EP 6
赤い衝撃、バレッド誕生
ポポロ村の秘密の実験農場。
そこには、龍魔呂の徹底した土壌管理とリリスの(ルチアナのクレカ決済による)苗提供、そしてキャルルの献身的な水やりによって、青々と、しかし力強く育った煙草の葉が並んでいた。
龍魔呂は、丁寧に乾燥・熟成を終え、太陽芋の糖蜜でケーシングを施した漆黒に近い褐色の葉を、手際よく紙で巻いていく。
「……よし。ブライト・バージニアから一文字貰って、そこに俺の好きな色『赤』を合わせる。……名付けて、『バレッド・スモーク』。……いや、『バレッド』だ」
龍魔呂は、出来上がったその一本を指に挟み、自作の赤いパッケージ――「バレッド」のロゴが入った箱に収めた。
それは、異世界の住人の喉を撃ち抜く「弾丸」であり、平和を繋ぐ「煙」となるはずの代物だった。
龍魔呂は、愛用の真鍮製オイルライターを手に取り、親指でフタを弾いた。
カチッ……!
静寂の中に響く、いつもの処刑の合図のような金属音。
灯った炎が「バレッド」の先端をじっくりと焦がしていく。
龍魔呂は深く、肺の奥までその煙を吸い込んだ。
「ふーっ……」
吐き出された煙は、驚くほど白く、そして濃密だった。
バージニア葉特有の芳醇な甘み。バーレー葉のガツンとくる重厚なコク。それらを、太陽芋由来の糖蜜がまろやかに包み込み、鼻を抜ける際にオリエント魔香草の神秘的な香りが余韻を残す。
「……上出来だ。中々旨ぇ」
龍魔呂は、自分の指先を赤く染めるような夕陽を見つめながら、その「弾丸」の味を噛み締めた。
「どれどれ、ワテにも一本……っ、ふ、ふーっ……!!」
隣で様子を伺っていたニャングルが、たまらず一本拝借して煙を吸い込んだ。
直後、彼の猫耳が限界までピンと立ち、尻尾が激しく左右に揺れた。
「こ、こりゃあ……凄まじい破壊力や! 喉を突き抜けるこの衝撃、そして後に残るこの上品な甘み……! 兄貴、これをお偉いさん方に流してみなはれ! ワテの耳には、もう金貨の音がチャリンチャリン聞こえて来ますがな!」
ニャングルは算盤を取り出し、目にも止まらぬ速さで珠を弾き始めた。
「サケスキーを一口飲み、ピイカラを噛み、仕上げにこのバレッドを吹かす……。この『三種の神器』が揃えば、ルナミスの将軍も魔皇国の貴族も、ポポロ村に一生頭が上がりまへんで!!」
「龍魔呂さーん! 私にも……あ、私は飴玉でいいや。でも、その紫煙の匂い、すごく落ち着きますぅ……♡」
キャルルが龍魔呂の腕に寄り添い、煙の香りを幸せそうに嗅いでいる。
「うへへぇ……これでまたルチアナ先輩のスマホから、新作のゲーム機をポチっても文句言われないですぅ……」
リリスは相変わらずFX奴隷戦士の画面を見ながら、他人の金で贅沢する算段を立てていた。
龍魔呂は短くなったバレッドを携帯灰皿に押し付け、再び畑を見渡した。
酒、つまみ、そして煙。
男の欲望を支配する三つの柱を、このポポロ村で完成させた。
あとは、この「弾丸」を世界に向けて放つだけだ。
「……さて、ニャングル。次のシノギの準備だ。このバレッドを持って、もう一度あの三人を呼び出せ」
「へい! 喜んで! 三カ国の首脳陣を『ニコチン中毒』にして、ポポロ村の奴隷にしたるさかいな!」
ニャングルの邪悪な笑い声が、夕暮れのポポロ村に響き渡る。
農業ヤンキーの「弾丸」が、いよいよ大陸のパワーバランスを根底から撃ち抜こうとしていた。




