは、顔だけは殴らないでぇぇ!」
リーザは完全に戦意を喪失し、頭を抱えて震え上がっていた。
「あぁ……植物たちが、痛いって、泣いています……」
魔力を封じられたルナは、地面に崩れ落ちたまま、ポロポロと涙を流していた。彼女の耳には、兵士たちの軍靴に踏みにじられる草花たちの悲鳴が、直接響いていたのだ。
ポポロ村の住人たちは、圧倒的な『国家の暴力』の前に、為す術もなく蹂躙されていった。
「……反抗勢力の無力化を確認。続いて、違法農地の焼却に移る」
ゼインの指示を受け、火炎放射型の魔導器を持った兵士たちが、村の奥――龍魔呂が手塩にかけて育てていた『大豆畑』へと向かった。
青々と葉を茂らせ、あと少しで豊かな実りをもたらすはずだった大豆たち。
龍魔呂が毎日泥だらけになりながら土を耕し、ルナの暴走魔法を完璧に間引きして調教し、村の飯の種として大切に育て上げてきた命の結晶。
「燃やせ」
ゼインの短い命令。
ボォォォォォォッ!!
無慈悲な業火が、豊かな緑を包み込んだ。
パチパチと葉が焦げる音。土が焼ける匂い。黒い煙が、ポポロ村の青空を無残に汚していく。
「ああっ……! 龍魔呂さんの、畑が……!」
倒れたキャルルが、絶望の声を漏らす。
「……フン。泥にまみれた汚らしい雑草だ。このような物で我々の法を出し抜こうとした罪、その身に刻んでおくことだな」
ゼインは燃え盛る炎を背に、冷たく言い放った。
「…………」
その、燃える畑の前に。
いつの間にか、黒い学生服の男が立っていた。
龍魔呂だ。
彼は走ることも、怒鳴ることもしていなかった。
ただ、燃えカスとなって崩れ落ちていく大豆の苗を、じっと見つめている。
「なんだ、貴様は。命が惜しくば大人しく地に這いつくばれ」
一人の兵士が、龍魔呂の背中に向かって槍の穂先を突きつけた。
だが、龍魔呂は振り返らない。
ゆっくりと、自分の足元で半分炭になった『大豆のサヤ』を拾い上げた。
「……なぁ。知ってるか」
地の底から響くような、低く、重い声。
「種を蒔いてから、芽が出るまで。水が多すぎても腐るし、少なすぎても枯れる。……土の機嫌を窺って、虫を払って、やっとここまで育ったんだ」
「何をブツブツと……! 抵抗するなら斬るぞ!」
兵士が槍を振り上げた、その瞬間。
バキィィィィィィンッ!!!!
龍魔呂が振り返りざまに放った裏拳が、兵士の鋼鉄の兜を『兜ごと』へこませ、数十メートル後方まで一直線に吹き飛ばした。
「なっ……!?」
ゼインの氷の瞳が、初めて驚愕に見開かれた。
ジャミング下で魔力が使えないはずの人間が、重装甲の兵士を素手で吹き飛ばしたのだ。
「……俺の、シマで。俺が育てた命に……」
龍魔呂の足元から、空気が歪んだ。
魔力ではない。それは、東京の裏社会を単身で震え上がらせた、純粋な『暴力と殺意』の結晶――赤黒い闘気が、業火の熱を上回るほどのプレッシャーとなって噴き出したのだ。
「誰の許しを得て、土足で踏み入ってんだ。コラァ……ッ!!」
龍魔呂の瞳が、完全に『鬼』のそれへと変わっていた。
「ひっ……!?」
百戦錬磨の異端審問兵たちが、ただの高校生が発した『ヤンキーの凄み』に当てられ、本能的な恐怖で一歩後ずさる。
「てめぇら……全員、俺が『間引き(鏖)』してやる。このシマの土の肥料になりな」
一切のギャグなし。手加減なし。
シマと仲間と作物を踏みにじられた農業ヤンキーの、底知れぬ怒りが今、臨界点を突破した。




