EP 15
背徳のガーリックバター醤油と、月夜の紫煙
激闘と、潰れた太陽芋の畑の復旧作業を終えたポポロ村の夜。
村長宅のキッチンに、190cmの巨躯がエプロン姿で立っていた。
「さて……何にするか。やっぱ、あの太陽芋を使うしかねぇな」
龍魔呂の目の前には、泥を落として綺麗に洗われた黄金色の『太陽芋』。そして、村の備蓄庫からニャングルが意気揚々と持ってきた『シープピッグ(羊豚)』のブロック肉だ。
龍魔呂は迷いなく包丁を握った。
トントン、と小気味良い音が響く。シープピッグの肉を厚めに切り出し、次に『ネタキャベツ』を乱切りにする。「ちょっと奥さん聞きましたぁ?」とゴシップを喋りかけようとしたキャベツを、コンマ一秒の包丁さばきで黙らせる。
熱した巨大なフライパンに、たっぷりのバターを落とした。
ジュワァァァッ! と、黄金色の海がフライパンに広がる。そこへスライスしたガーリックを投入し、弱火でじっくりと香りを引き出していく。
「はあああ……っ! 何て良い匂いなのぉ……♡」
リビングのソファーから、リリスが床を這うようにしてキッチンへ近づいてきた。
「さっき、龍魔呂さんたちに全力の回復魔法を使ったから、お腹ペコペコなんですぅ……。もう限界ですぅ……」
「ここからだ。黙って見てろ」
ガーリックがカリカリに色づいたところで、シープピッグの豚肉を投入する。
ジュゥゥゥゥッ!!
羊肉の深いコクと豚肉の脂の甘みが、強火で一気に閉じ込められる。肉の表面が焼けたら、乱切りにしたネタキャベツと、あらかじめ下茹でしておいたホクホクの太陽芋をドサッと加えた。
フライパンを煽るたびに、バターとニンニク、そして獣脂の匂いが暴力的に入り混じる。
「とどめだ」
龍魔呂は、仕上げに『醤油草』から搾り取った極上の醤油を、フライパンの鍋肌に沿って回し入れた。
ジューーーッ!!
焦げた醤油の香ばしさが爆発し、部屋中の空気を一瞬で「食欲の権化」へと染め上げた。
「きゃあああああっ! 罪深っ! 背徳的すぎますぅっ♡」
キャルルが兎耳をバタバタとさせて身悶えする。
「出来たぞ」
龍魔呂は大皿に山盛りに盛り付け、テーブルの真ん中にドンッと置いた。
「『背徳・ガーリックバター醤油豚肉炒め』だ。食いな」
「「「いただきます!!」」」
三人は猛獣のように皿へ群がった。
「こ、こりゃあ……たまらん!!」
ニャングルが目をひん剥いて叫ぶ。
「シープピッグの濃厚な脂を、太陽芋の甘みがガッチリ受け止めとる! そこに醤油とニンニクのパンチが効いて……米麦草が無限に消えていきよるで!!」
「美味しいよおおおぉぉ!」
リリスは口の周りをバターと醤油でテカテカにしながら、涙を流して肉と芋を掻き込んでいる。セレスティアの大食い女王の面目躍如たる食べっぷりだ。
「好きすぎるっ! こんな美味しいもの、毎日食べたら私……背徳すぎるぅぅぅ♡」
キャルルは完全に語彙力を失い、幸せそうに頬を抑えながら肉を咀嚼している。
ガツガツと飯を食う、騒がしくも温かい異世界の食卓。
龍魔呂はその光景を静かに見つめながら、自分の分の食事をあっさりと平らげた。
東京のストリートで、愚連隊の頭として常に孤独と責任を背負ってきた彼にとって、このどうしようもなく騒がしい連中との夕食は、妙に居心地が良かった。
食後のコーヒー代わりに、龍魔呂は学生服のポケットから『マルボロ赤』を取り出し、一本咥えた。
使い込まれた真鍮製のオイルライターを取り出す。
カチッ……!
澄んだ金属音が鳴り、オレンジ色の炎が揺れた。
深く煙を吸い込み、ゆっくりと天井へ向かって吐き出す。紫煙が、バターと醤油の匂いが残る部屋に混ざっていく。
「……感謝してるぜ」
ぽつり、と。
龍魔呂の口からこぼれた低い声に、三人の手がピタリと止まった。
「お前ら。……ありがとうよ」
ヤンキー特有の、ぶっきらぼうだが嘘偽りのない、まっすぐな感謝の言葉。
ただの不良なら口が裂けても言わないセリフだが、義理人情を重んじる『鬼神龍魔呂』だからこその本音だった。
「え……!?」
キャルルの兎耳がピンと立ち、顔がポンッと赤く染まる。ニャングルもリリスも、突然のデレに目を丸くして固まっていた。
「……っ!」
自分が口にした言葉の気恥ずかしさに気づいた龍魔呂は、チッと小さく舌打ちをした。
そして、椅子から立ち上がって窓辺へと歩み寄り、夜空に浮かぶ異世界の二つの月を見上げた。
「……何でもねぇ。さっさと食え」
照れ隠しのように、窓の外へ向かって深々と煙を吐き出す。
その広く大きな背中を、三人は何とも言えない温かい目で見つめていた。
農高最強のヤンキーが、異世界で拳を振り、土を耕し、飯を振る舞う。
ポポロ村を起点とした、彼らの「てっぺん」を獲るための伝説は、まだ始まったばかりだった。
【第一章:農業ヤンキーの龍儀】 完




