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チートはいらねぇ。農高ヤンキー、拳と畑で異世界のてっぺんへ  作者: 月神世一


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第五章 炎上配信天使と、地下要塞の魔改造トラクター

はろきゅら! 降臨の寄生天使とヤラセ大食い

「はろきゅら~! アナタの心にエンジェル・アクセス♡ キュララだよっ!」

突き抜けるような青空の下、ポポロ村の上空で純白の羽を羽ばたかせている少女がいた。

頭には光り輝く天使の輪。カメラ機能付きの『魔法スマホ』を片手に持ち、完璧な角度(斜め上45度)から自撮りをしながら、空中で元気いっぱいにダブルピースを決める。

「今日はね~、お友達のキャルルちゃんとリーザちゃんが住んでる『ポポロ村』に遊びに来ちゃいました! みんな、スパチャと高評価よろしくねっ♡」

彼女の名前はキュララ・アルセルラ。

天界から家出同然で降り立ち、ルナミス帝国でメイド喫茶のナンバーワンを経て、今や大陸全土のSNSを掌握する大人気動画配信者『T-チューバー(テレパシー・チューバー)』である。

画面の向こうからは、数万人のリスナーによる熱狂的なコメントと、滝のような投げスパチャのエフェクトが画面を埋め尽くしていた。

『キュララちゃん今日も可愛い!』

『天使の生足助かる』

『金貨50枚投げます! ランチ代にして!』

「あぁ~ん、○○さんスパチャありがとぉ♡ キュララ、お腹ペコペコだからお寿司食べたぁいな♡」

キュララが上目遣いでスマホに甘い声を投げかけた、その3分後。

「はい、T-barテレパシー・ウーバーでーす! 特上ルナミス寿司の50貫セット、お届けに上がりましたー!」

ポポロ村の村長宅の縁側に、高速の飛行魔法を使った配達員が、信じられないほどの豪華な寿司桶をドンッと置いて去っていった。

もちろん支払いは、配信画面にQRコードを映してリスナーに秒で決済させたものである。

「わぁい♡ リスナーのみんな、ごちそうさまっ!」

縁側に腰を下ろしたキュララは、大トロを醤油にちょんとつけて、幸せそうに頬張った。

その横で、凄まじい怨念のオーラを放っている芋ジャージの少女がいた。

「…………ギリ、ギリギリ……ッ」

リーザである。

彼女の目の前には、公園で鳩と奪い合ってきた『パンの耳』と、その辺で摘んできた『雑草サラダ(マヨネーズ和え)』という、あまりにも残酷な底辺の食卓が広がっていた。

「あら、リーザちゃん。どうしたの? そんなに怖い顔して。……あ、もしかしてパンの耳、トーストしたかった?」

「ふざけないでくださいませ、この寄生天使ぃぃぃ!」

リーザが血走った目でキュララに掴みかかろうとするが、キャルルがトンファーで首根っこを引っ掛けて制止した。

「あんたのせいで! 貴重な私の地下ライブに来てくれていた数少ない『太客(石油王)』のおじ様たちが、こぞってあんたのチャンネルのメンバーシップに入って、私のライブから消えたんですのよ!? 私の生活費パトロンを返してくださいませぇぇ!!」

「え~? そんなの、リスナーがどっちを推すかの自由じゃない? アイドルなら実力で取り返しなよ~、だ・い・バ・ク・シ・歌姫ちゃん♡」

「きいいいいいっ!! いつかその純白の羽を毟って、焼き鳥にしてやるんですわあああ!!」

激しくいがみ合う、大手配信者と底辺地下アイドル。

だが、そんな二人の「表向きのバチバチ感」とは裏腹に、彼女たちの裏側には、ある『真っ黒な共犯関係』が存在していた。

その日の夕方。村長宅のリビング。

「さぁ、今日のメイン企画だよ! 『ポポロ村特産・超特大カツ丼10杯大食いチャレンジ』!!」

キュララのスマホカメラの前に、龍魔呂が作った洗面器サイズの巨大な『特製カツ丼』が10杯、ズラリと並べられた。

サクサクの衣に、甘辛い極上のタレと半熟卵が絡み合い、凶悪なまでの匂いを放っている。

『天使の胃袋どうなってんのw』

『10杯は無理でしょ!』

『完食したら金貨100枚投げるわ!』

コメント欄が激しく盛り上がる中、キュララは「いただきまーす♡」と可愛く両手を合わせ、カツを一切れ口に運んだ。

「ん~~っ! サクサクで、お肉がジューシー! 美味しぃ~~っ♡」

完璧な食レポと満面のアイドルスマイル。

そしてキュララは、自然な動作でカメラの画角ズームを調整し、『自分の顔から上だけ』が画面に映るように固定した。

「さぁ、どんどん食べていくよ~!」

キュララが笑顔でそう言った瞬間。

ガツッ! ズルズルズルッ! バクバクバクバクッ!!!

カメラの死角――テーブルの下で四つん這いになってスタンバイしていたリーザが、音速のスピードでカツ丼のどんぶりを奪い取り、掃除機のような吸引力でカツと飯を胃袋に流し込み始めたのだ。

「(はふっ! はふっ! お、お肉ですわ! 本物のカロリーですわぁぁぁ!)」

涙と鼻水を垂らしながら、無音で超特大カツ丼を瞬殺していくリーザ。

その間、キュララは画面に向かって「んふふ♡ リスナーのみんなのコメント面白いね~」と、まるで自分が咀嚼しているかのように口をもぐもぐと動かすエア食事リップシンクを完璧にこなしていた。

(……はぁっ! 1杯目完食ですわ! 次っ!)

リーザが空のどんぶりを床に置き、次のどんぶりを引きずり下ろす。

その様は、完全に飢えた野獣の餌付けだった。

「……お前ら、またそれやってんのか」

台所からフライパンを持ったまま出てきた龍魔呂が、死んだ魚のような目でその狂気の光景を見下ろした。

キュララは「大食いなのに太らない可愛い天使」としての好感度と莫大なスパチャを獲得し。

リーザは「タダで大量のカロリー」を摂取できる。

表ではいがみ合いながらも、裏ではコンプライアンス最悪の『ヤラセ大食い企画』で完璧なコンビネーションを発揮する二人の泥沼の共犯関係。

「……チッ。どこの世界でも、カメラの回ってる表側なんてのは信用ならねぇな」

龍魔呂はバレッドに火を点け、紫煙を吐き出しながら、空になっていくカツ丼のどんぶりを呆れ顔で片付け始めた。

ポポロ村の日常は、T-チューバーの降臨によって、さらに混沌と現代病の闇へと突き進んでいくのだった。

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