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チートはいらねぇ。農高ヤンキー、拳と畑で異世界のてっぺんへ  作者: 月神世一


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EP 9

悲劇のピエロと、宿代の精算

ポポロ村から遠く離れた、禍々しい瘴気が渦巻くダンジョン『天魔窟』。

その最深部に設けられた薄暗いモニタールームで、ピエロの仮面を被った魔人ギアンが、不気味な笑い声を漏らしていた。

「クックック……何やら、僕の美しい舞台に面白い『人形』が紛れ込んできたようだね」

ギアンの細長い指が、空中に浮かぶ複数の魔導モニターをなぞる。映し出されているのは、黄金に輝くポポロ村の畑と、そこで農作業をする龍魔呂たちの姿だった。

死蟲王サルバロスの復活を目論む彼にとって、ポポロ村のような平和で豊かな土地は、絶望の悲鳴を引き出すための極上の「餌場」にすぎない。

「あの生意気な人間どもを、極上の『悲劇の舞台』の主役にしてやろう……。行けぇ! 僕の可愛い蟲たちよ!」

ギアンが指を鳴らした瞬間、天魔窟の暗がりから無数の機械音が響き、殺戮の蟲たちがポポロ村へ向けて解き放たれた。

「きゃあああああっ!? 蟲ですぅ! 6本足は嫌いですぅ! 龍魔呂さぁぁぁん!!」

ポポロ村の畑に、リリスの鼓膜を破らんばかりの悲鳴が響き渡った。

森の木々をなぎ倒し、土煙を上げて押し寄せてきたのは、機械と生物が融合したおぞましい魔物――『死蟲機しちゅうき』の群れだった。

強力な酸を垂れ流す『死蟻しあり型』が、カサカサと不快な金属音を立てて畑を蹂躙しようと迫る。

だが、逃げ惑うリリスの前へ、190cmの巨躯が静かに立ち塞がった。

黒い学生服の裾が、異世界の風にバサリと翻る。

「……俺のシマを荒らす奴は、絶対に許さねぇ」

龍魔呂の低い声が響いた。

右手に握られた黒光りする特殊警棒が、シャキッ!と音を立てて伸長する。

「鬼の龍儀、その参。住んでる場所シマは守る対象であり……宿代は『悪党退治』で精算する」

「私もお手伝いします♡」

龍魔呂の隣に、キャルルが軽やかに飛び出した。

両手にはダブルトンファー。そして足元の特注安全靴からは、バチバチと紫電の輝きが激しくスパークしている。愛する男の「シマ」を汚す害虫に、ヤンデレ月兎の容赦ない殺意が向けられていた。

「行くぞ!」

龍魔呂が大地を蹴った。

同時に、彼の全身から『赤黒い闘気オド』が爆発的に噴き出し、右手の特殊警棒に高密度で巻き付いていく。

「鬼神流――『絶花乱舞ぜっからんぶ』!!」

龍魔呂の巨体が群れのど真ん中に突っ込み、赤黒い闘気を纏った警棒が竜巻のように振り回された。

メキメキィッ!! ドゴォォォォンッ!!

鋼鉄よりも硬いはずの死蟻型たちの外殻が、圧倒的な物理の暴力と闘気の圧力によって、文字通り木っ端微塵に粉砕されていく。酸を吐く隙すら与えない、完全な蹂躙。

「ハイ! ハイハイハイッ!」

龍魔呂の死角を突こうとした『死蟷螂しかまきり型』の群れには、キャルルが躍りかかった。

死蟷螂が鋭利な機械の鎌を振り下ろすが、キャルルは銀色の闘気を纏ったトンファーでそれを滑るようにいなし、相手の体勢を完璧に崩す。

「月影流……『顎砕き』!」

ガラ空きになった死蟷螂の機械の顎へ、特注安全靴の強烈な膝蹴りが突き刺さる。ガガァンッ!という轟音と共に、蟷螂の頭部が空の彼方へ吹き飛んだ。

「WINNER! キャルルちゃ〜ん!」

戦闘の真っ只中だというのに、安全圏(龍魔呂の背後)にちゃっかり移動したリリスが、『エンジェルすまーとふぉん』のカメラを向けてシャッターをパシャパシャと切っていた。

