EP 3
ブラック労働と、セメントの海に沈むアイドル
ギラギラと太陽が照りつける、ポポロ村の広場予定地。
ニャングルの指示(という名の強制労働)により、そこは現在、村のインフラ整備のための工事現場と化していた。
「ピーッ! ピーッ! オーライ、オーライ! ロックバイソンちゃん、後ろに気を付けて~! はいっ! ストップ!」
黄色いヘルメットを斜めに被り、芋ジャージ姿のリーザが笛を吹き鳴らしながら、現場監督気取りで指示を出していた。
彼女の目の前にいるのは、ポポロ村の開拓用に飼い慣らされた土木作業用の巨獣――『ロックバイソン』だ。岩のように硬い皮膚と、強靭な筋肉を持つ牛型の魔物である。その背中には、大量のセメントが積まれた荷車が繋がれていた。
「ブモォ!」
ロックバイソンが、重い荷車を指定の位置に止めて短く鳴く。
「はーい、ご苦労様ですぅ! じゃあ、そこにセメントを落として~」
「ブモォ!?」
「そのまま、ちゃちゃっと私の『特設ライブステージ』を作って~」
「ブモォ!?」
あまりにも丸投げすぎる指示に、ロックバイソンが抗議の声を上げた。言葉は通じないはずだが、そこはサバイバル生活で無駄なコミュニケーション能力を培ってきたリーザである。牛の鳴き声から、その不満を完璧に翻訳してみせた。
「え? なに? 『ブラック労働すぎる』? 『牛に無茶いうな』? 『そもそも俺の時給は幾らだ』って?」
「ブモォ!!」
ロックバイソンが、「その通りだ!」と言わんばかりに激しく首を縦に振る。魔物にも労働基準法を重んじる心はあるのだ。
だが、リーザは健康サンダルで地面を強く踏み鳴らし、ビシッとロックバイソンを指差した。
「アマーーーイ!!! 甘いですぅ! 芸の道は厳しいの! 素晴らしいステージを作るためには、終わりなき鍛錬と自己追及が必要なのよ!!」
威風堂々と、芸術の尊さを説くリーザ。
しかし、その彼女の視線は、自分の左手にこっそり握られた『ニャングルが書いた現場監督用マニュアル(カンペ)』に釘付けになっていた。
「ブモォ!?」
ロックバイソンの目が、スッと半眼になる。
「ふぇ!? 『カンペを見ながら偉そうに言うな!?』『お前が楽をしたいだけだろ!?』……って、野生の勘が鋭すぎますぅ!」
図星を突かれ、リーザは滝のように冷や汗を流した。
このままでは、怒り狂った巨獣に反乱を起こされる。
そう直感したリーザは、突然、自分の胸のあたり(芋ジャージのファスナー付近)を両手で押さえ、大袈裟に苦しみ始めた。
「ええっと、ええっと! あーっと、大変ですぅ! 私の胸のカラータイマーが、ピコンピコンと鳴った気がしますぅ! ウルトラなピンチですぅ!」
「ブモォ……?」
呆れ返るロックバイソンをよそに、リーザはジリジリと後ずさりする。
「私、ちょっとこれから『怪獣退治のバイト』が有るから! 地球の平和を守らなきゃいけないから! はい! というわけで今日の作業は終わり! タイムカードは私が責任を持って切っておくから、また明日来てね!」
息継ぎもせずに言い訳を並べ立てたリーザは、両腕を十字にクロスさせた。
「シュワッチ!!」
そして、光の巨人のポーズをとったまま、脱兎のごとく現場から逃亡を図った。
……しかし、ブラック労働を強いられた怒れる労働者(牛)が、現場監督の職務放棄を許すはずがなかった。
「ブモォォォォォォォッ!!!」
怒りの咆哮と共に、ロックバイソンが猛ダッシュでリーザの背後へと迫る。
「ひぃぃぃっ!? ウル◯ラマンは牛には追われないですぅーーーっ!」
ドゴォォンッ!!
「きゃあああああっ! なんでよおおおおお!」
ロックバイソンの容赦ない体当たりがリーザの背中にクリーンヒット。
哀れな人魚姫の身体は宙を舞い、ロックバイソンが直前に落としていた、ドロドロに練り上がったばかりの『セメントの海(未舗装部分)』へと、顔面から美しくダイブした。
ベチャァァァァァッ……!
「……ぷはっ! ぺっ、ぺっ! 目がぁぁぁ! セメントが口に入ったですぅぅぅ!」
全身泥だらけ、いや、セメントまみれになったリーザが、灰色の沼の中でジタバタと溺れかける。
「ブモォ。(自業自得だ)」
ロックバイソンは鼻息を荒くしてフンッとそっぽを向くと、休憩時間に入るため、のっしのっしと木陰へ歩き去っていった。
「誰かぁ! 助けてぇ! このままじゃ私、ポポロ村の道路の一部(人柱)になっちゃいますぅぅ!」
こうして、労働をサボろうとした歌姫は、見事にポポロ村のインフラ整備の「礎(物理)」として、セメントの中で泣き叫ぶ羽目になったのだった。彼女の夢見る特設ステージへの道のりは、まだまだ遠く、そして険しい。




