EP 3
ヒノキの棒と、ルナキンの女子会
とある日のポポロ村。
大通りに面した一角に、最近オープンしたばかりの真新しい店舗があった。黄色い看板には、にっこりと微笑む太陽のマークと『ファミリーレストラン・ルナキン(ポポロ村支店)』の文字が輝いている。
その店の前で、キャルルはウサギ耳をパタパタと苛立たしげに揺らして時計を見ていた。
「もう……。ルナ、また迷子になってないよねぇ」
「困りますわ! 今日の『お財布担当』が来ないなんて、私の命に関わりますぅ!」
隣で芋ジャージ姿のリーザが、ルナキンの『山盛りポテト半額クーポン』を握りしめながら血走った目で周囲を見回している。彼女の胃袋はすでに「他人の金で食うファミレス飯」を受け入れる態勢に仕上がっていた。
そこへ、ピンクのジャージ姿のリリスが、フリフリのドレスを着たエルフの少女の手を引いて歩いてきた。
「お待たせしました〜。ルナちゃん、無事回収完了ですぅ」
「まぁまぁ皆さん。お待たせしてごめんなさいね」
ふんわりと微笑むルナの手には、なぜかどこで拾ったのか分からない『ただの木の棒』が握られていた。
「ちょっとリリス、遅かったじゃない。どこにいたのよ?」
「それがですねぇ……」
リリスがやれやれと首を振る。
「ルナちゃんったら、道に迷ったからって『ヒノキの棒』を地面に倒して、倒れた方向に進もうとしてたんですぅ。しかもその方角、ポポロ村のファミレスじゃなくて、完全に『アバロン魔皇国』の国境を向いてましたからね」
「げっ……!」
キャルルが特大のツッコミを入れるべく、バンッとルナの肩を叩いた。
「もぅ! 何処かの勇者じゃないんだから! 『ヒノキの棒』と『初期装備(50G)』だけで、魔皇国にカチコミ(殴り込み)しに行かないでよね!」
「あら、分かってるわぁ。私はただ、自然の導き(物理)に従おうとしただけで……」
「それが致命的な方向音痴だって言ってんの!」
天然の方向音痴エルフに呆れつつも、キャルルは気を取り直してルナキンの店舗を指差した。
「じゃあ、ルナキンに入るよ〜! 久々の女子会の始まり〜!」
「わーい! ドリンクバー! ドリンクバーですぅ!」
自動ドアがウィーンと開き、『タララララン♪』という聞き慣れた入店チャイムが鳴り響く。
明るい店内には、ハンバーグの焼ける匂いと、ガーリックの香ばしい匂いが充満していた。
「いらっしゃいませ〜! 何名様ですか?」
エプロン姿の村娘の店員が、笑顔で出迎える。
「4名です〜」
キャルルが指を4本立てて答えると、店員は「空いてる席にどうぞ〜」と奥のテーブルを案内した。
「は〜い、ありがとうございま〜す」
四人は、ファミレス特有のふかふかしたソファーの『BOX席』へと滑り込んだ。
窓側にキャルルとルナ、通路側にリリスとリーザが陣取る。
「さぁて!」
席に座るやいなや、リーザが目にも止まらぬ速さでメニュー表をガバッと開いた。
「今日はルナちゃんのおごり(偽金)! 財布の心配はご無用! 遠慮はいりませんわね!」
「リーザ、あんた本当に現金……いや、浅ましいわね」
「命懸けのサバイバーと呼んでくださいませ! ええっと、まずは『チーズINドデカ・ハンバーグ』のライス特盛り! それから『山盛りカリカリポテト』! デザートに『ティラミス・パフェ』もつけちゃいますぅ!」
普段はパンの耳と雑草で命を繋いでいる地下アイドルの、ここぞとばかりの強欲なオーダーが炸裂する。
「ふふっ、相変わらずリーザちゃんは元気ね」
ルナはメニューを優雅に眺めながら、首を傾げた。
「私はどうしましょう……。この『ドリンクバー』というのは、世界樹の朝露のように、無限に湧き出る魔法の泉のことかしら?」
「あ、ルナちゃん、ドリンクバー行くなら私の分もメロンソーダとカルピスを5:5で混ぜて持ってきてくださいですぅ!」
リリスがスマホのガチャを回しながら無茶振りをする。
「あら、混ぜるのね? 錬金術の基本ですわ。……ふふっ、任せてちょうだい」
ルナが「錬金術」という物騒な単語を口にした瞬間、キャルルは嫌な予感を覚えてウサギ耳をピンと立てた。
「ちょっとルナ……ただボタンを押すだけだからね? ドリンクバーの機械の前で、間違っても世界樹の魔法で『未知の有機物』を生成したりしないでよ!?」
ファミレスのBOX席を舞台に、天然エルフと駄女神と貧乏神アイドルの、カオスすぎる女子会が今、幕を開けた。




