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チートはいらねぇ。農高ヤンキー、拳と畑で異世界のてっぺんへ  作者: 月神世一


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EP 2

ルナミスパーラーと、天然念動力(ゴト師)の姫君

♪パーンパカパーンパッカパンパンパン~、パパラパパラパーン~♪

ポポロ村の発展に伴い、ついに娯楽施設までが進出を果たした。

ゴルド商会が試験的にオープンさせた『ルナミスパーラー・ポポロ支店』。煌びやかな魔導ネオンが輝く店内は、軍艦マーチ風のけたたましいBGMと、玉がガラスを弾く狂騒的な音で満ち溢れていた。

「さて……。今日はパチンコでもしに行くか」

休日の昼下がり、黒い学生服のポケットに両手を突っ込んだ龍魔呂は、ヤンキーの嗜みとしてふらりとパーラーに足を踏み入れた。

煙草の煙が漂うシマ(通路)を歩いていると、羽根モノの台の前で、見覚えのある男が小刻みに体を揺らしているのを発見した。

「あ~、全く! この台は釘がキツイんじゃねぇか!? 全くよ~、店長呼んでこい店長!」

アバロン魔皇国の貴公子、ルーベンスである。

しかし、普段の優雅なローブ姿はどこへやら。シャツの第一ボタンを外し、ネクタイを緩め、口には『バレッド』を咥えてスパスパと紫煙を吐き出している。そして何より、足元の**貧乏ゆすり(カタカタカタカタ……!)**が、台の振動と共鳴する勢いで止まらない。完全に「休日にパチンコ屋に入り浸る限界の親父」がそこにいた。

「よぉ、ルーベンス」

龍魔呂が横から声をかける。

「お? あ、龍魔呂さん」

ルーベンスはバレッドの灰を落とし、疲れた顔で台のガラスをコンコンと叩いた。

「当たってるか?」

「駄目っすわ。この最新台の『異世界転生トラックでドン』……ガオガオン(激熱演出)の煽りばっかり一丁前で、全然当たりを引けねぇ。発展しても、いっつも『ルチアナのコタツ部屋ルート(※期待度5%のハズレルート)』ばっかりでさ。あ~あ、投資が金貨2枚いっちまったよ……」

「そうか」

神界の先輩女神がパチンコの激サム演出に採用されていることに少し同情しつつ、龍魔呂はルーベンスの隣の台に腰を下ろした。

その時である。

彼らの背後の通路を、信じられない光景が通り過ぎていった。

「はぁはぁ……! ルナちゃん♡ ちょっと待っててね♡」

床に四つん這いになり、両手にガムテープ(粘着面を外側にした輪っか)をぐるぐると巻きつけた芋ジャージの少女――リーザだった。

彼女は「客が落とした銀玉」をガムテープでペタペタと拾い集めるという、昭和のパチンコ屋に存在した底辺のハイエナ(玉拾い)行為を、異世界で完全再現していたのだ。

「……リーザちゃん? 足元で一体何を拾っているの?」

入り口で待たされていたルナが、フリフリのドレス姿で不思議そうに首を傾げた。

「はぁ、はぁ! 大丈夫、これで……っ!」

リーザは床から集めた(窃盗した)銀玉数十発をドル箱に入れ、ルナの手を引いて空いている羽根モノの台に座らせた。

「これでどうするの? 私、こういう遊戯は初めてですのよ?」

玉の打ち方も分からないルナに、リーザはニチャアと黒い笑みを浮かべて囁いた。

「良い? ルナちゃん。ルナちゃんの『念動力』で、この打ち出した銀玉の軌道を捻じ曲げて、あの『V』って書いてある穴の所に入れて。……そしたら大量のサバ缶と交換……いやいや! この村の、ひいては世界が救われる事になるのよ!」

「えっ! 世界を救えるの?」

天然善意100%のルナの瞳が、使命感でキラキラと輝いた。

「私、やりますわ! お安い御用です!」

コンプラインアンス違反も甚だしい、魔法を使った完全なる『ゴト(イカサマ)行為』の教唆である。

ルナがハンドルを捻り、銀玉が台の中へ弾き出された。

その瞬間、ルナの瞳が微かにエメラルドグリーンに光る。

キュインッ!

本来なら釘に弾かれて落ちるはずの銀玉が、まるで意志を持っているかのように空中で「くの字」に曲がり、障害物をすべて避けてダイレクトにVゾーンへ吸い込まれた。

キュイイイン! キュイン! キュイイイイイイン!!

『おめでとう! 大当たりぃぃぃ!!』

台からけたたましい確定音とレインボーの光が放たれ、アタッカーが全開になる。

「やったあああああ! これで勝つる! 今日からパンの耳じゃなくて、スーパーの半額弁当が食べられるですぅぅ!!」

リーザが両手を突き上げて歓喜の舞を踊った。

だが、パチンコ屋のセキュリティを舐めてはいけない。

リーザがドル箱に手を伸ばそうとした瞬間、彼女の背後に、ぬらりと巨大な影が落ちた。

「……お客さぁぁん? ちょっと、困りますなぁぁ」

「ひゃ、ひゃい!?」

振り返ると、そこには魔導サングラスをかけた、いかつい黒服の店員(オーガ族のバウンサー)が仁王立ちしていた。彼の目は、上部の防犯用魔導カメラが捉えた「不自然な玉の軌道」を完全に見抜いていた。

「……ちょっと、事務所まで来て貰いますか」

黒服の太い腕が、リーザの芋ジャージの襟首をガシッと掴む。

「ひいいいいいんッ! 違います! 私はただのアイドルで、主犯はこのエルフで……っ!」

見苦しく責任転嫁しようとするリーザだったが、黒服は容赦なく二人を同時に担ぎ上げた。

「あーれー」

帯を解かれた時代劇の姫君のように、くるくると回りながら事務所バックヤードの奥深くへと連れ去られていくルナ。そして、「いやああああっ! サバ缶がぁぁぁ!」と絶叫しながら引きずられていくリーザ。

その一部始終を横目で見ていたルーベンスが、バレッドの煙をふぅと吐き出しながら龍魔呂に尋ねた。

「あぁ~あ。事務所に連れ込まれちまったぞ。……良いのか? 大将、あいつらお前の村の奴らだろ? ほっといて」

龍魔呂は、手元のハンドルを握ったまま、液晶画面のルチアナ(激サム)を見つめて鼻で笑った。

「……自業自得だ。自分のシマならともかく、他人の鉄火場でイカサマ(ゴト)やって捕まった奴を助ける義理はねぇよ」

ヤンキーの「自己責任」の流儀である。

龍魔呂の口から吐き出された紫煙が、軍艦マーチの鳴り響く店内の空気に溶けていく。

かくして、世界樹の姫君と深海の歌姫は、パチンコ屋の奥底で「恐怖の取り調べ」を受けることとなったのである。ポポロ村の日常は、今日も果てしなく底辺で騒がしい。

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