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チートはいらねぇ。農高ヤンキー、拳と畑で異世界のてっぺんへ  作者: 月神世一


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EP 4

バレッド・スモーク(煙草が撃ち抜いた外交)

喫煙所に漂う、四つの紫煙。

地球の煙草『マルボロ赤』の重い煙が、異世界の夜風に溶けていく。

「……よし! 若造、後は任せておけ」

キュロスが咥えていた煙草を携帯灰皿に落とし、帝国騎士団長としての力強い笑みを浮かべた。

「お前が手塩にかけた宝だ。つまらぬ意地で偏らせるような真似はせん。……帝国は、必要な分だけを適正な価格で買わせてもらおう」

「俺も同意見だ」

ハガルも黒豹の耳をピンと立て、武人の顔で頷く。

「独占はしない。獣人王国の兵たちにも、他国の兵たちにも、この美味い酒とピイカラを平等に味わう権利がある。……何より、美味いものを皆で分かち合うのが『俺たちの火を点けてくれた男』の龍儀ルールなら、それに従うのが筋というものだ」

敵対しているはずの二カ国のトップが、あっさりと「独占契約の放棄」を宣言した。

軍事的なパワーバランスよりも、目の前にいる一人の農高ヤンキーの美学を尊重したのだ。

その様子を見て、龍魔呂はふっと頬を緩め、声に出して笑った。

「ハハハ。……親父が言ってたな。大抵の物事は、会議室なんかじゃなくて『喫煙所と酒場』で決まるって。ちげぇねぇな」

「ガハハハッ! そうともよ!」

キュロスが豪快に笑い飛ばし、龍魔呂の太い肩をバンバンと叩く。

「会議室の堅苦しい椅子の上なんかで、男の本音が出るわけがない! ライターの火を分け合い、煙を吐き出して初めて見える『腹の底』ってもんがある!」

「まったく、帝国の武骨者と意見が合うとはな」

ハガルも皮肉っぽく笑いながら、しかしその瞳には確かな親愛の情が宿っていた。

静かに煙を燻らせていたルーベンスが、ふと龍魔呂の隣に立ち、そのスマートな顔に「素の親父臭い笑み」を浮かべた。

「龍魔呂。……貴方とは本当に気が合いそうだ。今度、休日にルナミスの競馬場近くにある、小汚いが最高に美味い大衆食堂へ行こう。特盛の『焼飯』と餃子を奢ろうじゃないか。もちろん、イモッカの熱燗付きでな」

「ほう、魔皇国の貴公子様が競馬と大衆食堂か。面白ぇ。俺の『黄金チャーハン』とどっちが美味いか、舌で確かめてやるよ」

龍魔呂がニヤリと応じる。

大陸を二分、いや三分する巨大な緊張関係(冷戦)が、たった一本の『マルボロ赤』の煙草と、ヤンキーの飾らない言葉によって、撃ち抜かれた瞬間だった。

弾丸バレットではなく、男たちの絆を繋いだ紫煙――まさに『バレッド・スモーク』である。

「さぁさぁさぁ! 休憩終わりでっせ! 偉いさん方!」

会議室(迎賓テント)に戻ってきた三人を、ニャングルが算盤をチャキチャキと鳴らしながら、今か今かと待ち構えていた。

その目は完全に「金貨のマーク」になっている。

「さぁて、先ほどはレオンハート王国が『金貨一万二千枚』まで値を上げましたな! 帝国さん、魔皇国さん、どうでっか!? まだまだポポロ村の独占権、いけまっせ!」

ニャングルが煽り立て、キャルルとリリスがゴクリと息を呑む。

これから始まる、血で血を洗うオークションの再開。そう思っていた。

だが。

「いや。オークションは終わりだ、ニャングル殿」

キュロスが腕を組み、静かに、しかし威厳のある声で宣言した。

「は……? お、終わり? 終わりって、どなたが独占契約を……」

計算が狂い、猫耳をピクッとさせるニャングル。

「誰も独占はしない」

ハガルが一歩前に出た。

「ルナミス帝国、レオンハート王国、アバロン魔皇国。この三カ国で、ポポロ村の『サケスキー』『イモッカ』『ピイカラ』を、均等に、適正な価格で買い受ける。利益を釣り上げるための争いは、これにて手打ちだ」

「はぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

ニャングルの悲鳴のような裏返った声が、テント内に響き渡った。

「き、均等!? 適正価格!? ちょ、ちょっと待ちぃな! さっきまであんなに血眼になって『ワテが独占するんや!』って言うてはりましたやんか!? な、なんで急にそんな平和的な……」

パニックに陥り、算盤を落としそうになるニャングル。

そんな彼をよそに、ルーベンスが爽やかな(しかしどこか満ち足りた)笑みを浮かべて言った。

「旨い物は、皆で分かち合って食べた方が美味しいからな。……そういうことだ」

三人の視線の先には、テントの入り口でダルそうに首を鳴らし、ポケットの角砂糖をボリッと噛み砕いている190cmの巨漢の姿があった。

「あ、兄貴……! あんた、外の喫煙所で一体どんな魔法を……! ワテの、ワテの莫大な超過利益ぼろもうけがあぁぁぁ!」

膝から崩れ落ち、算盤を抱きしめて涙を流すニャングル。

「すごい……三国が争うこともなく、平和的に契約がまとまるなんて……!」

キャルルは龍魔呂の底知れぬ器の大きさに、ますますヤンデレの熱を上げている。

「わぁい! 適正価格でも、三カ国分なら結構な額になるですぅ! これでデパ地下の……」

リリスは相変わらず自分の欲望の計算しかしていなかった。

かくして、ポポロ村の存亡と利益を懸けた『三カ国試食会』は、農業ヤンキーの「食の龍儀」と、喫煙所での男たちの繋がりによって、最高に平和的かつ強固なビジネスモデルとして幕を閉じたのであった。

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