表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートはいらねぇ。農高ヤンキー、拳と畑で異世界のてっぺんへ  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/59

EP 8

居酒屋『鬼龍』のお忍び会と、黄色い産業廃棄物

ポポロ村の裏路地に、ひっそりと赤提灯をぶら下げた小さな店ができた。

暖簾には達筆で『居酒屋 鬼龍』と書かれている。龍魔呂が趣味と実益(と、騒がしい村長宅からの避難所)を兼ねて作った、夜限定の溜まり場だ。

その日、カウンター席には場違いな三人の男が並んで座っていた。

全員が目立たないローブや外套で変装しているが、その中身は大陸の運命を握る三カ国のトップたちである。

「あー……染みる。五臓六腑に染み渡るわい……」

アバロン魔皇国の貴公子・ルーベンスは、ローブの襟元をだらしなくはだけさせ、片手でおしぼりで顔をゴシゴシと拭いていた。手にはポポロ特産『イモッカ』の熱燗が入ったコップ。そして、テーブルの下では小刻みな貧乏ゆすり(カタカタカタカタ……)が止まらない。

「あのババア(魔王ラスティア)……また今月も防衛予算の30%を朝倉月人の限定グッズに回しやがった……。もう嫌だ、俺は魔皇国に帰りたくない……」

完全に「金曜の夜に管を巻く限界サラリーマン」と化したルーベンスの前に、龍魔呂がドンッと皿を置いた。

「ほらよ。お待ちかねの『油たっぷりの黄金チャーハン』と『獄炎焼き餃子(マイルド版)』だ」

「おおっ! これだ、俺はこれを求めていたんだ!」

ルーベンスは目を輝かせ、貴公子の品格など完全に投げ捨てて餃子に食らいつき、熱燗で流し込んだ。

隣の席では、レオンハート王国の近衛騎士団長ハガルと、ルナミス帝国の近衛騎士団長キュロスが、龍魔呂特製の『ピイカラ』をちびちびと齧りながら、それぞれ自国の酒を飲んでいた。

「ふぅ……」

龍魔呂はカウンターの中でエプロンを外し、ポケットから赤い箱――『バレッド』を取り出した。

カチッ……!

真鍮のライターで火を点け、紫煙を吐き出す。すると、三人の顔が一斉にこちらを向いた。

「……おい、龍魔呂」

キュロスが、いかにも言いにくそうに咳払いをした。

「その『バレッド』だが……我がルナミス帝国軍の物資と、大量に交換トレードしないか?」

「ほう」

龍魔呂が煙草を咥えたまま目を細める。「何と交換する気だ?」

キュロスは少し目を泳がせながら、声を潜めた。

「我が軍の誇る魔導戦闘糧食……『MRE型』だ。栄養価は完璧で、保存も利く。これをトラック数台分、バレッドと交換でどうだ?」

ピタッ。

その言葉が出た瞬間、隣で飲んでいたハガルの黒豹の耳が限界まで逆立ち、全身の毛が逆立った。

龍魔呂はふっと鼻で笑い、バレッドの灰を落とした。

「……キュロス。てめぇ、俺を舐めてんのか? それ、完全な『ハズレ』だろ」

「なっ……! なぜお前がMREの存在を!?」

「ニャングルの情報網を甘く見んな。……聞いたぜ? 栄養価だけを追求して味をガン無視した結果、濡れたスポンジと劣化したゴムの味がする『ゲロオムレツ』ができたってな。おまけに、腹を空かせた占領地の孤児たちに善意で配ったら、『俺たちを殺す気か!』ってブチ切れられて、石を投げられたらしいじゃねぇか」

「ブッ……!!」

横で聞いていたルーベンスが、思わずイモッカを吹き出した。

「こ、孤児に石を投げられる軍用糧食!? 帝国はどんな拷問器具を開発しているんだ!」

「やめとけ、キュロス」

ハガルが本気で嫌そうな顔をして、自身の鼻を覆い隠した。

「我が国の特殊部隊(人狼族)が、風下からあのMREの『焦げた魔導回路と濡れた獣の体臭を混ぜたような臭い』を嗅いで、戦意喪失して吐いたことがある。……この素晴らしい『鬼龍』の飯が不味くなる。今すぐその話題をしまえ」

敵国の暗殺者にすら「兵器」として恐れられているMRE型。

キュロスは肩を落とし、両手で顔を覆った。帝国の誇り高き騎士の、あまりにも哀愁漂う姿だった。

「俺だって……俺だって、内務官のオルウェルに言ったのだ!!」

キュロスが半ばヤケクソ気味にジョッキを叩きつけた。

「『あんな物は兵士への冒涜だ! 軍法会議モノだぞ!』と直訴した! だが、あの効率狂いの眼鏡は『コストが10分の1に抑えられています。栄養は足ります』と一歩も引かんのだ!」

キュロスは頭を抱え、さらに愚痴をこぼし始めた。

「とにかく安くてな……倉庫に山のように量だけが余っているのだ。兵士たちは誰も食わん。最近では、最前線の兵士たちがこれを食事としてではなく、『敵の魔族の頭に投げつける投擲武器』として運用し始めている! 最早、物理的な石化クラッカーの方が魔導地雷より有用なのだぞ! どうにかしてくれ!!」

「知るかよ。てめぇの国の兵站(尻拭い)を、俺に押し付けんじゃねぇ」

龍魔呂は呆れ果ててため息をついた。

「しかしだな、龍魔呂……!」

「うるせぇ。……まぁ、バレッドが欲しいってんなら、売ってやらねぇこともねぇが」

龍魔呂はカウンターの下から、赤い箱を3カートン(30箱)ほどドンッとテーブルに置いた。

「なっ……!」

「これは……!」

三人の目の色が変わる。

「産廃(MRE)との交換はお断りだが、適正価格の金貨なら売ってやるよ。今日は特別にお忍びの『ダチ』としての飲み会だ。……市場に流す前に、少しだけ融通してやる」

「た、龍魔呂ォォ……!!」

キュロスが感極まった顔でバレッドの箱を抱きしめる。

ハガルとルーベンスも、我先にと金貨をカウンターに叩きつけ、赤い箱を懐へと素早く回収した。

「ふーっ……」

さっそくバレッドに火を点け、紫煙を吐き出して至福の表情を浮かべる三人のトップ。

会議室では絶対に見せない、ただの「疲れ切った男たち」の顔がそこにはあった。

「ったく、どこのてっぺんも苦労が絶えねぇな」

龍魔呂は笑いながら、彼らのグラスに酒を注ぎ足した。

「ほら、さっさと飲んで、さっさと食え。……明日からまた、お互いのシマで殺し合い(ビジネス)すんだろ?」

「フッ……違いない」

「貴殿の飯で、英気を養わせてもらうとしよう」

夜のポポロ村。

『居酒屋 鬼龍』のカウンターでは、三カ国の首脳と一人の農業ヤンキーが、肩を並べてグラスをぶつけ合っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