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チートはいらねぇ。農高ヤンキー、拳と畑で異世界のてっぺんへ  作者: 月神世一


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EP 2

三国の刃と、貧乏ゆすりの貴公子

ポポロ村に新設された、風通しの良い野外迎賓テント。

その円卓を囲むように、大陸のパワーバランスを象徴する三人の男たちが対峙していた。

「ほう……。貴様らも来たのか」

重厚な魔導甲冑に身を包み、鋭い眼光で他国を睨み据えるのは、ルナミス帝国・近衛騎士団長キュロス。近代魔導兵器の時代にあって、己の剣と闘気に絶対の誇りを持つ帝国の武刃だ。

「ポポロ村は特異点。……お主らのような人間に、この要衝を出し抜かれるわけにはいかんからな」

キュロスの視線を受け流し、静かな声で応じたのは、レオンハート獣人王国・近衛騎士団長ハガル。黒豹耳族特有のしなやかな筋肉と、いつ爆発するかわからない静かなる殺気を纏う、王国の影の暗殺者。

「まぁまぁ、お二人とも。そう腹の探り合いはやめましょう。今回はあくまで『ビジネス』に来たのですから。血生臭い話は抜きにしたいものです」

涼やかな笑みを浮かべ、二人を仲裁したのはアバロン魔皇国の貴公子・ルーベンス。

絶大な魔力を持つ穏健派の魔族であり、常に余裕を見せるスマートな男――のはずなのだが。

(カタカタカタカタカタカタッ……!)

テーブルの下で、ルーベンスの足の貧乏ゆすりが止まらなかった。

実は彼、大の競馬好きであり、休日には赤提灯の居酒屋で芋酒イモッカを煽るのを無上の喜びとする親父臭い一面を持っている。

彼の鼻は、テントの奥から漂ってくる『酒と極上の乾物』の匂いを完全に捉えていた。スマートな貴公子の皮を被りながら、内面では(早く飲ませろ! 俺にその酒を飲ませろ!)と、親父の禁断症状が暴走していたのだ。

「ふん!」

キュロスとハガルが互いに鼻を鳴らし、一触即発の空気が漂った、その時。

「お待たせ致しましたぁ! 三カ国の偉いさん達、ようこそポポロ村へ! ワテは、この村で財務を担当しとるニャングルと言いますねん!」

胡散臭さ満点の関西弁と共に、煙管をふかした猫耳族の青年が現れた。

それに続いて、

「せ〜のっ! ポポロ村へ!」

「ようこそ〜! パチパチパチーッ!」

パーーーンッ!!

キャルルとリリスが、テントの両脇から派手にクラッカー(ルチアナのクレカで神界から取り寄せた現代風の特大クラッカー)を鳴らし、色とりどりの紙吹雪を三カ国のVIPたちに盛大にぶちまけた。

「な、何だ貴様ら……!」

殺気立って剣に手をかけようとしたハガルだったが、紙吹雪の中から現れた銀髪の兎耳の少女の顔を見た瞬間、その黒豹の瞳が限界まで見開かれた。

「キャ、キャルル姫ッ!? だ、第三姫君が、何故このような辺境のポポロ村に!? アーサー王が、貴女の失踪をどれほど心配しておられたか……!」

レオンハート王国から突如姿を消した王族が、まさかこんな緩衝地帯にいるとは。冷静沈着なハガルがパニックを起こし、椅子を蹴立てて立ち上がる。

だが、キャルルは特注の安全靴をコツコツと鳴らしながら、小首を傾げて悪戯っぽく微笑んだ。

「え〜? 今の私は、ただの『ポポロ村の村長』。それ以上でも、それ以下でもありません事よ? 騎士団長殿♡」

「し、しかし!? 貴女には王族としての義務が……」

ハガルが食い下がろうとした瞬間、テントの奥から、圧倒的な質量を伴う「足音」が近づいてきた。

「……待たせたな」

ずしり、とした声と共に現れたのは、190cmの巨躯を黒い学生服に包んだ龍魔呂だった。

手には大きなお盆を持ち、口にはマルボロ赤を咥えている。

魔法も使わず、闘気も発していない。ただ歩いてきただけだというのに、キュロス、ハガル、ルーベンスの三人は、本能的なアラートを鳴らして一斉に身構えた。

(この男……! ただの給仕ではない。凄まじい『場数』を踏んできた死線の匂いがする……!)

三人の猛者たちが同時に戦慄する中、龍魔呂はドンッ!と音を立ててお盆をテーブルに置いた。

そこには、美しく透き通る『サケスキー』と琥珀色の『イモッカ』のグラス。

そして、三色の皿に盛られたピラダイの干物――『赤鬼(辛味)』『青鬼(甘辛)』『黄鬼(塩味)』の三種の【ピイカラ】が並べられていた。

「一杯、やってくれ」

龍魔呂の短い言葉を合図に、限界を迎えていたルーベンスが真っ先に手を伸ばした。

「どれ……!」

ルーベンスはイモッカのグラスを呷り、すぐさま『赤鬼辛味ピイカラ』を口に放り込む。

バキッ! という硬質な食感の後に、ピラダイの極上の旨味と、容赦のない唐辛子の辛さが脳天を突き抜ける。その辛さを、度数37度のイモッカの芳醇な香りが力ずくで洗い流した。

「……ッ!! 旨いッ!! このイモッカとピイカラの相性、恐ろしいほどの破壊力だ……!」

スマートな貴公子の仮面が剥がれ落ち、ルーベンスは完全に「赤提灯で仕上がる親父」の顔になって歓喜に震えた。

「むむっ!」

つられたハガルも、『サケスキー』を口に含み、『黄鬼塩ピイカラ』を咀嚼する。

「な、なんだこれは……!? 濃厚な魚の旨味が塩気で極限まで引き出され、吟醸香のするサケスキーと完璧に絡み合う……! 獣の闘気オドが腹の底から湧き上がってくるようだ! たまらん!」

「馬鹿な……田舎村の保存食が、帝国の宮廷料理を凌駕しているというのか!?」

キュロスも『青鬼甘ピイカラ』の絶妙な甘じょっぱさに完全に虜になり、グラスを持つ手が止まらなくなっていた。

「うむ! 酒が進む! まったくもって進むぞ!!」

ロマンチストな騎士団長も、己の欲望には勝てなかった。

三国のトップが、龍魔呂の作った酒とつまみの前に完全に陥落し、夢中でグラスとピイカラの無限ループに突入している。

「ヘッヘッヘ……」

その様子を眺めながら、ニャングルが煙管をふかし、手元の算盤をチャキッと鳴らした。

「さてさて……サケスキーとイモッカ、そして『ピイカラ』の圧倒的な実力はお分かりになりましたやろ? それでは偉いさん方……」

ニャングルの瞳が、極悪な商人のそれへと変わる。

「客の胃袋を完全に掴んだところで……本番の『商談』、始めさせてもらいまっさ!」

最強の農業ヤンキーが放った『飯テロ』の弾丸が、三カ国の首脳陣を完璧に撃ち抜いた。ポポロ村の経済下剋上が、凄まじい勢いで回り始める。

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