「いぇーい♡」

返りオイルを浴びながら、キャルルが満面の笑みでVサインを決める。

「えぇいッ! 何を手こずっている!? こんなの僕の台本シナリオには無いぞ!!」

天魔窟のモニタールームで、ギアンが苛立ちに声を荒らげた。

絶望の悲鳴を上げるはずの人間どもが、あろうことか死蟲軍をワンサイドゲームでフルボッコにしている上、カメラ目線でピースまで決めている。悲劇の演出家としてのプライドがズタズタだった。

「なら、これならどうだ! 行け、『死甲虫しかぶとむし型』!!」

ズシンッ……! ズシンッ……!!

ポポロ村の畑に、戦車のような重低音が響いた。

死蟻と死蟷螂の残骸を踏み潰し、巨大で分厚い装甲に覆われた『死甲虫型』の群れが現れた。生半可な打撃や魔法などすべて跳ね返す、死蟲軍の誇る重装甲部隊だ。

「キャルル。一気に決めるぜ」

龍魔呂が警棒を収納し、両の拳を強く握り込む。

「はいっ! 龍魔呂さん♡」

キャルルの表情から笑顔が消え、研ぎ澄まされた戦士の顔へと変わる。

彼女は深く腰を落とし、クラウチングスタートの姿勢をとった。安全靴の底に仕込まれた『雷竜石』が限界まで解放され、銀色の闘気と紫電の雷光が激しくスパークする。

ドンッ!!

空気が弾け、キャルルの姿が消失した。

音速(マッハ1)の壁を突破した彼女は、空中で強烈な踏み込み(三角飛び)を行い、夜空に浮かぶ満月を背に宿した。

それはまさに、神話に語られる『雷神の月兎』の再臨。

「でえええええええいッ!!」

空中を一回転し、落下のエネルギーと音速の推進力をすべて右足に乗せる。

「『超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)』ッ!!!」

バリバリバリバリッ!! ドガガガガアアアアンンッ!!!

一億ボルトの紫電を纏った必殺の飛び蹴りが、死甲虫型の誇る超重装甲に直撃した。防ぐことなど不可能。装甲は紙切れのように吹き飛び、内部のコアごと完全に蒸発する。

「派手だな。……よし、残りだ」

キャルルが着地するのと同時に、龍魔呂が踏み込んだ。

右腕に赤黒い闘気を極限まで圧縮させ、大気を震わせる。

「鬼神流――『炎魔龍撃掌えんまりゅうげきしょう』!!」

放たれた右ストレートから、咆哮を上げる巨大な赤黒い地獄の龍が飛び出した。

ドガガガガガガガアアアアアアアアンンンッ!!!

残っていた死甲虫型と死蟲機たちは、抵抗する間もなく闘気の龍に食い破られ、ポポロ村の畑の塵と消えた。

「そ、そんな……馬鹿なああああああっ!!」

天魔窟のモニタールーム。

モニターに映し出された『全滅』の文字を見て、ギアンは仮面の下で顔を歪め、絶叫した。

「こんなの……こんな三流の力押し物語なんて、僕の台本には無い! 認めない、絶対に認めないぞ!!」

バンッ! バンッ! バンッ!!

先程までの余裕で不気味な態度はどこへやら、ギアンはコンソールデスクを両手で力任せに叩きまくった(台パン)。

「コンテニューだ! コンテニュー!! サルバロスママぁぁぁ! 銅貨1枚(100円)ちょうだいぃぃぃ! うわあああああん!!」

モニターの前で涙と鼻水を流し、母親にコンテニュー代をねだるゲーセンの子供のように泣き喚くギアン。

悲劇の演出家を気取っていた哀れなピエロは、農業ヤンキーの圧倒的な物理力の前に、完全にそのメッキを剥がされてしまったのであった。

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