EP 9
地下帝国の闇商人と、平和的(?)魔導兵器
ルナの「過剰施肥」によって狂暴化した野菜たちを、龍魔呂がヤンキー農業術でねじ伏せた数日後。
ポポロ村の地下要塞のさらに奥深く、岩盤の壁がドゴォォォン!と重低音を立てて崩れ落ちた。
もうもうと舞う土煙の中から現れたのは、巨大な装甲車と、魔導葉巻を咥え、黒いサングラスをかけたドワ―フの集団だった。
「クックック。待たせたな、ニャングルの旦那。注文の『おもちゃ』、きっちり地下帝国ドンガンから運んできたぜ」
先頭に立つ筋骨隆々のドワーフ――地下帝国の闇商人、ドン・ガバーナがニヤリと笑う。
「へっへっへ、ガバーナの親分! さすが仕事が早おますな!」
ニャングルが揉み手をしながら歩み寄る。
装甲車のハッチが開き、ドン・ガバーナの部下たちが次々と木箱を運び出してきた。
「最新式の『魔導アサルトライフル』が100丁。それに、敵陣に突っ込んで大爆発を起こす凶悪な『魔導自爆ドローン』が50機だ。これでこの村も、立派な武装国家の仲間入りだなァ」
物騒極まりない兵器の山を前に、龍魔呂はバレッドを咥えながら品定めをするようにライフルを手に取った。
「……ほう。重心のバランスも悪くねぇ。これなら、三カ国の正規軍相手でも十分『シマ』を守り切れるな」
「えへへ、龍魔呂さんのかっこいいガンアクションが見れちゃうね!」
キャルルがウサギ耳を揺らして物騒な期待を寄せる中、ドン・ガバーナの鼻がピクピクと動いた。
「ん……? なんだ、このとんでもなく美味そうな匂いは……それに、あの光ってる草はなんだ?」
闇商人の視線の先には、地下の人工太陽(巨大向日葵)の下で神々しいオーラを放ちながら育っている、ルナ印の『極上発光野菜』たちがあった。
ガバーナはたまらず歩み寄り、光るトマトを一つ手に取って齧り付いた。
「……っ!? な、なんだこれはァァァッ!? 凄まじい魔力密度と、脳髄がとろけるような旨味! こんなモン、王族が食う伝説の霊薬レベルじゃねぇか!! おいニャングル! 武器の代金はこれでいい! いや、むしろこの野菜の独占取引権をウチに……!」
「あらあら……」
商談が血生臭い方向から経済的な方向へシフトしかけた、その時である。
いつの間にか兵器の木箱の前に立っていたフリフリドレスのエルフ――ルナが、悲しそうな顔で魔導ライフルを見つめていた。
「こんな冷たくて、真っ黒な鉄の棒……。見ているだけで悲しくなりますわ。……それにこの、飛んでいく丸い機械(自爆ドローン)。自分が壊れて誰かを傷つけるために生まれてきただなんて、あまりにも可哀想……」
「あ、おいエルフ! その箱から離れろ!」
龍魔呂が嫌な予感を感じて声を上げる。
「大丈夫ですわ! 武器なんて捨てて、みんなで幸せの種を撒きましょう? 大地の息吹よ、冷たい鉄に温もりを……♡」
ルナが世界樹の杖で、兵器の詰まった木箱をコンッと叩いた。
ピロリロリロリ~ンッ!!
眩いエメラルドグリーンの光が、地下帝国の最新兵器を包み込んだ。
光が収まった後、そこにあったのは――。
「な、なんやこれえええええ!?」
ニャングルが算盤を落として絶叫した。
漆黒の『魔導アサルトライフル』は、パステルピンクやミントグリーンに色を変え、銃口からは弾丸の代わりに**「ポンッ!」という間の抜けた音と共に、色鮮やかな『紙吹雪』と『癒やしの花の香り』が噴き出すステッキ**に成り下がっていた。
さらに、凶悪な『魔導自爆ドローン』は、装甲がミラーボールのようにピカピカに磨き上げられ、空中にフワフワと浮遊しながら「七色のレーザー照明」を周囲に撒き散らす謎のミラーボール型浮遊機械へと変貌を遂げていた。
「俺の……俺のシマの防衛戦力がぁぁぁ! 完全にパーティーグッズになっちまったぁぁ!」
ニャングルが膝から崩れ落ちて号泣する。
「お、俺のドンガン帝国の誇る殺戮兵器が、なんだこのフザケタおもちゃは!」
ドン・ガバーナもサングラスをずらして呆然としている。
「ふふっ♡ これで誰も傷つきませんわ! 平和が一番ですもの!」
ルナは、花吹雪を撒き散らすライフルを手に、満面の笑みでクルクルと回っている。
「……終わった。ハリネズミ作戦、完全崩壊や……」
キャルルも頭を抱えた、その時だった。
「……待って」
それまで「油臭い」と文句を言いながら寝転がっていたリーザが、ガバッと跳ね起きた。
彼女の目は、空中に浮かぶ『元・自爆ドローン(現・自動追尾型ミラーボール)』の放つ七色の照明に釘付けになっていた。
「これ……私が動くと、自動で照明が付いてくる……!? しかも、そこのピンクの銃から出る紙吹雪……! これって……!!」
リーザは息を呑み、そして歓喜の絶叫を上げた。
「究極の『アイドル用ライブ機材(特効演出セット)』じゃないですかぁぁぁ!!」
「なっ!?」
「ニャングルさん! ガバーナさん! このドローン、絶対爆発(自爆)しないんですよね!?」
「お、おう。爆薬は全部、光と音を出す魔法陣に書き換えられちまってる……」
「最高ですぅ! これがあれば、三カ国ツアーでどんな野外でも完璧なステージ演出が可能ですわ! さらにこの発光野菜を『ライブ限定コラボグッズ』として売り出せば……!!」
リーザの頭の中で、爆発的な利益を生み出す黒いソロバンが弾かれた。
「……チッ。そういうことかよ」
龍魔呂は、花吹雪を被りながら、ニヤリと口角を上げた。
「おい、ニャングル。泣いてる暇はねぇぞ。……人を殺す兵器より、人を熱狂させる娯楽のほうが、金持ちの貴族からはよっぽど高値でぼったくれるんじゃねぇか?」
その一言で、ニャングルとドン・ガバーナの商人の血が激しく沸騰した。
「……ハッ! そ、そや! 平和を愛する『魔法のパーティーグッズ』! 貴族の夜会に売り込めば、兵器の10倍の値段で売れまっせ!!」
「ヒャハハ! 野菜の独占取引に加えて、このエンタメ機材の輸出! ニャングル、こりゃあドンガン帝国との間に前代未聞のシノギが産まれるぜェ!」
地下の闇取引は、ルナの善意(魔法)とリーザのアイドル魂によって、まったく別の次元の「巨大ビジネス」へと変異した。
「ふふっ♡ 皆さん、とっても嬉しそうですわ! やっぱり私の魔法は世界を救いますのね!」
何もわかっていないエルフの姫君が微笑む中、ポポロ村の地下には、兵器の代わりに「莫大な札束」を生み出す狂乱のエンタメ要塞が誕生したのである。龍魔呂の口から吐き出されたバレッドの煙が、七色のレーザーライトに照らされて妖しく揺れていた。




