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チートはいらねぇ。農高ヤンキー、拳と畑で異世界のてっぺんへ  作者: 月神世一


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EP 5

FX奴隷戦士と、小学生の煙草ブレンド

とある、よく晴れたのどかな昼下がり。

村長宅の縁側で、龍魔呂は眉間を深く寄せていた。

「チッ!……残り数本か」

黒い学生服のポケットから取り出した『マルボロ赤』の箱。軽く振ってみると、カサカサと心細い音が鳴る。残りはわずか三本。異世界において、現代地球の煙草は補給の利かない完全なロストテクノロジー(?)である。

(リリスにスマホで出させるのは簡単だが……それじゃあ農家の男として『芸』がねぇな。どうせなら……)

龍魔呂が新たな農業的野心を燃やし始めたその隣で、ピコピコ、ズバババッ!というけたたましい電子音が響いていた。

「パンプ! パンプぅ! そこから一気にダンプですぅ! ああっ、ロストカット(強制ロスカット)ですぅ! ルチアナ先輩の証拠金が消し飛びましたぁ! さぁ、借金返済のためにマグローザ漁船(カニ工船)にドナドナされて下さいですぅ〜! ギャハハハッ!」

ピンクジャージ姿のリリスが、胡座をかいて『エンジェルすまーとふぉん』の画面を血走った目で鬼タップしている。

「……趣味悪い事してんな、お前」

龍魔呂が呆れて声をかけると、リリスは画面から目を離さずにニチャアと笑った。

「あ、これすっごく面白いんですよ! 『FX奴隷戦士』って言って、地下帝国ドンガンのドワーフさんが開発した最新の投資(破滅)シミュレーションアプリなんです! 借金を背負ったキャラをマグローザ漁船に乗せて、地下チンチロでさらにむしり取るんですぅ!」

「ゲームオーバーになったら、それこそ電車かトラックに轢かれて、こっちの世界に異世界転生してきそうだな……。まったく」

神界の先輩女神をゲームの中で漁船送りにするポンコツ後輩の闇の深さにため息をつきつつ、龍魔呂は本題を切り出した。

「まぁ、それはどうでもいい。リリス、地球むこうのネット通販から『ブライト・バージニア』の種か苗を出してくれ」

「ブライト・バージニア? 何ですか? それ」

リリスがスマホから顔を上げ、きょとんと首を傾げる。

「旨い煙草の葉っぱだ。……ポポロ村の畑で、俺のブレンド煙草を生産するのさ」

「えっ!? 龍魔呂さん、煙草の葉っぱから自分で作るんですか!?」

縁側でお茶を飲んでいたキャルルが、目を丸くして身を乗り出した。

「あぁ。俺の口に合う重くて甘い煙を、この村の土で作ってやる」

龍魔呂は空を見上げ、頭の中で完璧な『ブレンドレシピ』の構築を始めた。農業高校で培った知識と、不良として培った(?)紫煙へのこだわりがフル回転する。

「ベースにするのは、甘みとマイルドさを持つ地球の『ブライト・バージニア』。……そこにボディ(吸いごたえ)を持たせるために、地元ポポロ産のポポロシガーに使われてる『バーレー系』のタバコ草を強めに配合する」

「ほぉほぉ……」

いつの間にか現れたニャングルが、算盤を抱えながら興味津々でメモを取り始めている。

「次に香り付けだ。アロマを引き立てるために、この世界特有のオリエント系『魔香草』を少量だけブレンドしてアクセントにする。……そしてここからが重要だ」

龍魔呂は不敵に笑い、指をパチンと鳴らした。

「仕上げに、ポポロ村の特産である『太陽芋』から抽出した微糖蜜モラセスを葉に吹きかけ、ケーシング(味付け)を行う。太陽芋の濃厚な甘みが、バージニアの甘さとバーレーの辛味を完璧に繋ぎ合わせるんだ。あとは火入れして、風通しの良い日陰でじっくりゆっくり乾燥キュアリングさせる……。これで、世界に一つだけの『鬼神ブレンド』の完成だ」

スラスラと、さも当然のように語られた煙草の栽培・ブレンド・熟成キュアリングの超専門的な工程。

ニャングルは持っていたメモと筆を落とし、あんぐりと口を開けた。

「あ、兄貴……。あんた、ほんまに『高校3年生』でっか……? 煙草の葉のブレンドから糖蜜熟成ケーシングまで、なんちゅう知識量や……。ルナミス帝国の専売公社の技師でも、そこまで詳しくおまへんで!?」

年齢詐称を本気で疑うニャングルのツッコミに対し、龍魔呂はポケットから角砂糖を出してボリッと噛み砕き、極めて真顔でこう言い放った。

「……何を言ってんだ。一般教養だ。小学校の生活科で習うだろ、朝顔の観察と一緒にな」

「「「そんなわけ有るかああああああッ!!!」」」

キャルル、リリス、ニャングルの三人の完璧に息の合ったツッコミが、ポポロ村の青空にこだました。

地球の小学生が煙草のブレンドと糖蜜熟成を習うわけがない。しかし、龍魔呂のあまりにも堂々とした態度に、「日本の小学校って恐ろしいところですぅ……」とリリスが本気で戦慄する始末であった。

かくして、ルナミス帝国にもレオンハート王国にも真似できない、最高級の嗜好品『鬼神ブレンド(特製煙草)』の栽培プロジェクトが、ポポロ村の畑の片隅でひっそりと(しかし壮大に)スタートすることになったのである。

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